短編
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Happy Valentine's Day
教団にはいろんな国から人が集まっている。だから様々な人の様々な習慣が入り乱れていて、でもそれを否定したり拒絶したりしないのがここのいいところだ。今日はバレンタインデーなわけだけど、思い切って告白しようとする人、仲間同士でプレゼントを贈り合う人、関係なく素通りする人。そんな人たちを観察するのも楽しい日。
わたしはと言うと、リナリーがみんなにお菓子を配ってくれるというので楽しみにしている。まぁ、そんな程度だ。わたしの中でバレンタインデーというのは、恋人同士が愛を確認する日。恋人のいないわたしにとって、いつもよりちょっと多くお菓子が食べられる日にすぎない。食堂や談話室も、今日はお菓子が充実している。リナリーはどんなお菓子くれるのかな、なんて考えながら廊下を歩く。昼下がりの廊下は2月だというのに暖かい陽射しが差し込んで、なんだかぼーっとしてしまう。窓を開けて、外を眺めてみる。頬杖をついたまま寝てしまいそうだ。
部屋に戻って眠ろうか。そう思ったとき、後ろから体重をかけられた。窓枠にかけた手をさり気なく包むこの手は。少しだけ鼓動が速くなる。
「なーにやってんの」
「別に...黄昏てただけ」
「なんさそれ」
落ち着いた声色でラビが笑う。こんなに近くにいたのでは、わたしは真上を向く勢いで上を向かないとラビの顔が見られない。ぐるっと首を回すと、バンダナをしていない赤毛が目に入った。どうした?と言うように首を傾げる仕草が、とても優しげで。かっこいい。ラビのくせに。
また外に視線を戻す。恋人はいない。でもラビのことは気になっている。だけどラビはみんなに優しいし、気さくだし、こんなところで声をかけられたからって浮れてはいられない。でもちょっとだけ期待してしまうのは、今日がバレンタインデーだから。なんだ、結局浮かれている。
「...いい天気だねー」
「なー。平和さー」
「ちょっと、寄っ掛かんないで重い」
「***の頭の高さがちょうどいいんさ。ていうかそんなに体重かけてないでしょ」
「重いもん」
「へいへい悪いね」
ラビがあたしの頭をぽんぽんやって離れる。妙な寂しさ。やっぱり寄っ掛かかられたままでよかったかな。
「バレンタインデーさね、今日」
「...そうだね。なんかもらったの?」
「まぁ、それなりに?」
「よかったですねー」
もらったのか。誰に?何を?気になるけど聞かない。今のところあたしは、ラビに興味がない、という設定になっている。ラビはリナリーが気になっているようだし、それならそれでいい。この関係も心地いい。そういう、設定。
「リナリー、お菓子配るって言ってたね。もう終わっちゃったかな」
「キャンペーンみたいに言うなよ。おやつの時間にって言ってたから、今からじゃね?」
「そっか。なにくれるのかなー」
「食いしん坊かよ」
「むぅ...」
ラビがあたしの頭をなでて、呆れたみたいに笑った。ラビだから大人しくなでられてるんだからね。気付いてよ。
と心の中で言ってみたところでもちろん伝わらないわけで、黙って大きな手のぬくもりを享受する。
「さて、そんな***ちゃんにプレゼントがあります!」
「え?」
「じゃじゃーん!チョコレート~!」
「...それなにキャラ?」
「それはどうでもいいさ。これ、あげる」
「ありが、と」
小さなピンク色の箱に、有名な洋菓子店のロゴマークが描かれている。右の隅にちょこんとついたリボンがまぁなんとも、ラビらしくない。なにこれ、横流し?
「...これ、なに?」
「だからチョコレート」
「じゃなくて、えと...どういう...?」
「開ければわかるさ」
開ければわかる?ドッキリだろうか。いや、ラビはあたしにそういうことする人間ではない、はず。横のテープを剥がして、ゆっくり開けてみる。
言われた通りチョコレートと、上にはカードが乗っている。いつもありがとう的な?期待しすぎないように、恐る恐る開けてみる。
「......え」
「ど?わかった?」
「わ、わかった、いやわかんない!だって」
中に書かれていたのは、恋人同士が贈り合うような甘い言葉。でもわたしは、わたしたちは恋人じゃない。期待、してもいい?
