短編
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あなたのために出来ること
今年のバレンタインデーは日曜日だ。とはいっても学生の身でそんなに特別なことはできない。デートでいつもより少しいい食事をご馳走して、オレの家で映画を観て、たっぷり愛し合った。帰り際に***が照れ臭そうに紙袋を渡してくれて、それだけで十分だ。
***はこういう時手作りを用意するタイプではないから、どこかで買ってきてくれたんだろう。去年は貰ったのはビターとスイートが一緒に入った無難なアソートだったし、それでもラッピングには凝ってくれて、出来ることでオレを喜ばせようとしてくれるのが嬉しかった。
どうせなら映画を観ながら一緒に食べたかったと思いつつ、***がいなくなった室内に少しの寂しさを感じながら袋を開ける。シンプルな手持ち用の紙袋の中から、これまたシンプルな、ビニールの窓がついた紙袋が現れた。中にはクッキーがザラザラと入っている。控えめなリボンが***らしいと思いつつ、袋の色がオレンジなのはオレの髪の色を意識してくれたのかと思うと嬉しい。
明日も学校で会うんだし、食べて感想を言いたいのですぐ皿に開けた。ハート型の、砕いたナッツの入ったチョコレートクッキーだ。一つつまんで口に放り込むと、舌の上でほろりと溶けるようで美味かった。明日は昼に***を誘って感想を伝えようと思いながら、ふと金曜日に貰ったチョコレートの山を見て少し憂鬱になる。
クラスメイトや部活の仲間、果ては全然知らない後輩の女の子に貰ったもので、軽い気持ちの一粒チョコから本気度の高い手作りチョコまでバラエティ豊かである。明日は取り敢えず、たくさん貰ったから食べ切れなかったで乗り切ることにして、***からの贈り物を余さず胃に収めた。
―――――――――――――――――――――――
次の日、予想通り朝から再びのチョコレート譲渡会が行われていた。土日を挟んだからか少し気合を入れたものを持ってきている空気がある。内心面倒だなぁなんて思いながらいくつか貰ってしまって、一緒に昼を食べようと***に連絡を取りつけ、それを楽しみに午前中を乗り切った。
「***」
「あ、ラビ」
非常階段に座った***に声をかける。隣に座って、一緒に弁当を広げた。この場所を指定してきたのは***だ。
「何でこんなとこなの?」
「モテる先輩は追いかけ回されて大変でしょうからねー」
「...はは」
ここに来るまでに渡されてしまった紙袋を見て言っているのは明らかだ。実際、人気のない所を指定してもらって有り難ささえある。昨日***が家に来た時に雑に隠したチョコの山も、気付かれていたかもしれない。
「そうだ、昨日貰ったクッキー美味かったさ、ありがとう」
「もう食べたの?あんなに貰ってたのに」
「あのな~、彼女からの貰い物後回しにするわけないだろ」
「手作りとか貰っても?」
「知らない奴の手作りって別に嬉しいもんでもないさ」
「ふーん」
納得したのかしていないのか、***は黙々と弁当を食べ始めた。周りを見ても木と雑草しかないし、お互いの咀嚼音だけが聞こえる。ぽつりぽつりと会話しながら、食べ終わっても静かな時間が続いた。***なら沈黙も居心地は悪くないが、今日はなんだか雰囲気が違う気がする。
「***、どうかした?」
「ううん、別に」
「そう?...オレがチョコ貰うの嫌?」
「そういうわけじゃ...断れないでしょ、ラビ」
「う...いや、***が嫌なら断るけど」
「無理しなくていいの。...まぁ、本命っぽいのは女の子のためにも断ってほしいけど」
「...努力します」
笑って頬にキスしてくれる。誰もいないからか積極的だ。嬉しくて、距離を詰めて密着する。***の髪の匂いが鼻腔をくすぐった。
「...あのさ」
「なに?」
「クッキー、美味しかったんだ?」
「うん」
「うん、じゃあ、よかった」
歯切れが悪い。美味かったと答えれば、どこで買ったとか、その店で売っていた他のチョコが美味しそうだったとか、そんなことを話してくれるはずだ。去年はそうだった。目を合わせない***に、はたと気付いた。同時に冷や汗が出てくる。
「***...あれ、手作りだった...?」
じっと前を見つめていた***が、小さく頷く。昨日のことが走馬灯のように駆け巡っていろいろ湧き上がってきたが、その前に、
「...なんっで気付かないの...?!」
「ごめんなさい...」
その通りだ。***が手作りなんかくれるわけないと思ったのも失礼だったし、包装のどこにも店の名前がないことに気付くべきだった。片手間にザラザラと流し込んだことを後悔する。
「もっと味わって食べたかった...」
「...もう全部食べたの?」
「だって美味かったし...ていうか手作り貰えると思ってなかったさ」
「...去年リナリーに手作り貰って嬉しそうにしてたから、やっぱりそういうのがいいのかなって...さすがに気付かないとは思わなかったけど?」
「それは本当にすみませんでした...そりゃ嬉しいけどさ、何貰うかより誰に貰うかの方が大事さ」
「ふーん...」
何故か気まずそうにする***の頭を抱いて、胸に引き寄せる。抱き合ったまま、しばらく沈黙が続いた。単純に、***がオレのために頑張ってくれたことが何より嬉しかった。
「...ラビ、嬉しい?」
「嬉しい、めちゃくちゃ嬉しいさ。ありがとう」
「よかった」
嬉しそうに笑う***が愛しくて堪らなくて、抱き締めたまま深く深くキスをした。
(ねぇ、時間来るまでずっとキスしてていい?)
(えー...)
(...いや?)
