短編
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平行線
「髪切った?2センチくらい」
「リップ変えた?前より濃いな」
「そのピアス新しくない?いつ買ったの?」
ラビはどんな小さな変化も気付いてくれる。最初は気付いてくれるだけで嬉しくて、この人はあたしのことをよく見てくれている、と舞い上がっていた。でもそんな期待は1週間もすれば崩れ去る。ラビは記憶力が人並外れて良いから、他人の変化に気付きやすいだけだ。昨日と今日の違いを、間違い探しみたいに楽しんでいる。何をやったって「気付く」だけで、それについての感想など言ってくれた試しがない。
それでもあたしはラビに気にかけてほしくて、毎日少しずつ変化を加える。ラビの中の「記録」を更新し続ける。
今日の一言は、「いつもよりメイク丁寧じゃん、出かけんの?」だ。別にどこにも行かない。今日はラビと一緒にいられる時間が長そうだから、いつもより時間をかけてみただけ。もちろん、それについての感想はない。ラビがこういうメイクを好きかどうか、が重要なのに。
書庫に行くと言うのでついて行って、溜まった報告書を片付けたり次の任務地のことを調べたりしながら、たまにラビを盗み見る。相変わらず集中している顔はかっこよくて、見とれてしまう。いつになったら、その翡翠の瞳にあたしは映るのか。
ため息と共に、読んでいた本を閉じる。けっこう大きな音が出てしまった。黙々と記録に取り掛かっていたラビが目をあげる。
「どした***、お腹空いた?」
「...別に」
覗き込むように目を合わせてきたラビから逃げようと、本で顔を隠す。
「おーい***ー」
3回くらい無視していたけど、やはり一緒にいられる数少ない機会を無駄にはしたくない。渋々顔を隠していた本をパタリと倒すと、ラビがからかうように笑った。
「そんな顔してたら台無しさ、キレイなのに」
綺麗?一瞬嬉しくなりかけたけど、それはメイクのことであってあたし自身のことではないんだろう。と思ってまた溜め息が出た。傷付かないように予防線を張って、逆に傷付いた。馬鹿なのか。
「はー...馬鹿だなぁ...」
「え?何が?」
あ、口に出てしまった。今のはラビに対する言葉じゃなかったけど、口に出したらそう思えてきた。本当馬鹿。頭いいくせに馬鹿。
「だからモテないんだよ、ラビは」
「えぇ~、だからってどゆこと?」
「それは...えーと...」
そんな綺麗な瞳で見つめられると、誤魔化す言葉も出てこない。ラビはあたしの言葉の先を聞く気満々だし、全部言ってしまったら楽になるだろうか。意を決して口を開く。
「...ラビはさ、髪切ったりメイク変えたりしたら、すぐ気付いてくれるじゃん」
「うん」
「気付くだけじゃダメなの」
「えーと...?」
「だから、それが良いとか、似合うとか、なんか褒めてくれないとっていう...あ、アドバイス、的な...」
あれ、何で突然アドバイスしてるのあたし。ていうか、アドバイスと言うよりあたしの願望だ。
空気に耐えられず立ち上がろうとしたら、腕を掴まれた。
「まぁまぁ、座るさ」
「あ、はい...」
巻き戻すみたいにもう一度椅子に座る。ラビが本を置いて、ひとつ咳払いをした。なんでちょっと芝居がかってんの。
「***、オレは大事なことを言ってなかったみたいさ」
「え?うん」
「あのね、オレも***に『この人、気付いてくれる!』と思ってほしくて、どんな小さな変化もいちいち口に出してたんさ。おわかり?」
「そうなの...?」
あれ待って、それってラビもあたしのこと。
「だから、どんなに変化を言い当てても微妙な顔してる***が不思議だったんさ...うんうん、謎は解けた」
「それは、よかったね...」
「ところで***」
「なに」
「今日も可愛いさ」
にっこり笑うラビに、息が止まる。
「な、なに急に」
「言って欲しかったんでしょ?」
「そう、だけどっ...そんな取って付けたような」
「いつも思ってたさ。でも***が可愛いのは変わんないから、特に言ってなかっただけ」
「は......?」
馬鹿なのか。あたしも、ラビも。大きな溜め息が出る。
「はー...もう、毎日頑張ってたのが馬鹿みたい...」
「やっぱりそれってオレのためにやってたんだ?」
「べ、別にラビのためじゃ」
「なにそれツンデレ?オレだって、***がいろんなことするから、毎日違うとこ探すだけで精一杯だったさ」
だから褒める暇もなかったと?そこに一言「可愛い」があれば、あたしはこんなに悩んでない。
「あのさぁ***」
「なに」
「オレ、***のこと好きだな」
「...あたしも、好き」
ラビの顔が近付いてきて、柔らかいものが触れる。
平行線の戦いは、幕を閉じた。
(***は今日も可愛いさー)
(全く言われないのもアレだけど、これはこれでちょっと恥ずかしい...)
