21話 ありがとうでなく行って来ます【最終話】
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「何を描いているんだい?」
建築物の説明とばかりにローマ中を歩き回っている途中、人がいない落ち着いた広場でエリックと二人で休憩を取ることにした。
隣に腰を下ろすと、彼は大きなスケッチブックを広げて絵を描くのに集中していた。
初夏の暑さで額に汗が滲む。
白い紙にサラサラと描いていくエリックは、年寄りの私と違って若く体力もある。美しい芸術と完璧さを追求する彼には、疲れて休むという概念は無いのかもしれない。
ごく自然な流れで彼の絵を覗いてみると、どうやら描かれていたものは「人」のようだった。
てっきり有名なローマの大聖堂や彼にとって敬愛している建物を模写しているのかと思っていたので、エリックが描いているそれが「人」だということに心の内では意外だ、と感じたのだ。
勿論、それは彼が「人」を描くことがとても変だという意味ではない。
エリックは気恥ずかしいのか、少し口角を上げつつ言いにくそうに答えた。
「いえ…これは…」
長く比較的真っ直ぐの髪は黒く一本一本絹糸のように丁寧に描かれていて、それと同じく大きく開けられた黒い瞳は、あまりこちらの国では珍しい東洋人のような顔立ちをしたモデルだった。
見た目からして多分、女性なのだろう。
年齢的には彼と同じ、もしくはそれよりもう少し上くらいだろうか?
エリックとこの絵に描かれた東洋人の少女は、どんな関係なのだろうと気になって思わず尋ねた。
「ほう。上手く描けているね。親戚の誰かかい?」
「いえ、違います」
母親という可能性も少なからず予想していたが、どうやら親類ではなさそうだ。
だとしたら、友人だろうか?
仮面で顔を隠す事情もあり他人に心を許す事が不得手なエリックにとって、その若い女性は彼の心に強く残る人物なのだろう。
私は内心興味を惹かれた。
私がそう考えてる時間もほどなく、エリックが答えた。
その時私は彼の心の籠ったような声を聞いてさらに驚いたのを覚えている。
「僕の……大切な人です」
建築物の説明とばかりにローマ中を歩き回っている途中、人がいない落ち着いた広場でエリックと二人で休憩を取ることにした。
隣に腰を下ろすと、彼は大きなスケッチブックを広げて絵を描くのに集中していた。
初夏の暑さで額に汗が滲む。
白い紙にサラサラと描いていくエリックは、年寄りの私と違って若く体力もある。美しい芸術と完璧さを追求する彼には、疲れて休むという概念は無いのかもしれない。
ごく自然な流れで彼の絵を覗いてみると、どうやら描かれていたものは「人」のようだった。
てっきり有名なローマの大聖堂や彼にとって敬愛している建物を模写しているのかと思っていたので、エリックが描いているそれが「人」だということに心の内では意外だ、と感じたのだ。
勿論、それは彼が「人」を描くことがとても変だという意味ではない。
エリックは気恥ずかしいのか、少し口角を上げつつ言いにくそうに答えた。
「いえ…これは…」
長く比較的真っ直ぐの髪は黒く一本一本絹糸のように丁寧に描かれていて、それと同じく大きく開けられた黒い瞳は、あまりこちらの国では珍しい東洋人のような顔立ちをしたモデルだった。
見た目からして多分、女性なのだろう。
年齢的には彼と同じ、もしくはそれよりもう少し上くらいだろうか?
エリックとこの絵に描かれた東洋人の少女は、どんな関係なのだろうと気になって思わず尋ねた。
「ほう。上手く描けているね。親戚の誰かかい?」
「いえ、違います」
母親という可能性も少なからず予想していたが、どうやら親類ではなさそうだ。
だとしたら、友人だろうか?
仮面で顔を隠す事情もあり他人に心を許す事が不得手なエリックにとって、その若い女性は彼の心に強く残る人物なのだろう。
私は内心興味を惹かれた。
私がそう考えてる時間もほどなく、エリックが答えた。
その時私は彼の心の籠ったような声を聞いてさらに驚いたのを覚えている。
「僕の……大切な人です」