短編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Dear Tesoro,
ブックマンは紙の記録を持たない。
必要なものは全て頭の中に入っている。オレにとって敢えて文字を書き残すというのは第三者に伝えるための特別な手段という認識だ。
だから、***にラブレターを書くことにした。
───────────────────────
「ラビ、これあげる」
誕生日でも何でもない日に***にプレゼントをもらった。「ラビみたいだった」と言って、染色されているのか青緑のような色に濃いオレンジの差し色が入った羽ペンを差し出され、***から見たオレってこんな色なのか、と少し照れ臭くなった。
「使わなかったら服の飾りにでもしてよ」
オレが報告書以外に書き残すということをしないと知っている***はそう言ったが、使うときのためにインクも丁寧に添えられているとあっては使わないわけにはいかない。何より、黒に近い深い緑のインクは洒落ていて使ってみたくなったのだ。
新聞や本で埋もれた部屋のデスクになんとか少しだけ隙間を開けて、既に中身を頭の中に入れている新聞紙を引っ張り出して隙間に線を引いてみる。報告書にはインクが一体になったペンを使っているし絵を描いてみたくなったら鉛筆を使うから、書いて残す習慣のないオレはそもそも羽ペンをあまり触ったことがないことに気が付いたのだった。この機会に覚えておいても損はない。なんかカッコいいし。じじいがやっていた所作を思い出して、ペン先にインクを浸してひたすら線を書く練習をする。
「おー、すげェ…」
「何やっとる」
「うわぁ!!!」
いつの間にか部屋に戻ってきていたじじいが手元を覗き込んでいた。脅かされたことに文句を言って、また線に集中する。じじいはしばらくこちらを気にしながらたまに角度を直してくれて、オレが突然羽ペンを握った理由は特に聞かなかった。
線を引くのには慣れていざ文字を書いてみようと思ったが、まず***の名前を書いてみて気付いた。
報告書を書くときのように筆を走らせたら字体が整然としすぎていて、これはとても愛を語る文字に見えない。普通なら書く内容に頭を悩ませるのだろうが、言葉は余るほど出てくるのにそれを表現するのに相応しい字がログの中に見つからなかった。これなら直接語って聞かせたほうがマシかもしれないが、せっかくだから何か書いて渡したい。
「あ」
しばらく考えて、別にいきなり手紙でなくてもいいかもしれないと思い至った。とにかくこのペンで、インクで、何か書ければいい。誰かに相談しに行こうと立ち上がってふと気付く。
「なーじじい、これって使ったあとどうすんの?」
じじいに教えられた通りペン先のインクを落として、丁寧に仕舞って部屋を出た。なんだかじじいが妙に優しかった気がして、何でも聞いて何でも答えてもらっていた頃のことを少し思い出したりした。
───────────────────────
任務から戻ったら、自室のデスクに小さな花が生けてあった。花には詳しくないから名前はわからないけど、イチゴみたいに可愛らしいふわふわした花だ。誰の仕業か、一人しか思い付かない。すれ違いで任務に出ている赤毛を思い浮かべる。
花を眺めて、花瓶の側にカードが置かれていることに気付いた。とてもシンプルな愛の言葉が書かれていて、印刷かと思ったがよく見ると書き文字みたいだった。このインクの色には見覚えがある。任務先でふらりと入った雑貨屋で、光って見えるように素敵だった色。時間が経つと書いた色が鮮やかに変化していくと聞いて、きっと彼に似合うだろうと思わず贈ってしまったのだ。
「えー、これ書いたの…?綺麗すぎるでしょ…」
なんだかお菓子の箱に書かれた飾り文字みたいだ。もしかして記憶の中から似合う字体を探したのかもしれない。整いすぎていて個性がないと言ったのを聞いたことがあるけれど、どんな字体も再現できるのはそれはそれで才能だ。何処にでもあるようなカードなのにラビが書いたと思うと嬉しくて、丁寧に手帳に仕舞う。何でも覚えてしまう人がわざわざ残した文字だなんてかなり貴重に思えた。
文字の色は何年もかけて変わっていくらしい。この文字がどんな色になるのか、そのとき世界がどうなっているのか、少し怖いけど楽しみだ。あたしもお返しに何か書いてみようと、目を閉じて今までラビにもらった愛情を反芻した。
(ねぇラビ見て、こんな綺麗な色になったよ)
(あー、なに、それ…?)
