短編
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Andante
時刻はてっぺんをとうに過ぎ、書庫室から何冊か抱えてじじいと一緒に自室へ戻る。ちょっとした小言を聞き流しながら、自室の扉を開けた。
「ん…?」
何となく違和感があり、電気を点けてそれが確信に変わった。
オレのベッドに***が寝ている。
「どうした」
「いや…あの…***が」
シーツの山が動いて***が顔を出す。片手を気怠げに振って寝ぼけ声が聞こえた。
「…あ、おかえり…おじゃましてます…」
「あぁ」
じじいは大したことじゃなさそうにオレを追い越しベッドの上段へさっさと行ってしまった。驚きながらも一応高齢のじじいなので梯子を登り切るのを見守って、また視線を***に戻す。もしもの時のために***に部屋の鍵を渡してあったが、今まで使われたことはなかった。一瞬目を覚ました***はまたむにゃむにゃと夢の中に行ってしまって、見るとしっかり部屋着だ。この無防備な格好でここまで来たのかと思うと少し心がざわつく。
「おーい***、自分の部屋戻んなさいよ」
「んー…ねむい…むり…」
「え〜…」
困った。このまま寝かせてやりたいが、じじいと同じ空間で恋人と添い寝するのはちょっと気まずい。オレが***の部屋で寝るか?いや、じじいと二人で***を寝かせるのはもっと嫌だ。悩んでいたらこつりと頭に何かが当たる。じじいがベッドの上段から身を乗り出し、オレの頭をつっついていた。危ないからやめろ。
「…なんさ」
「寝かせてやれ。…添い寝はいつもやっとるだろうが」
「うっせーなこの気まずさわかんねーのか…なぁ、じじい」
ふと思って、階段を少し登ってじじいに近付く。じじいが変な顔をした。オレの方がしてーわそんな顔。
「…じじいって***のことどう思ってんの…?」
「…心配せんでも取りゃあせんわ」
「んな心配するかぁ!…そうじゃなくてさ、その…なんていうか…」
***を起こさないように小声で言い合う。
じじいは***をどういう存在だと思っているのか、ずっと聞きたかったのだ。何となく容認してくれているようだがその真意はわからない。育ての親でもあるじじいにはどうにも隠し事ができなくて、付き合うことにしたと話した時も特に気にする様子はなかった。小言の一つや二つや三つくらいはあると覚悟していたが、意外なほど何も言わない。
みなまで言わずともわかってくれたのか、じじいは遠くを見るような目で答えた。
「…好きにしろ。***嬢がわかってお前を好いてくれておるならわしから言うことは何もない。その時のことは二人で決めろ」
「……わーったよ…」
その時、というのはいろいろな意味が含まれているのだろう。ぽんとひとつ頭を撫でるように手を置かれて久しぶりのことに何だか気恥ずかしい。手を引っ込めてそのまま寝息を立て始めたが、本当に寝たのか、記録の中に沈んだだけなのか。
「…ありがとな」
聞こえていてもいなくてもどちらでもいい。何となく声に出しておきたかった。
いよいよ諦めて***の隣で寝るしかなくなったので部屋着を探すと***が顔を埋めて眠っていて、仕方なく下だけ楽なものに着替えてそっと隣に潜り込む。横になると***がくるりとこちらを向いた。
「お、起きてた…?」
「んーん…ごめんね、寂しくなっちゃって…」
「…いいよ」
ふにゃふにゃした***にいつもの癖でキスをする。一度も使ったことのない合鍵を使うほどだったのだから、本当に寂しかったんだろう。頭を撫でると嬉しそうな顔で胸元に擦り寄ってくるので、もうどうでもいいかと思って***をしっかり抱きしめて密着した。
───────────────────────
起床のアラームが鳴る。
まだ眠い頭をなんとか起こして、胸元に感じる体温に***の存在を思い出す。***はしっかりオレに引っ付いていて、何だかいつも以上に愛しく見えた。寝起きの悪いじじいの前に、まず寝起きの悪い恋人を起こしにかかる。
「***、朝さ」
「ん〜…なんじ…」
「8時」
「早朝じゃん…」
「普通だっつの、起きなさい」
「ん〜〜〜」
しばらくぐずっていたが、急に起き上がって目を瞬かせる。見回して、オレの部屋だと気付いたようだった。
「あのまま寝ちゃったんだ…ごめん」
「いいけど…いつからいたの?」
「22時くらい…?」
「だいぶ寝たな…」
昨日遅くまで記録していたのを考慮して普段より少し遅く起きたが、***は健やかだったようだ。お姫様が髪を撫で付けるのをしばらく見守って、いつも通りじじいを起こす。今日は珍しく髪を抜く前に起き上がった。
「おはよーブックマン、ごめんねお邪魔して」
「いいや、小僧は何もせんかったかの」
「わかんない、されたかも」
「コラッ何もしてません」
軽口を叩きながら、***がベッドの上段から降りようとするじじいに自然と手を差し出す。じじいは一瞬動きを止め、***の手を支えにいつもと違ってゆっくりと梯子を降りた。なんだか胸の奥にじんわりとした温かさを感じる。
「気が利かんな小僧は」
「いつも勝手に軽々と降りてんだろーが…」
「一緒にご飯食べよー」
「その前に顔洗ってきなさいよ…あ、***これ着るさ」
***にオレのカーディガンを羽織らせたら過保護だとじじいに笑われ、***が同調する。
じじいが孫を見るような目を***に向けるのを、しばらく見ていたいと思った。
(なんか今日は一段と家族感ありますね、3人)
(え、一段とってことはいつもあんの…?)
