ギターの雑誌をめくっていると、浅葱がお風呂から出てくる気配があった。


少し落ち着けるように暖かく入れたミルクティーの用意をしてると、背後から声がした。


「眞………？」

「んー？どうした？」

顔は見ずに返事を返す。
今は表情は見られたくないのかもしれない。


「眞は………有名な人なの………？」

浅葱の言葉に体が強ばるのがわかった。



なんで………
お前がそんなこと言い出すんだ………

さっき一瞬消えかけた心の黒い濁りがまたぶり返した気がした。
答えたくない………
知られたくない………


「お前には………関係ない………」
口から出た言葉にハッとした。

聞こえてないことを祈りながら振り返ると浅葱は「？」といった顔でこちらを見ていた。

「なんのこと？そんなわけないじゃん？」
作り笑いをしながら首を振ると
「そっかー♪」
納得して髪を乾かしに行った。


きっと聞こえてなかった。
背中を向けて話してたからきっとわかってない。


そう願うしかなかった。


俺はその時気づけなかった。
髪を乾かす浅葱の手が震えていたことを………。


それからは、お互い何ごとも無かったかのように、ごく普通に食事したり、普通に話したりした。



そして、浅葱が話してくれた。

仕事が少なくなり、都会のこじんまりした工場だから、もうすぐ閉めることを。
苦笑いをしながら
「また新しい仕事探さなきゃ♪」



都会の小さな工場は、こうして無くなってくんだと、少しだけ実感した瞬間だった………