短編
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Two Hearts
『やぁやぁ、任務お疲れ様!無事イノセンスは回収したんだね?』
「あーはい、そう、なんですけど」
『あれどうしたのー?何かあったかい?』
「えぇと、信じてもらえるかわかんないんですけど、その」
『勿体ぶらずに言いなよ。これでもボクは、けっこう理解がある方だよ!』
「ホントかな...あ、いや、その、なんて言うか...
ラビが、増えました」
『は?』
―――――――――――――――――――――――
ラビが二人になった。
これは紛れも無い事実だ。恐らくイノセンスの奇怪現象。
回収前にある街で起っていた奇怪現象は、持ち主の願いを叶える、みたいなものだった。ラビが二人になったことと全く結びつかないから余計に原因がわからない。
帰ってきてまず飛び付いたのはコムイさんで、はっきり言ってめちゃくちゃ面白がってた。ていうか、あたしだって全然関係ない人間だったら全力で面白がる。だって姿も一瞬前の記憶もまるっきり同じ人間がもう一人。双子ですらない。幻でもないし、年齢が半分になったわけでも陰と陽に分かれたわけでもない。そりゃあ新薬の実験台にしたい気持ちもわかるが問題はそんなことじゃないと、翌朝になって思い知ることになる。
ブックマンJr.の頭脳は、いたずらに使われていた。徒に、全力の悪戯を実行していた。
「...今日は何のパーティーですか?ハロウィン?」
昼前の食堂に現れたアレンは、長髪になっていた。やられたらしい。
「今は夏だよ、アレン」
「そうですか、僕はてっきりお菓子をもらえなかったオバケの仕業かと...」
「ずいぶんバラエティに富んだオバケだね」
「もう、うっとおしいなこの髪...何とかしてくださいよ、***の飼いウサギでしょー」
「それ今日言われたの何回目だっけな...どこ行っても捕まらないの、もうお手上げ。諦めて巣に戻ってくるのを待ちます」
「あー...そうですか、戻ってくるといいですね」
そう、もうお手上げだ。二人きりで一体どこに籠城を決め込んでいるのやら。お前が何とかしろという周りの視線をひしひしと感じる。あたしがいたずらの標的になっていないことも原因だ。早々に食事を済ませ、逃げるように部屋へ戻った。
「おっかえりー」
「待ってたさ」
扉を開けてすぐ、爽やかな笑顔に迎えられた。安心感と、若干の警戒心で慎重に扉を閉める。
「...長い家出ご苦労様、こっちは大変だったんだからね」
「まぁそんなこと言わずに」
「それに関してはちゃんと考えがあんだって」
二人に肩を抱かれて、ベッドに座らされる。左右から同じ声がするから、ステレオで音声を聞いている気分だ。
聞けば、イノセンスが持ち主の願いを叶えるものだったところから推測して、以前からやってみたかったことを全力で実行してみたらしい。そうすれば願いが叶って元に戻るかもしれないと。
「...戻ってないじゃん」
「んー、だいぶやり切ったんだけどな」
「あとは一人で出来ることかもっと人数の要るやつだな...」
「普段いたずらすることしか考えてないの?ブックマンJr.は」
「自分がもう一人いたら記録も捗るなーとは思ったことあるけど、なーんかそういうんじゃない気がするんさ、今回は」
「ただの勘だけど」
「勘ねぇ...あとは何か思い付いた?イノセンスは分析してもらってるけど、やっぱりよくわかんないみたい」
「へーそう。あーあとはね...これくらい、かな」
「...え、なになに」
「何って、ナニ」
「待ってうそ」
「オレのためだと思ってさ、ね?」
一人に後ろから胸を掴まれて、一人は前から脚をまさぐる。二人ともラビとはいえ、少しだけ恐怖を感じる。
「「優しくするから」」
こんなに嬉しくない優しさは初めてだった。
―――――――――――――――――――――――
「っ、んっ...」
「***、もうちょっと声出してよ」
「だっ、てぇ...」
当然ながら男二人に攻められるのは初めてで、どうしたらいいかわからない。とはいえ一人に拘束され一人に弄られ、あたしが出来ることなど何もないのだった。後ろから膝裏を持ち上げられ、大きく脚を開いた状態で正面から中心を刺激される。抱えられているから弄られている場所が上を向いて、指の動きもだいたい見える。さっきから溢れ出る液体を指に絡ませては見せつけてきて、こんな状態で普通に喘ぐほうが恥ずかしい。
「ほら、***のエッチなのがこんなに」