「だからさ、今からなろ?コイビト」
首を傾げてにっこり笑うラビに、不覚にもときめいた。っていうか、こんな演出、相手が自分のことを好きだと確信してないと出来ない。もしかしてずっと泳がされていたのだろうか。恥ずかしい。
「...い、いつから気付いてたの」
「んー?...まぁ、最近かな?」
「嘘じゃん!え、ていうかラビ、リナリーのこと」
「だから試してたんさ。あーヤキモチ焼いてんなーってリナリーと話してたんさ」
「うっ、そ......」
ポーカーフェイスは得意だと思っていたけど、そんなことはなかったらしい。恥ずかしい。それよりラビに試されていたことが悔しい。ラビのくせに!
「なぁ、返事は?」
「えっ」
「確信犯とは言え、ちゃんと返事はほしいさ。コイビト、なってくれんの?」
ラビがあたしの顔を覗き込んでくる。やめて近い近い!
「な、なりま、す」
「えっへへ、よかったー」
へらっと笑って、今度は正面から抱き締めてくる。あぁ、ずっとこうしたかった。
「***がオレのこと好きかもって気付いてからさ、***のこと可愛くて仕方なかったんさ」
「そう、ですか...」
「なんさ冷たい、いっつも一生懸命オレの隣キープしようとしてたくせに」
「えっ気付いてたの...?!」
「あはは、...***、好きだよ」
「う、ん...あたしも、すき......」
急に身体が離れたと思ったら、唇に何かが触れた。一瞬だけ感じたその感覚は、まさしく。
「さ、恋人になった記念に甘いものでも食べるさ!」
「なに、それ」
「リナリーそろそろお菓子配るんじゃねーかな、探しに行こうさ」
「う、うん」
自然に差し出された左手を恐る恐る掴む。いつも必死に陣取っていたラビの隣が、今日から理由もなくいていい場所になったんだ。それだけで、なんだか胸がいっぱいだ。
「なんさふわふわした顔して...もっかいちゅーする?」
「は?!しない...いや、する」
「...可愛いなーもう」
少し背伸びをして、温かい唇を受け入れた。来年、いや今年から、あたしもバレンタインデーに浮かれる人たちの仲間入りだ。ラビの大きな手を握りなおして、ゆっくり歩き出す。
幸せな1日になりそうだ。
(あら、うまくいったみたいね。おめでとう!)
(リナリー、なんで言ってくれなかったの?!)
(だって一生懸命な***が可愛いから...)
教団にはいろんな国から人が集まっている。だから様々な人の様々な習慣が入り乱れていて、でもそれを否定したり拒絶したりしないのがここのいいところだ。今日はバレンタインデーなわけだけど、思い切って告白しようとする人、仲間同士でプレゼントを贈り合う人、関係なく素通りする人。そんな人たちを観察するのも楽しい日。
わたしはと言うと、リナリーがみんなにお菓子を配ってくれるというので楽しみにしている。まぁ、そんな程度だ。わたしの中でバレンタインデーというのは、恋人同士が愛を確認する日。恋人のいないわたしにとって、いつもよりちょっと多くお菓子が食べられる日にすぎない。食堂や談話室も、今日はお菓子が充実している。リナリーはどんなお菓子くれるのかな、なんて考えながら廊下を歩く。昼下がりの廊下は2月だというのに暖かい陽射しが差し込んで、なんだかぼーっとしてしまう。窓を開けて、外を眺めてみる。頬杖をついたまま寝てしまいそうだ。
部屋に戻って眠ろうか。そう思ったとき、後ろから体重をかけられた。窓枠にかけた手をさり気なく包むこの手は。少しだけ鼓動が速くなる。
「なーにやってんの」
「別に...黄昏てただけ」
「なんさそれ」
落ち着いた声色でラビが笑う。こんなに近くにいたのでは、わたしは真上を向く勢いで上を向かないとラビの顔が見られない。ぐるっと首を回すと、バンダナをしていない赤毛が目に入った。どうした?と言うように首を傾げる仕草が、とても優しげで。かっこいい。ラビのくせに。
また外に視線を戻す。恋人はいない。でもラビのことは気になっている。だけどラビはみんなに優しいし、気さくだし、こんなところで声をかけられたからって浮れてはいられない。でもちょっとだけ期待してしまうのは、今日がバレンタインデーだから。なんだ、結局浮かれている。
「...いい天気だねー」
「なー。平和さー」
「ちょっと、寄っ掛かんないで重い」
「***の頭の高さがちょうどいいんさ。ていうかそんなに体重かけてないでしょ」
「重いもん」
「へいへい悪いね」