時刻はてっぺんをとうに過ぎ、書庫室から何冊か抱えてじじいと一緒に自室へ戻る。ちょっとした小言を聞き流しながら、自室の扉を開けた。
「ん…?」
何となく違和感があり、電気を点けてそれが確信に変わった。
オレのベッドに***が寝ている。
「どうした」
「いや…あの…***が」
シーツの山が動いて***が顔を出す。片手を気怠げに振って寝ぼけ声が聞こえた。
「…あ、おかえり…おじゃましてます…」
「あぁ」
じじいは大したことじゃなさそうにオレを追い越しベッドの上段へさっさと行ってしまった。驚きながらも一応高齢のじじいなので梯子を登り切るのを見守って、また視線を***に戻す。もしもの時のために***に部屋の鍵を渡してあったが、今まで使われたことはなかった。一瞬目を覚ました***はまたむにゃむにゃと夢の中に行ってしまって、見るとしっかり部屋着だ。この無防備な格好でここまで来たのかと思うと少し心がざわつく。
「おーい***、自分の部屋戻んなさいよ」
「んー…ねむい…むり…」
「え〜…」
困った。このまま寝かせてやりたいが、じじいと同じ空間で恋人と添い寝するのはちょっと気まずい。オレが***の部屋で寝るか?いや、じじいと二人で***を寝かせるのはもっと嫌だ。悩んでいたらこつりと頭に何かが当たる。じじいがベッドの上段から身を乗り出し、オレの頭をつっついていた。危ないからやめろ。
「…なんさ」
「寝かせてやれ。…添い寝はいつもやっとるだろうが」
「うっせーなこの気まずさわかんねーのか…なぁ、じじい」
ふと思って、階段を少し登ってじじいに近付く。じじいが変な顔をした。オレの方がしてーわそんな顔。
「…じじいって***のことどう思ってんの…?」
「…心配せんでも取りゃあせんわ」
「んな心配するかぁ!…そうじゃなくてさ、その…なんていうか…」
***を起こさないように小声で言い合う。
じじいは***をどういう存在だと思っているのか、ずっと聞きたかったのだ。何となく容認してくれているようだがその真意はわからない。育ての親でもあるじじいにはどうにも隠し事ができなくて、付き合うことにしたと話した時も特に気にする様子はなかった。小言の一つや二つや三つくらいはあると覚悟していたが、意外なほど何も言わない。
みなまで言わずともわかってくれたのか、じじいは遠くを見るような目で答えた。
「…好きにしろ。***嬢がわかってお前を好いてくれておるならわしから言うことは何もない。その時のことは二人で決めろ」
「……わーったよ…」
その時、というのはいろいろな意味が含まれているのだろう。ぽんとひとつ頭を撫でるように手を置かれて久しぶりのことに何だか気恥ずかしい。手を引っ込めてそのまま寝息を立て始めたが、本当に寝たのか、記録の中に沈んだだけなのか。
「…ありがとな」
聞こえていてもいなくてもどちらでもいい。何となく声に出しておきたかった。
いよいよ諦めて***の隣で寝るしかなくなったので部屋着を探すと***が顔を埋めて眠っていて、仕方なく下だけ楽なものに着替えてそっと隣に潜り込む。横になると***がくるりとこちらを向いた。
「お、起きてた…?」
「んーん…ごめんね、寂しくなっちゃって…」
「…いいよ」
ふにゃふにゃした***にいつもの癖でキスをする。一度も使ったことのない合鍵を使うほどだったのだから、本当に寂しかったんだろう。頭を撫でると嬉しそうな顔で胸元に擦り寄ってくるので、もうどうでもいいかと思って***をしっかり抱きしめて密着した。
───────────────────────
起床のアラームが鳴る。
まだ眠い頭をなんとか起こして、胸元に感じる体温に***の存在を思い出す。***はしっかりオレに引っ付いていて、何だかいつも以上に愛しく見えた。寝起きの悪いじじいの前に、まず寝起きの悪い恋人を起こしにかかる。
「***、朝さ」
「ん〜…なんじ…」
「8時」
「早朝じゃん…」
「普通だっつの、起きなさい」
「ん〜〜〜」
しばらくぐずっていたが、急に起き上がって目を瞬かせる。見回して、オレの部屋だと気付いたようだった。
「あのまま寝ちゃったんだ…ごめん」
「いいけど…いつからいたの?」
「22時くらい…?」
「だいぶ寝たな…」
昨日遅くまで記録していたのを考慮して普段より少し遅く起きたが、***は健やかだったようだ。お姫様が髪を撫で付けるのをしばらく見守って、いつも通りじじいを起こす。今日は珍しく髪を抜く前に起き上がった。
「おはよーブックマン、ごめんねお邪魔して」
「いいや、小僧は何もせんかったかの」
「わかんない、されたかも」
「コラッ何もしてません」
軽口を叩きながら、***がベッドの上段から降りようとするじじいに自然と手を差し出す。じじいは一瞬動きを止め、***の手を支えにいつもと違ってゆっくりと梯子を降りた。なんだか胸の奥にじんわりとした温かさを感じる。
「気が利かんな小僧は」
「いつも勝手に軽々と降りてんだろーが…」
「一緒にご飯食べよー」
「その前に顔洗ってきなさいよ…あ、***これ着るさ」
***にオレのカーディガンを羽織らせたら過保護だとじじいに笑われ、***が同調する。
じじいが孫を見るような目を***に向けるのを、しばらく見ていたいと思った。
(なんか今日は一段と家族感ありますね、3人)
(え、一段とってことはいつもあんの…?)