「やだってば!もうっ...」
「あ、シーツに染みできてる」
「っ!」
「あんまいじめたら可哀想さ、ていうかそろそろオレも触りたい」
「...しゃーねーな、***おいで」
脚を固定していた手が離れて、正面のラビに呼ばれる。そのまま抱きつくような形でキスをした。すかさず後ろから手が伸びてくる。
「んっ!」
「***、もうちょっとお尻突き出して...そう、いい子」
「ん、んんっ...」
キスをしながら、後ろから指を挿れられる。普段なら絶対しない体験に脳みそが麻痺する。ゴツゴツした指がゆっくり内壁を擦って気持ちいい。
「***、すげー可愛い...オレ先に挿れるね?」
「うわ、ずりー!***、オレも」
「え、え?」
二人同時に大きくなったものを取り出したので戸惑う。
「舐めて?」
「え...あぁっ!」
先に、後ろからの挿入が始まった。喘ぎながら正面のラビと目が合って、少し機嫌を損ねたような顔がちょっとだけ可愛いと思ってしまう。下に目をやるとそそり立ったものが目に入った。揺さぶられながら、なんとか上半身を下げてそれを咥える。大きな手が頭を撫でた。
後ろから与えられる快感に耐えながら、口の中のものに歯を立てないようにするのはかなり神経を使う。上下させるのは難しくて、咥えたまま吸い上げたり舌を使うくらいが精一杯だ。溢れた唾液がラビの肌を濡らしていく。
「***可愛い...気持ち、良いさっ...」
「ん、んんっ...」
「***の中、気持ち良くて溶けそうっ...」
「んっ、ふ、あっ、あぁっ!」
だんだん激しくなるピストンに耐えられなくて、口を離してしまった。何とか気持ち良くなってもらいたくて、手で上下に擦る。前から伸びてきた手に胸を弄られて、何が何だかわからないくらい気持ちいい。
「***っ、...ッ、出そっ...」
「あぁっ!あっ、ラビ、きも、ち、ラ、ビ...っ!」
中に広がる熱を感じて、崩れ落ちそうになる。
前に倒れそうになったのをラビの胸が受け止めてくれた。体勢を立て直して、キスをする。
「***、オレも」
「んぅ...」
息を切らしたラビが、後ろから首を伸ばしてくる。首を捻ってキスをしたら、そのまま後ろへ倒された。
「っ...な、に...?」
「***、こっちがまだでしょ?」
「っあ...!」
さっき受け入れたばかりのそこに、熱いものが突き立てられる。少し力を入れられただけで簡単に飲み込んでしまった。
「せっかく***がおっきくしてくれたんだから、こっちも味わってもらわなきゃ困るさ」
「待って、まだ...」
「まだ?***の身体イったばっかで熱くてトロトロで、つまり今がベストコンディションさ」
「んっ、やぁっ...あぁッ!」
その通りかもしれなかった。
快楽に支配された頭で、二人に何度もキスを求める。
もっとラビが欲しい。それしか考えられなかった。
―――――――――――――――――――――――
結論から言うと、ラビは元に戻った。イノセンスは速やかにヘブラスカの中に保管された。
ラビはというと、身体や脳に異常はないものの、分裂している間の記憶が消えていた。記憶が繋がったのは任務先で分裂する直前と、乱れたシーツの上で目を覚ましたところから。
「忘れる」というのは、ブックマンJr.にとって初めての体験だったらしい。元に戻ったと聞いて悪戯の件を咎めようとやってきた人たちも、あまりに無邪気な笑顔で「忘れちゃった!」と言われてしまえばどうにもできないらしかった。そのお陰か特に大事にもならずに済んだ。
忘れられないことの辛さも、みんな何となくわかっているのかもしれない。
神田だけはお構いなしに二、三発殴っていたけど、それはそれでいつも通りだ。
概ねラビの機嫌は良好だったけど、ベッドの上の出来事を思い出せないことに関してはかなり悔しそうだった。
「なんっで覚えてないんかな、オレ」
「知らないよ。しょうがないじゃん」
「そうだけどさーあーもう悔しい!もう一回したい!」
綺麗に整えられたベッドの上でのバタバタと暴れる大の男。綺麗にするのは大変だったんだからやめてほしい。
今回の件で化学班の誰かのハートに火が着いたかもしれないので、変な発明をされないように全員の記憶を消してほしかったところだった。
「ところで***」
「なに」
「ちょっと思ったんだけどさ、あのイノセンス、オレに反応したんじゃなかったんじゃない?」
「...どういうこと?」
ラビが上半身を起こして、ビシッ!と音がしそうなくらい鋭く指を指す。