ラビがあたしの頭をぽんぽんやって離れる。妙な寂しさ。やっぱり寄っ掛かかられたままでよかったかな。
「バレンタインデーさね、今日」
「...そうだね。なんかもらったの?」
「まぁ、それなりに?」
「よかったですねー」
もらったのか。誰に?何を?気になるけど聞かない。今のところあたしは、ラビに興味がない、という設定になっている。ラビはリナリーが気になっているようだし、それならそれでいい。この関係も心地いい。そういう、設定。
「リナリー、お菓子配るって言ってたね。もう終わっちゃったかな」
「キャンペーンみたいに言うなよ。おやつの時間にって言ってたから、今からじゃね?」
「そっか。なにくれるのかなー」
「食いしん坊かよ」
「むぅ...」
ラビがあたしの頭をなでて、呆れたみたいに笑った。ラビだから大人しくなでられてるんだからね。気付いてよ。
と心の中で言ってみたところでもちろん伝わらないわけで、黙って大きな手のぬくもりを享受する。
「さて、そんな***ちゃんにプレゼントがあります!」
「え?」
「じゃじゃーん!チョコレート~!」
「...それなにキャラ?」
「それはどうでもいいさ。これ、あげる」
「ありが、と」
小さなピンク色の箱に、有名な洋菓子店のロゴマークが描かれている。右の隅にちょこんとついたリボンがまぁなんとも、ラビらしくない。なにこれ、横流し?
「...これ、なに?」
「だからチョコレート」
「じゃなくて、えと...どういう...?」
「開ければわかるさ」
開ければわかる?ドッキリだろうか。いや、ラビはあたしにそういうことする人間ではない、はず。横のテープを剥がして、ゆっくり開けてみる。
言われた通りチョコレートと、上にはカードが乗っている。いつもありがとう的な?期待しすぎないように、恐る恐る開けてみる。
「......え」
「ど?わかった?」
「わ、わかった、いやわかんない!だって」
中に書かれていたのは、恋人同士が贈り合うような甘い言葉。でもわたしは、わたしたちは恋人じゃない。期待、してもいい?
「だからさ、今からなろ?コイビト」
首を傾げてにっこり笑うラビに、不覚にもときめいた。っていうか、こんな演出、相手が自分のことを好きだと確信してないと出来ない。もしかしてずっと泳がされていたのだろうか。恥ずかしい。
「...い、いつから気付いてたの」
「んー?...まぁ、最近かな?」
「嘘じゃん!え、ていうかラビ、リナリーのこと」
「だから試してたんさ。あーヤキモチ焼いてんなーってリナリーと話してたんさ」
「うっ、そ......」
ポーカーフェイスは得意だと思っていたけど、そんなことはなかったらしい。恥ずかしい。それよりラビに試されていたことが悔しい。ラビのくせに!
「なぁ、返事は?」
「えっ」
「確信犯とは言え、ちゃんと返事はほしいさ。コイビト、なってくれんの?」
ラビがあたしの顔を覗き込んでくる。やめて近い近い!
「な、なりま、す」
「えっへへ、よかったー」
へらっと笑って、今度は正面から抱き締めてくる。あぁ、ずっとこうしたかった。
「***がオレのこと好きかもって気付いてからさ、***のこと可愛くて仕方なかったんさ」
「そう、ですか...」
「なんさ冷たい、いっつも一生懸命オレの隣キープしようとしてたくせに」
「えっ気付いてたの...?!」
「あはは、...***、好きだよ」
「う、ん...あたしも、すき......」
急に身体が離れたと思ったら、唇に何かが触れた。一瞬だけ感じたその感覚は、まさしく。
「さ、恋人になった記念に甘いものでも食べるさ!」
「なに、それ」
「リナリーそろそろお菓子配るんじゃねーかな、探しに行こうさ」
「う、うん」
自然に差し出された左手を恐る恐る掴む。いつも必死に陣取っていたラビの隣が、今日から理由もなくいていい場所になったんだ。それだけで、なんだか胸がいっぱいだ。
「なんさふわふわした顔して...もっかいちゅーする?」
「は?!しない...いや、する」
「...可愛いなーもう」
少し背伸びをして、温かい唇を受け入れた。来年、いや今年から、あたしもバレンタインデーに浮かれる人たちの仲間入りだ。ラビの大きな手を握りなおして、ゆっくり歩き出す。
幸せな1日になりそうだ。
(あら、うまくいったみたいね。おめでとう!)
(リナリー、なんで言ってくれなかったの?!)
(だって一生懸命な***が可愛いから...)