狐神と、

 ぽこんぽこんと、白い花が透明な扉の向こう側で跳ねる音がする。
 正確には、電子レンジで温めるタイプのポップコーンだ。
 白い毛皮の狐神は、もふもふとした白い尻尾をゆらゆらと揺らして、短い前足を一生懸命電子レンジが乗る台に置いて、「まだできない、いつできる?」と、首も伸ばす。
 不安定な二本立ちに、狐神のお世話係は苦笑した。

「狐神様、危ないですよ。倒れたら大変です」

「ちゃんと、四つの足で立ってください」とお願いしたら、狐神は不満そうな表情と声を出した。

「だってえー。どうしても気になっちゃうんだよー」

 こうしている間もポップコーンが入った袋は膨らみ、中からぽこんぽこんと跳ねる音がする。バターとしょうゆが絡んだしょっぱい香りが、レンジから漂ってきた。
 狐神の丸々とした瞳がキラキラと輝く。
 やれやれと、お世話係は肩をすくめた。
 スーパーへ買い出しに行ったとき、いつものお菓子コーナーではなく、おつまみのコーナーでうろちょろとしているから何をしているのかと思えば、電子レンジで作るポップコーンを物欲しそうに見ていたのだ。
『あの白い花はなんだ?』と詰め寄られ、『人の子が食べるお菓子です』と答えた時点でお買い上げが決まってしまった。この神様はご飯も好きだが、お菓子もそれ以上に好きだから、時々困ってしまう。見た目は狐でも中身は神様なので、人の子と同じ食事をしても大丈夫だとは言われているが、体重は増えるし、脂肪もちゃんとつくのだ。

「ほらほら、狐神様。そろそろピーって鳴るのでどいてください」

「はーい」

 ひらりと狐神様が退くと同時に、ピーピーとレンジが鳴る。
 狐神は、お世話係の足元をうろちょろと動き回って、食卓にポップコーンが運ばれるのを待った。

「まだ熱いですよ?」

「へっちゃらだぞ!」

「いいから早く持ってきて」と、お世話係の足に掴まり立ちした。
7/10ページ
スキ