「ほんとにしたかったのは***なんじゃないの?」
あまりに真面目な顔で言うのでちょっと笑ってしまったけど、よく考えたら笑えない。少し考えて、こちらも真面目な顔で返す。
「...何でそう思うの?」
「戻ったのはオレが悪戯しまくった後じゃなくて、セックスしまくった後じゃん?ってことは、***の願望をイノセンスが変な形で叶えたってことなんじゃねーの」
「なんであたしの願望だってわかるの」
「回収した後のイノセンス最初に触ったのどーっちだ」
「あっ...」
そういえば、直接イノセンスに触れたのはあたしだけだった。持ったまま、帰ったら何をしよう、と考えたような気がする。
そんな一瞬で潜在意識まで読まれてしまったのだとしたらイノセンス恐ろしすぎる、というか。
「...ねぇそれ、誰かに言った...?」
「いや。言ってもよかった?」
「そんなわけない...いつからそう思ってたの?」
「***から事の経緯を聞いてから考えたことだから、昨日の夜かな。まぁただの仮説さ」
ラビの顔は、いつもの軽い笑顔に戻っていた。化学班の分析でも結局原因はわからず、戻ったのはラビがやり放題し終えたからということに落ち着いたのは今朝のことだ。今はみんながそう思っている。
そこまで推理したのに黙っていてくれたことに優しさを感じた。
「ラビ...」
「まぁ、実はそれはどうでもよくてさ」
手招きをされて、側に寄る。自然な流れで組み敷かれた。
「***、オレ一人じゃ足りなかったってこと?」
「え」
「正直覚えてないことよりも、日頃***を満足させられてないってわかったことのほうが悔しいさ...」
「そういうことじゃなくて!ただ、その...一緒に、いたかっただけで...」
足りなかったのは刺激じゃなくて、時間。ただ一緒にいろんなことをしたかっただけなのに、単純にセックスしたかっただけだと思われるのは困る。
途切れ途切れで何とか発した言葉の真意は、伝わったのか伝わっていないのか。長いこと動かなかったラビは、キスを求めたらやっと応じてくれた。
「...***、寂しいならちゃんと言ってよ?時間つくるからさ」
「...ん」
そうして降ってきたキスは、いつもより何倍も優しくて、甘い甘い味がした。
(お願いだから再現してくんないかなぁ、何か思い出すかもしれないし!)
(思い出されたらそれはそれで困る)
『やぁやぁ、任務お疲れ様!無事イノセンスは回収したんだね?』
「あーはい、そう、なんですけど」
『あれどうしたのー?何かあったかい?』
「えぇと、信じてもらえるかわかんないんですけど、その」
『勿体ぶらずに言いなよ。これでもボクは、けっこう理解がある方だよ!』
「ホントかな...あ、いや、その、なんて言うか...
ラビが、増えました」
『は?』
―――――――――――――――――――――――
ラビが二人になった。
これは紛れも無い事実だ。恐らくイノセンスの奇怪現象。
回収前にある街で起っていた奇怪現象は、持ち主の願いを叶える、みたいなものだった。ラビが二人になったことと全く結びつかないから余計に原因がわからない。
帰ってきてまず飛び付いたのはコムイさんで、はっきり言ってめちゃくちゃ面白がってた。ていうか、あたしだって全然関係ない人間だったら全力で面白がる。だって姿も一瞬前の記憶もまるっきり同じ人間がもう一人。双子ですらない。幻でもないし、年齢が半分になったわけでも陰と陽に分かれたわけでもない。そりゃあ新薬の実験台にしたい気持ちもわかるが問題はそんなことじゃないと、翌朝になって思い知ることになる。
ブックマンJr.の頭脳は、いたずらに使われていた。徒に、全力の悪戯を実行していた。
「...今日は何のパーティーですか?ハロウィン?」
昼前の食堂に現れたアレンは、長髪になっていた。やられたらしい。
「今は夏だよ、アレン」
「そうですか、僕はてっきりお菓子をもらえなかったオバケの仕業かと...」
「ずいぶんバラエティに富んだオバケだね」
「もう、うっとおしいなこの髪...何とかしてくださいよ、***の飼いウサギでしょー」
「それ今日言われたの何回目だっけな...どこ行っても捕まらないの、もうお手上げ。諦めて巣に戻ってくるのを待ちます」
「あー...そうですか、戻ってくるといいですね」
そう、もうお手上げだ。二人きりで一体どこに籠城を決め込んでいるのやら。お前が何とかしろという周りの視線をひしひしと感じる。あたしがいたずらの標的になっていないことも原因だ。早々に食事を済ませ、逃げるように部屋へ戻った。
