星の召使さま
「雪乃お嬢様!今日のおやつは、宮子(みこ)の自信作です!」
目をキラキラと輝かせ、自信満々に言い切った新米の和風メイド。
雪乃は彼女の勢いにぽかんとしながら、机の上に視線を移した。
テーブルの上に並ぶ星の形をしたクッキー。
薄い茶色と濃い茶色のマーブル模様。
小さく砕いたチョコレートが混ぜられた濃い茶色。
余計な味付けは要らない。素朴な物が一番良いと主張する、薄い茶色。
三種類のクッキーが、天秤の小皿に均等に並べられて、テーブルのど真ん中を陣取っている。
小皿に乗りきれなかったクッキーは、天秤の傍らにある大皿に、一つ一つ丁寧に並べられていた。
ひとしきりクッキーを眺めたあと、雪乃は宮子に視線を戻す。
「作って、くれたの…………?」
恐る恐る、メイドに問いかける。
宮子がこの家に来てから、今日で七日目。
雪乃は、『雫(ねがい)に導かれて馳せ参じた』と告げた彼女に対し、どう接するべきか戸惑っていた。
赤の他人。
それも、幾光年も先にある星からやって来たという女性だ。
怪しさのテストがあれば満点だ。
それでも、『家族が欲しいという、雪乃の願いを叶えるため、雪乃のお世話をしたいのだ!』と、頭を下げて願う女性を、雪乃は追い返せなかった。
そして始まった、主人とメイドの生活。
主人の問いかけに、宮子は頬を赤く薄く染めて、はにかみながら言葉を返した。
「お誕生日に、ケーキをお作りすることが出来なかったので…………」
宮子が初めてここに来た日。
ご飯を炊く時に、お米をきっちり正確に計量していた。
お味噌汁を作る時も。
おかずの煮物を作る時も。
しょうが焼きの生姜を削る時も。
食後のアイスココアに入れるお砂糖も。
宮子はきっちりと計量して、お料理を作ってくれた。
お味噌汁の時なんか、しょうが焼きの計量に夢中になって、吹きこぼしてしまったほどだ。
お料理が苦手なのかなと思ったけれど、彼女の作ってくれた物はどれも美味しかった。
でも、慣れない家事でバタバタとしてしまい、ケーキにまで頭が回らなかったのだ。
頑張っている彼女の姿を、扉の隙間から覗き見ていたから、ケーキが無くても雪乃はとても嬉しかった。
「本当はケーキを作りたかったのですが、スポンジとか生クリームとか、ケーキを作るにはまだ知識が足りず……!それに、種類もたくさんあって、お嬢様がどれが好きかとか、聞くに聞けなくて……!サプライズにしたくて……!」
「う、うん、わかった。落ち着いて、宮子」
あわあわとしながら言葉を並び立てるメイドに、雪乃は言う。
雪乃に宥められ、宮子は「はい」と一つ返してから、口を閉ざした。
宮子から再びクッキーに視線を戻す。
少しだけ焦げている部分もあるが、とても美味しそうだ。
否。きっと美味しい。
宮子の作るものは、どれも美味しいのだ。
雪乃のメイドが作るものは、砂糖と塩を間違えていても、想いがたくさん詰まっているから、美味しいのだ。
「……食べていい?」
作った本人に許可を取る。
宮子は今日一番の笑みを見せて、深くうなずいた。
「もちろんですっ!今、お茶をご用意しますね!」
台所へ走って行く彼女を見送ってから、雪乃は天秤の小皿に乗せられた濃い茶色のクッキーに手を伸ばした。
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