狐神と、


 床に無造作に置かれた座布団や小物を片付けて、庭に面した掃き出し窓を開け放つ。夏の間使っていた薄いカーペットを片付けて、部屋の奥からざっざっと箒で掃いていると、白い姿の狐が窓からひょっこりと顔を出した。

「なあ! もうすぐお昼だぞ!」

「まだ朝ご飯を食べたばかりですよ。それに、お昼まであと二時間ほどあります」

 白い狐は「ちぇっ」と小さく呟いて、尻尾を揺らして庭へと戻っていく。最近生まれた白い狐神は、人々の願いに応えるよりも、遊びや食べる方に夢中だ。食いしん坊な彼のことだから、世話役の自分が忙しく動き回っているところを突けば、時間を勘違いして食べ物が出てくるかもと考えたのかもしれない。
 そんな勘違いなどするわけなく、世話役の自分は黙々と掃除を続けて部屋の埃を掃き出し、最後に掃除機を使って細かい屑を吸ったところでホットカーペットを敷く。その上に冬用のカーペットを敷いて、今か今かと出番を待ちかねていた炬燵を置いた。炬燵布団と毛布、汚れ防止のカバーは昨日干してあったので、直ぐに被せることができた。

「今シーズンもよろしくお願いします」

 卓上を撫でながらスイッチを入れると、「任せろ」とばかりに炬燵が輝いた気がした。
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