「髪切った?2センチくらい」
「リップ変えた?前より濃いな」
「そのピアス新しくない?いつ買ったの?」
ラビはどんな小さな変化も気付いてくれる。最初は気付いてくれるだけで嬉しくて、この人はあたしのことをよく見てくれている、と舞い上がっていた。でもそんな期待は1週間もすれば崩れ去る。ラビは記憶力が人並外れて良いから、他人の変化に気付きやすいだけだ。昨日と今日の違いを、間違い探しみたいに楽しんでいる。何をやったって「気付く」だけで、それについての感想など言ってくれた試しがない。
それでもあたしはラビに気にかけてほしくて、毎日少しずつ変化を加える。ラビの中の「記録」を更新し続ける。
今日の一言は、「いつもよりメイク丁寧じゃん、出かけんの?」だ。別にどこにも行かない。今日はラビと一緒にいられる時間が長そうだから、いつもより時間をかけてみただけ。もちろん、それについての感想はない。ラビがこういうメイクを好きかどうか、が重要なのに。
書庫に行くと言うのでついて行って、溜まった報告書を片付けたり次の任務地のことを調べたりしながら、たまにラビを盗み見る。相変わらず集中している顔はかっこよくて、見とれてしまう。いつになったら、その翡翠の瞳にあたしは映るのか。
ため息と共に、読んでいた本を閉じる。けっこう大きな音が出てしまった。黙々と記録に取り掛かっていたラビが目をあげる。
「どした***、お腹空いた?」
「...別に」
覗き込むように目を合わせてきたラビから逃げようと、本で顔を隠す。
「おーい***ー」
3回くらい無視していたけど、やはり一緒にいられる数少ない機会を無駄にはしたくない。渋々顔を隠していた本をパタリと倒すと、ラビがからかうように笑った。
「そんな顔してたら台無しさ、キレイなのに」
綺麗?一瞬嬉しくなりかけたけど、それはメイクのことであってあたし自身のことではないんだろう。と思ってまた溜め息が出た。傷付かないように予防線を張って、逆に傷付いた。馬鹿なのか。
「はー...馬鹿だなぁ...」
「え?何が?」
あ、口に出てしまった。今のはラビに対する言葉じゃなかったけど、口に出したらそう思えてきた。本当馬鹿。頭いいくせに馬鹿。
「だからモテないんだよ、ラビは」
「えぇ~、だからってどゆこと?」
「それは...えーと...」
そんな綺麗な瞳で見つめられると、誤魔化す言葉も出てこない。ラビはあたしの言葉の先を聞く気満々だし、全部言ってしまったら楽になるだろうか。意を決して口を開く。
「...ラビはさ、髪切ったりメイク変えたりしたら、すぐ気付いてくれるじゃん」
「うん」
「気付くだけじゃダメなの」
「えーと...?」
「だから、それが良いとか、似合うとか、なんか褒めてくれないとっていう...あ、アドバイス、的な...」
あれ、何で突然アドバイスしてるのあたし。ていうか、アドバイスと言うよりあたしの願望だ。
空気に耐えられず立ち上がろうとしたら、腕を掴まれた。
「まぁまぁ、座るさ」
「あ、はい...」
巻き戻すみたいにもう一度椅子に座る。ラビが本を置いて、ひとつ咳払いをした。なんでちょっと芝居がかってんの。
「***、オレは大事なことを言ってなかったみたいさ」
「え?うん」
「あのね、オレも***に『この人、気付いてくれる!』と思ってほしくて、どんな小さな変化もいちいち口に出してたんさ。おわかり?」
「そうなの...?」
あれ待って、それってラビもあたしのこと。
「だから、どんなに変化を言い当てても微妙な顔してる***が不思議だったんさ...うんうん、謎は解けた」
「それは、よかったね...」
「ところで***」
「なに」
「今日も可愛いさ」
にっこり笑うラビに、息が止まる。
「な、なに急に」
「言って欲しかったんでしょ?」
「そう、だけどっ...そんな取って付けたような」
「いつも思ってたさ。でも***が可愛いのは変わんないから、特に言ってなかっただけ」
「は......?」
馬鹿なのか。あたしも、ラビも。大きな溜め息が出る。
「はー...もう、毎日頑張ってたのが馬鹿みたい...」
「やっぱりそれってオレのためにやってたんだ?」
「べ、別にラビのためじゃ」
「なにそれツンデレ?オレだって、***がいろんなことするから、毎日違うとこ探すだけで精一杯だったさ」
だから褒める暇もなかったと?そこに一言「可愛い」があれば、あたしはこんなに悩んでない。
「あのさぁ***」
「なに」
「オレ、***のこと好きだな」
「...あたしも、好き」
ラビの顔が近付いてきて、柔らかいものが触れる。
平行線の戦いは、幕を閉じた。
(***は今日も可愛いさー)
(全く言われないのもアレだけど、これはこれでちょっと恥ずかしい...)