(ブックマンって忘れたフリ下手だね)
ブックマンは紙の記録を持たない。
必要なものは全て頭の中に入っている。オレにとって敢えて文字を書き残すというのは第三者に伝えるための特別な手段という認識だ。
だから、***にラブレターを書くことにした。
───────────────────────
「ラビ、これあげる」
誕生日でも何でもない日に***にプレゼントをもらった。「ラビみたいだった」と言って、染色されているのか青緑のような色に濃いオレンジの差し色が入った羽ペンを差し出され、***から見たオレってこんな色なのか、と少し照れ臭くなった。
「使わなかったら服の飾りにでもしてよ」
オレが報告書以外に書き残すということをしないと知っている***はそう言ったが、使うときのためにインクも丁寧に添えられているとあっては使わないわけにはいかない。何より、黒に近い深い緑のインクは洒落ていて使ってみたくなったのだ。
新聞や本で埋もれた部屋のデスクになんとか少しだけ隙間を開けて、既に中身を頭の中に入れている新聞紙を引っ張り出して隙間に線を引いてみる。報告書にはインクが一体になったペンを使っているし絵を描いてみたくなったら鉛筆を使うから、書いて残す習慣のないオレはそもそも羽ペンをあまり触ったことがないことに気が付いたのだった。この機会に覚えておいても損はない。なんかカッコいいし。じじいがやっていた所作を思い出して、ペン先にインクを浸してひたすら線を書く練習をする。
「おー、すげェ…」
「何やっとる」
「うわぁ!!!」
いつの間にか部屋に戻ってきていたじじいが手元を覗き込んでいた。脅かされたことに文句を言って、また線に集中する。じじいはしばらくこちらを気にしながらたまに角度を直してくれて、オレが突然羽ペンを握った理由は特に聞かなかった。
線を引くのには慣れていざ文字を書いてみようと思ったが、まず***の名前を書いてみて気付いた。
報告書を書くときのように筆を走らせたら字体が整然としすぎていて、これはとても愛を語る文字に見えない。普通なら書く内容に頭を悩ませるのだろうが、言葉は余るほど出てくるのにそれを表現するのに相応しい字がログの中に見つからなかった。これなら直接語って聞かせたほうがマシかもしれないが、せっかくだから何か書いて渡したい。
「あ」
しばらく考えて、別にいきなり手紙でなくてもいいかもしれないと思い至った。とにかくこのペンで、インクで、何か書ければいい。誰かに相談しに行こうと立ち上がってふと気付く。
「なーじじい、これって使ったあとどうすんの?」
じじいに教えられた通りペン先のインクを落として、丁寧に仕舞って部屋を出た。なんだかじじいが妙に優しかった気がして、何でも聞いて何でも答えてもらっていた頃のことを少し思い出したりした。
───────────────────────
任務から戻ったら、自室のデスクに小さな花が生けてあった。花には詳しくないから名前はわからないけど、イチゴみたいに可愛らしいふわふわした花だ。誰の仕業か、一人しか思い付かない。すれ違いで任務に出ている赤毛を思い浮かべる。
花を眺めて、花瓶の側にカードが置かれていることに気付いた。とてもシンプルな愛の言葉が書かれていて、印刷かと思ったがよく見ると書き文字みたいだった。このインクの色には見覚えがある。任務先でふらりと入った雑貨屋で、光って見えるように素敵だった色。時間が経つと書いた色が鮮やかに変化していくと聞いて、きっと彼に似合うだろうと思わず贈ってしまったのだ。
「えー、これ書いたの…?綺麗すぎるでしょ…」
なんだかお菓子の箱に書かれた飾り文字みたいだ。もしかして記憶の中から似合う字体を探したのかもしれない。整いすぎていて個性がないと言ったのを聞いたことがあるけれど、どんな字体も再現できるのはそれはそれで才能だ。何処にでもあるようなカードなのにラビが書いたと思うと嬉しくて、丁寧に手帳に仕舞う。何でも覚えてしまう人がわざわざ残した文字だなんてかなり貴重に思えた。
文字の色は何年もかけて変わっていくらしい。この文字がどんな色になるのか、そのとき世界がどうなっているのか、少し怖いけど楽しみだ。あたしもお返しに何か書いてみようと、目を閉じて今までラビにもらった愛情を反芻した。
(ねぇラビ見て、こんな綺麗な色になったよ)
(あー、なに、それ…?)
(ブックマンって忘れたフリ下手だね)