春の風が差し込む白い部屋。

ベッドの上にはCDと雑誌と小さくまとめられた荷物。


「ハイ♪具合はどうだい？」

白衣に身を包んだ小太りの医師は陽気に外を眺めていた女の子の頭を撫でる。


「………ドクター。
今日も元気ですね(笑)
お陰様でもうすっかり。
ナース達が話すドクターの愚痴までしっかり聞き取れるようになりましたよ(笑)」

少し髪の伸びたその子は嬉しそうにドクターと呼んだその男を見上げる。

「そいつはけっこう。
そんなにナースに人気ならもっと稼げるように残業でもしてもらおうかな？
検査結果も問題なかったし、これで無事に日本に帰れるな。」

「ありがとうございます。長い間お世話になりました。」


ペコリと女の子が頭をさげるとおどけたように両手を広げる。

「しかし、残念だよ。君の奏でる日本の笛は患者にもナース達にも人気だったのに。」

それを聞くと、彼女は呆れたように笑った。


「いくら人気だって、ドクターが勝手にSNSに上げるのは困ります。私はプロじゃないんですから。」

「プロじゃなくてもそこまでの腕があれば良いじゃないか。
日本からも良い反響はあったんだぞ！
君の好きな、えっと～………そう！
和楽器バンド！
あれにも入れてもらえる！」


「いえ、あのバンドはあの形で良いんです。
さて、飛行機の時間になっちゃう。
そろそろ行きますね。」

CDと雑誌をバッグにしまって荷物を持つと、ドクターは少し残念そうにしていた。


「また、何かあったらいつでもおいで。
浅葱、俺は君のドクターだ。」


「ありがとうございます。ドクターも、日本に来たときはご連絡ください。美味しい物、ご馳走しますから。」

優しくハグをするとドクターは手を上げて見送ってくれた。