お地蔵様のおはす場所
夏の夕方は、昼間の暑さが残るものの、出歩けないというほどではない。動けば汗ばむが、じっとしていると、日中よりも少し冷めた風が肌を撫でていく。
太陽に別れを告げ、一番星をこんばんはと迎え入れる、そんな夏の日に、幼い女の子がおばあさんに連れられて墓地へとやってきた。
墓地にはおばあさんの旦那さん、そして旦那さんのご家族が居る。女の子の手には花が、おばあさんの手にはバケツと柄杓があった。日射しが落ち着くのを待ってから来たのだろう。
家族もきっと喜ぶはずだ。
慣れた様子で家族の元へ赴いた二人は、これまた慣れた様子で小さなわたしの所へやって来た。わたしもこの墓地へ来て長いが、こまめに立ち寄ってくれるのはこの二人くらいだ。あ、度胸試しに来る小学生も居たな。
あの小学生たちが来る度に、他の遊びは無いのかと思うが、まあ元気なので良いだろうと見逃している。元気なのは良いことだ。
二人はわたしに手を合わせたあと、女の子が「お水だよ」と言って、わたしに水をかけた。頭からびっしょりと濡れた、小さなわたしの額を、しわくちゃの手が手拭いで優しく拭く。
その様子を、幼い女の子がぱっと表情を明るくして眺めている。
「おばあちゃん、おじぞうさま、涼しくなったかな」
「そうだねえ。涼しくなっただろうねえ」
「今日も暑かったもんね」
うん暑かった。
それはもう、肌が焼けるくらいに暑かったし、熱かった。
「また来るね」と言って、二人は去っていく。次来るのは、供えた花が萎れてきた頃。
──気をつけてお帰り。
桃色と水色が混ざりあった、朝方に咲く花の色に似た空が、二人を優しく見守っていった。
まだ湿り気の残る石の肌を、今度は大きな手が優しく撫でた。
「今日もお疲れ様」
手の主は、若い顔立ちの男だ。お坊さんと似たような格好をしていたけど、真昼の太陽と同じ色のふわふわとした髪と、瞳が印象的な若い男だ。手にした錫杖は、私が持つものとよく似ていた。
「いえいえ、こちらこそお疲れ様でございます。──お地蔵様」
わたしはあなたが作り出した化身で、あなたはわたし、わたしはあなた。
小さな地蔵(わたし)はあなたの代わりに、この土地を見守るのが仕事。
「なので、疲れることなど無いのですよ」
この土地の成長と子どもたちの成長を見守れて、わたしは嬉しいのです。
わたしが小さく笑うと、お地蔵様も柔らかな笑みを見せてくれた。