(...いやじゃ、ない...)
今年のバレンタインデーは日曜日だ。とはいっても学生の身でそんなに特別なことはできない。デートでいつもより少しいい食事をご馳走して、オレの家で映画を観て、たっぷり愛し合った。帰り際に***が照れ臭そうに紙袋を渡してくれて、それだけで十分だ。
***はこういう時手作りを用意するタイプではないから、どこかで買ってきてくれたんだろう。去年は貰ったのはビターとスイートが一緒に入った無難なアソートだったし、それでもラッピングには凝ってくれて、出来ることでオレを喜ばせようとしてくれるのが嬉しかった。
どうせなら映画を観ながら一緒に食べたかったと思いつつ、***がいなくなった室内に少しの寂しさを感じながら袋を開ける。シンプルな手持ち用の紙袋の中から、これまたシンプルな、ビニールの窓がついた紙袋が現れた。中にはクッキーがザラザラと入っている。控えめなリボンが***らしいと思いつつ、袋の色がオレンジなのはオレの髪の色を意識してくれたのかと思うと嬉しい。
明日も学校で会うんだし、食べて感想を言いたいのですぐ皿に開けた。ハート型の、砕いたナッツの入ったチョコレートクッキーだ。一つつまんで口に放り込むと、舌の上でほろりと溶けるようで美味かった。明日は昼に***を誘って感想を伝えようと思いながら、ふと金曜日に貰ったチョコレートの山を見て少し憂鬱になる。
クラスメイトや部活の仲間、果ては全然知らない後輩の女の子に貰ったもので、軽い気持ちの一粒チョコから本気度の高い手作りチョコまでバラエティ豊かである。明日は取り敢えず、たくさん貰ったから食べ切れなかったで乗り切ることにして、***からの贈り物を余さず胃に収めた。
―――――――――――――――――――――――
次の日、予想通り朝から再びのチョコレート譲渡会が行われていた。土日を挟んだからか少し気合を入れたものを持ってきている空気がある。内心面倒だなぁなんて思いながらいくつか貰ってしまって、一緒に昼を食べようと***に連絡を取りつけ、それを楽しみに午前中を乗り切った。
「***」
「あ、ラビ」
非常階段に座った***に声をかける。隣に座って、一緒に弁当を広げた。この場所を指定してきたのは***だ。
「何でこんなとこなの?」
「モテる先輩は追いかけ回されて大変でしょうからねー」
「...はは」
ここに来るまでに渡されてしまった紙袋を見て言っているのは明らかだ。実際、人気のない所を指定してもらって有り難ささえある。昨日***が家に来た時に雑に隠したチョコの山も、気付かれていたかもしれない。
「そうだ、昨日貰ったクッキー美味かったさ、ありがとう」
「もう食べたの?あんなに貰ってたのに」
「あのな~、彼女からの貰い物後回しにするわけないだろ」
「手作りとか貰っても?」
「知らない奴の手作りって別に嬉しいもんでもないさ」
「ふーん」
納得したのかしていないのか、***は黙々と弁当を食べ始めた。周りを見ても木と雑草しかないし、お互いの咀嚼音だけが聞こえる。ぽつりぽつりと会話しながら、食べ終わっても静かな時間が続いた。***なら沈黙も居心地は悪くないが、今日はなんだか雰囲気が違う気がする。
「***、どうかした?」
「ううん、別に」
「そう?...オレがチョコ貰うの嫌?」
「そういうわけじゃ...断れないでしょ、ラビ」
「う...いや、***が嫌なら断るけど」
「無理しなくていいの。...まぁ、本命っぽいのは女の子のためにも断ってほしいけど」
「...努力します」
笑って頬にキスしてくれる。誰もいないからか積極的だ。嬉しくて、距離を詰めて密着する。***の髪の匂いが鼻腔をくすぐった。
「...あのさ」
「なに?」
「クッキー、美味しかったんだ?」
「うん」
「うん、じゃあ、よかった」
歯切れが悪い。美味かったと答えれば、どこで買ったとか、その店で売っていた他のチョコが美味しそうだったとか、そんなことを話してくれるはずだ。去年はそうだった。目を合わせない***に、はたと気付いた。同時に冷や汗が出てくる。
「***...あれ、手作りだった...?」
じっと前を見つめていた***が、小さく頷く。昨日のことが走馬灯のように駆け巡っていろいろ湧き上がってきたが、その前に、
「...なんっで気付かないの...?!」
「ごめんなさい...」
その通りだ。***が手作りなんかくれるわけないと思ったのも失礼だったし、包装のどこにも店の名前がないことに気付くべきだった。片手間にザラザラと流し込んだことを後悔する。
「もっと味わって食べたかった...」
「...もう全部食べたの?」
「だって美味かったし...ていうか手作り貰えると思ってなかったさ」
「...去年リナリーに手作り貰って嬉しそうにしてたから、やっぱりそういうのがいいのかなって...さすがに気付かないとは思わなかったけど?」
「それは本当にすみませんでした...そりゃ嬉しいけどさ、何貰うかより誰に貰うかの方が大事さ」
「ふーん...」
何故か気まずそうにする***の頭を抱いて、胸に引き寄せる。抱き合ったまま、しばらく沈黙が続いた。単純に、***がオレのために頑張ってくれたことが何より嬉しかった。
「...ラビ、嬉しい?」
「嬉しい、めちゃくちゃ嬉しいさ。ありがとう」
「よかった」
嬉しそうに笑う***が愛しくて堪らなくて、抱き締めたまま深く深くキスをした。
(ねぇ、時間来るまでずっとキスしてていい?)
(えー...)
(...いや?)
(...いやじゃ、ない...)