short story
どこまでも広がる青い空。
南の島特有のもくもくとした白い雲。
その下にあるのは、これまた青く広大な海であった。
波打ち際に並ぶ岩岩に、白い波が打ちつける。
ざぶんざぶんと繰り返す波音に紛れ、異様に殺気だった黒く小さい集団が現れた。
濡れた羽毛が、日に照らされて艶々と輝く。
きりりと尖ったくちばしに、ふっくらとしたお腹。凛々しい立ち姿。
一迅の風が、彼らを撫でる。
開戦の狼煙を告げるように。
彼ら……ペンギン達は今、海の中に身を投じようとしていた。
海面に海鳥の群れが見える。
あの下には、自分たちの求める餌があるのだ。
「先を越されたか……」
前列に立つペンギンが苦々しく呟く。
海鳥は空を飛べる為、徒歩の自分たちよりも移動が早い。
後方に並んだ後輩達が、不安な様子で顔を見合い、身をよじった。
「怯むなあッ!」
空気を切り裂く威勢の良い声が、前列の中心から出る。
この集団の中で、最も古株なペンギンであった。
仲間からは、将軍と呼ばれている。
「確かに、俺たちは飛べねぇ。でも、水中を飛ぶ事は出来る」
自身のフリッパーを、ペチンと鳴らす。
「俺たちは鳥だ。行くぜ! 野郎どもおおおお!」
将軍が先陣を切って、海へ飛び込む。
続けて、後方のペンギン達も海に入り、飛ぶように泳ぐ。
自分たちは空は飛べない。代わりに、泳ぐ速さはどの鳥にも負けない。負けたくない。
将軍の視界に、魚の群れとそれを追うライバルたちの姿が入る。
魚たちは球体の陣型を取って、敵から逃げていた。
将軍の視線が鋭くなる。
「俺が海鳥を引きつける! その隙に、お前たちはたらふく食え!」
「おーーーー!」
仲間と別れ、将軍はライバルの海鳥を蹴散らしに向かう。
びゅんびゅんと海鳥の進行方向を遮るように泳ぎ、海鳥も方向転換せざるを得なくなった。
黒い鳥の登場に、海鳥はくちばしを開ける。
「おいっ! 危ねぇだろうが!」
「うるせぇ! こっちも生きる為だ!」
食わねば飢え死に。
それが自然界。
海の中は、常に弱肉強食だ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
仲間たちの食の為、将軍は泳ぐ。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
自らの食の為、彼は進む。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
うおおおおおおおおおおおおおお……!
◆ ◆ ◆
「というのが、俺様の武勇伝だ!」
岩の頂点に立ち、将軍は胸を張る。
その麓で、今年生まれたばかりの後輩ペンギン達がはやし立てていた。
「うおおおお!」
「せんぱいかっこいい!」
岩の周囲で騒ぐペンギンの将軍に、同じ頃「入園」したペンギン達が静かに突っ込みを入れた。
「いや、あの人それが元で気を失って保護されたんじゃ……」
「ちょうど、映画の撮影してたダイバーの舟にぶつかってな……」
「それで水族館に来たのか」
しみじみと語る同僚たちである。
「かわいいー!」
「ペンギンの集会?」
そんな彼らをしり目に、柵の向こう側では人間たちがカメラのレンズを向けていたのであった。