お地蔵様のおはす場所

Day2 喫茶店

「おやおや、またさぼりかい?」

 カランカランとベルがなった扉に視線を投げると、男が一人立っていた。毛先があちこちに跳ねた、ふわふわとした髪。近所にある寺の坊主と似たような袈裟姿、自分の身長と同じか少し長いくらいの錫杖。
 男は、この店の女将たる私の、開口一番で放った言葉をやんわりと受け流し、けらけらと笑みを見せている。
 この男が顔を見せるのはいつ以来だろうか。毎日来てるなと思えば、ふらりと来なくなる。ふらりと来なくなったかと思えば、また毎日通い始める。なんとも、掴み所のない男さね。

「酷いなあ、今日はちゃんと仕事をしに来たんですよ」

 店の看板娘が案内するよりも先に、勝手知ったる様子で、空いているカウンター席へ腰を下ろす。

「おや、どんな仕事だい?」

「ボーナスを持ってきたんです。いります? 
いらないなら、私の方で、」

「いるに決まってるだろう、この生臭地蔵が。こっちはお前さんと違ってボランティアで商売してないんだよ」

「とっとと出しな」と手を出せば、「酷い言いぐさだなあ」とこぼしながらも、茶封筒に包まれた紙幣の束を懐から取り出した。なんだい、ちゃんと渡す気があるじゃないか。
「意地の悪い男だね」と発しながら受け取る間、男は、視線を滑らせるように首と頭を動かす。

「今日はまだお客さんが来てないみたいだね」

「その方が、お前さんには良いんだろう?」

「まあね」

 迷子は、居ない方が良い。
 先ほどまでのおどけた口調が、一転して真面目な音に変わる。
 この男の仕事は多岐にわたるが、その中でも多いのが死んだ者をあの世へ送り届けること。
 そしてこの喫茶店は、死んだ者があの世への道を見失った時に手助けする場所。
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