第5章 忍び寄る闇

その瞬間……。頭が朦朧とし座っていられず、その場にしゃがみ込む。


「…さあこれを。これを開けて匂いを嗅ぐのだ。……そして唱えよ、魔法使いよ」

誘導されるように瓶のふたを開け、ルエリーヌはその匂いをかいでしまった。


ゆっくりと顔を上げたルエリーヌは虚ろな目で、ある言葉を口にしようとしていた。



その言葉は、古くからある呪文だがその危険度は高く使う事を禁止されている。

それを口にした者は闇に魂を食われ、この世の者ではなくなる………滅びの呪いであった。



「…イクルス・デルタ………」"古より伝えられし歌よ"

ルエリーヌは、この言葉を口にしたのをきっかに自身が操られている事に気付くき、反対呪文を唱えようとするが、体が動かない。



「……ひひ!…無駄じゃよ。お主の体はわしが操っておるでのう?……ほーれ。次の呪文を言うのだ」

不気味な笑い声を上げた老婆は、更にルエリーヌに暗示をかけた。




「…アルヴェンタレ・べリアムズ」"この声を聞き、闇は広がる"

「…ヴォルザランペ・フェビガ」"全てを闇に包み"



そこまで唱えるとルエリーヌの体の周りに黒く闇のような煙が巻き付いた。

次の呪文を唱えてしまうと、魂は食われるだろう。

何故、あの時見抜けなかったのだろう。

あの魔法薬には錯乱魔法がかけられていたから、この人物が何者かと分かっていたのにー。


匂いを嗅ぐ前に気付いていれば………。



ルエリーヌは最後に残されていた気力を絞り、唇を噛み締めていた。


「…おやまあ、まだそんな力があるのかえ?しぶとい魔法使い。あともう一息だ。今、楽にしてやろう」

溢れ出す闇に囚われるようにルエリーヌの体を取り巻き思考を奪う。


「…ペべディル・ヴィラティオ」"この滅びの呪いで"

そう言い終わる前に、眩い光と誰かの声が遠くから聞こえた。
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