お地蔵様のおはす場所

Day3 飛ぶ

「今日はみんなにお土産を持ってきました」

 お地蔵さまが、朗らかに笑いながら平べったい箱の山をみんなに見せる。
 箱に描かれているのは、ドーナッツとドーナッツをモチーフにした動物キャラたち。現世でも大人気なドーナッツショップのドーナッツに、わたしもみんなも目を輝かせた。
 ここは、賽の河原に作られた寺子屋。親よりも先に亡くなった子どもたちが通う学校みたいなところ。衣食住はもちろん、学業もスポーツもしっかりと用意されている。昔からやっていた積み石は、授業に組み込まれる形で残されていた。教師は獄卒がしているけど、たまにお地蔵さまや閻魔大王や、あの世の裁判官や書記をしている獄卒が様子を見に来ている。
 今日はお地蔵さまが来る日だった。お地蔵さまはよく現世のお土産を持ってくるから、みんな楽しみにしていた。

「ポンダリングだ!」

「もちもちのやつ!」

 教室が歓声に包まれるなか、クラスのリーダーみたいな角刈り頭の男の子(通称たけし君)と、かぼちゃ頭を被った子(通称かぼちゃちゃん)が、フライパンとカセットコンロを準備していた。

「どこから持ってきたの?」

 わたしが呆れながら問うと、たけし君がにやりと笑って答えた。

「閻魔が置いていったキャンプ用品から失敬してきた!」

「あの大王、何でも持ってくるなあー」

 お地蔵さまも何でも持ってくるけど。
 お地蔵さまと閻魔大王は対になる存在なのだと、五道転輪王の書記官から聞いている。
 まあ、その書記官、わたしの伯父さんなんだけどね。書記官の他に獄卒課の課長さんもしているから、お仕事忙しいはずなのに、たまに様子を見に来てくれる優しい伯父さんだ。わたしは親よりも先に亡くなった子どもだけど、ホームステイ制度を使って、伯父さんの妹の養女になった。寺子屋でも暮らせるけど、寺子屋の生活スペースは狭いから、今は養女になってよかったなと思っている。
 そして、わたしは今、このカセットコンロを用意した二人をどうしてやろうかと考えている。
 伯父さんなら「あのコンロを買った金はどこから……⁉」と言って、お地蔵さまに詰め寄ってそうだ。閻魔大王じゃなくて、お地蔵さまに詰め寄ってるところが伯父さんらしい。
 さて、わたしはどうしよう。ひとまず、突っ込みを入れた方がいいのか。それとも、様子を見るか。
 ひとまず、使い道について聞いてみた。

「コンロなんて何に使うのよ?」

「なんだよ、お前。知らないのか? ポンダリング焼くんだよ」

「これを食ったやつは飛べるんだぜ?」と、たけし君は得意気に言う。

「飛ぶ?」

 わたしが首を傾げる横で、かぼちゃちゃんがスケッチブックをパラパラとめくり、目的の文字を見つけて開く。かぼちゃちゃんは、筆記で会話をする子なのだ。

【意識が?】

「その単語、よくあったね」

 焼いたポンダリングはとても美味しかった。
 今日の事を伯父さんに教えたら、すかさずお地蔵さまに電話をしてドーナッツ代の事を詰めていたけど、キャンプ用品のことは詰めなくてよかったのかな?
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