「おっかえりー」
「待ってたさ」
扉を開けてすぐ、爽やかな笑顔に迎えられた。安心感と、若干の警戒心で慎重に扉を閉める。
「...長い家出ご苦労様、こっちは大変だったんだからね」
「まぁそんなこと言わずに」
「それに関してはちゃんと考えがあんだって」
二人に肩を抱かれて、ベッドに座らされる。左右から同じ声がするから、ステレオで音声を聞いている気分だ。
聞けば、イノセンスが持ち主の願いを叶えるものだったところから推測して、以前からやってみたかったことを全力で実行してみたらしい。そうすれば願いが叶って元に戻るかもしれないと。
「...戻ってないじゃん」
「んー、だいぶやり切ったんだけどな」
「あとは一人で出来ることかもっと人数の要るやつだな...」
「普段いたずらすることしか考えてないの?ブックマンJr.は」
「自分がもう一人いたら記録も捗るなーとは思ったことあるけど、なーんかそういうんじゃない気がするんさ、今回は」
「ただの勘だけど」
「勘ねぇ...あとは何か思い付いた?イノセンスは分析してもらってるけど、やっぱりよくわかんないみたい」
「へーそう。あーあとはね...これくらい、かな」
「...え、なになに」
「何って、ナニ」
「待ってうそ」
「オレのためだと思ってさ、ね?」
一人に後ろから胸を掴まれて、一人は前から脚をまさぐる。二人ともラビとはいえ、少しだけ恐怖を感じる。
「「優しくするから」」
こんなに嬉しくない優しさは初めてだった。
―――――――――――――――――――――――
「っ、んっ...」
「***、もうちょっと声出してよ」
「だっ、てぇ...」
当然ながら男二人に攻められるのは初めてで、どうしたらいいかわからない。とはいえ一人に拘束され一人に弄られ、あたしが出来ることなど何もないのだった。後ろから膝裏を持ち上げられ、大きく脚を開いた状態で正面から中心を刺激される。抱えられているから弄られている場所が上を向いて、指の動きもだいたい見える。さっきから溢れ出る液体を指に絡ませては見せつけてきて、こんな状態で普通に喘ぐほうが恥ずかしい。
「ほら、***のエッチなのがこんなに」
「やだってば!もうっ...」
「あ、シーツに染みできてる」
「っ!」
「あんまいじめたら可哀想さ、ていうかそろそろオレも触りたい」
「...しゃーねーな、***おいで」
脚を固定していた手が離れて、正面のラビに呼ばれる。そのまま抱きつくような形でキスをした。すかさず後ろから手が伸びてくる。
「んっ!」
「***、もうちょっとお尻突き出して...そう、いい子」
「ん、んんっ...」
キスをしながら、後ろから指を挿れられる。普段なら絶対しない体験に脳みそが麻痺する。ゴツゴツした指がゆっくり内壁を擦って気持ちいい。
「***、すげー可愛い...オレ先に挿れるね?」
「うわ、ずりー!***、オレも」
「え、え?」
二人同時に大きくなったものを取り出したので戸惑う。
「舐めて?」
「え...あぁっ!」
先に、後ろからの挿入が始まった。喘ぎながら正面のラビと目が合って、少し機嫌を損ねたような顔がちょっとだけ可愛いと思ってしまう。下に目をやるとそそり立ったものが目に入った。揺さぶられながら、なんとか上半身を下げてそれを咥える。大きな手が頭を撫でた。
後ろから与えられる快感に耐えながら、口の中のものに歯を立てないようにするのはかなり神経を使う。上下させるのは難しくて、咥えたまま吸い上げたり舌を使うくらいが精一杯だ。溢れた唾液がラビの肌を濡らしていく。
「***可愛い...気持ち、良いさっ...」
「ん、んんっ...」
「***の中、気持ち良くて溶けそうっ...」
「んっ、ふ、あっ、あぁっ!」
だんだん激しくなるピストンに耐えられなくて、口を離してしまった。何とか気持ち良くなってもらいたくて、手で上下に擦る。前から伸びてきた手に胸を弄られて、何が何だかわからないくらい気持ちいい。
「***っ、...ッ、出そっ...」
「あぁっ!あっ、ラビ、きも、ち、ラ、ビ...っ!」
中に広がる熱を感じて、崩れ落ちそうになる。
前に倒れそうになったのをラビの胸が受け止めてくれた。体勢を立て直して、キスをする。
「***、オレも」
「んぅ...」
息を切らしたラビが、後ろから首を伸ばしてくる。首を捻ってキスをしたら、そのまま後ろへ倒された。
「っ...な、に...?」
「***、こっちがまだでしょ?」
「っあ...!」
さっき受け入れたばかりのそこに、熱いものが突き立てられる。少し力を入れられただけで簡単に飲み込んでしまった。
「せっかく***がおっきくしてくれたんだから、こっちも味わってもらわなきゃ困るさ」
「待って、まだ...」
「まだ?***の身体イったばっかで熱くてトロトロで、つまり今がベストコンディションさ」
「んっ、やぁっ...あぁッ!」
その通りかもしれなかった。
快楽に支配された頭で、二人に何度もキスを求める。
もっとラビが欲しい。それしか考えられなかった。
―――――――――――――――――――――――
結論から言うと、ラビは元に戻った。イノセンスは速やかにヘブラスカの中に保管された。
ラビはというと、身体や脳に異常はないものの、分裂している間の記憶が消えていた。記憶が繋がったのは任務先で分裂する直前と、乱れたシーツの上で目を覚ましたところから。
「忘れる」というのは、ブックマンJr.にとって初めての体験だったらしい。元に戻ったと聞いて悪戯の件を咎めようとやってきた人たちも、あまりに無邪気な笑顔で「忘れちゃった!」と言われてしまえばどうにもできないらしかった。そのお陰か特に大事にもならずに済んだ。
忘れられないことの辛さも、みんな何となくわかっているのかもしれない。
神田だけはお構いなしに二、三発殴っていたけど、それはそれでいつも通りだ。
概ねラビの機嫌は良好だったけど、ベッドの上の出来事を思い出せないことに関してはかなり悔しそうだった。
「なんっで覚えてないんかな、オレ」
「知らないよ。しょうがないじゃん」
「そうだけどさーあーもう悔しい!もう一回したい!」
綺麗に整えられたベッドの上でのバタバタと暴れる大の男。綺麗にするのは大変だったんだからやめてほしい。
今回の件で化学班の誰かのハートに火が着いたかもしれないので、変な発明をされないように全員の記憶を消してほしかったところだった。
「ところで***」
「なに」
「ちょっと思ったんだけどさ、あのイノセンス、オレに反応したんじゃなかったんじゃない?」
「...どういうこと?」
ラビが上半身を起こして、ビシッ!と音がしそうなくらい鋭く指を指す。
「ほんとにしたかったのは***なんじゃないの?」
あまりに真面目な顔で言うのでちょっと笑ってしまったけど、よく考えたら笑えない。少し考えて、こちらも真面目な顔で返す。
「...何でそう思うの?」
「戻ったのはオレが悪戯しまくった後じゃなくて、セックスしまくった後じゃん?ってことは、***の願望をイノセンスが変な形で叶えたってことなんじゃねーの」
「なんであたしの願望だってわかるの」
「回収した後のイノセンス最初に触ったのどーっちだ」
「あっ...」
そういえば、直接イノセンスに触れたのはあたしだけだった。持ったまま、帰ったら何をしよう、と考えたような気がする。
そんな一瞬で潜在意識まで読まれてしまったのだとしたらイノセンス恐ろしすぎる、というか。
「...ねぇそれ、誰かに言った...?」
「いや。言ってもよかった?」
「そんなわけない...いつからそう思ってたの?」
「***から事の経緯を聞いてから考えたことだから、昨日の夜かな。まぁただの仮説さ」
ラビの顔は、いつもの軽い笑顔に戻っていた。化学班の分析でも結局原因はわからず、戻ったのはラビがやり放題し終えたからということに落ち着いたのは今朝のことだ。今はみんながそう思っている。
そこまで推理したのに黙っていてくれたことに優しさを感じた。
「ラビ...」
「まぁ、実はそれはどうでもよくてさ」
手招きをされて、側に寄る。自然な流れで組み敷かれた。
「***、オレ一人じゃ足りなかったってこと?」
「え」
「正直覚えてないことよりも、日頃***を満足させられてないってわかったことのほうが悔しいさ...」
「そういうことじゃなくて!ただ、その...一緒に、いたかっただけで...」
足りなかったのは刺激じゃなくて、時間。ただ一緒にいろんなことをしたかっただけなのに、単純にセックスしたかっただけだと思われるのは困る。
途切れ途切れで何とか発した言葉の真意は、伝わったのか伝わっていないのか。長いこと動かなかったラビは、キスを求めたらやっと応じてくれた。
「...***、寂しいならちゃんと言ってよ?時間つくるからさ」
「...ん」
そうして降ってきたキスは、いつもより何倍も優しくて、甘い甘い味がした。
(お願いだから再現してくんないかなぁ、何か思い出すかもしれないし!)
(思い出されたらそれはそれで困る)