「…ん」

痛い。

頭を動かすと、痛みを感じた。
すぐ近くで、聞き覚えのある高めの可愛らしい声が聞こえてきた。

「パパ！！　美咲が目を覚ましたわ！！」
「本当か！？」

顔を横に向けて目を開けると、ルチアーナとジョヴァンニさんの顔が近くで見えた。

「おおっ、美咲。気がついたかい？」
「美咲、大丈夫！？」

あれ…？
わたしそういえば、ルチアーナを助けて、その後頭に石がぶつかって怪我して…

頭はズキズキしていたけれど、記憶はすぐに戻って来た。

ジョヴァンニさんが心配そうな顔で口を開いた。

「美咲、具合はどうだ？」
「あ…大丈夫です」
「頭の方は？　まだ痛いか？」
「…ちょっとだけ」

ジョヴァンニさんはわたしを心配してくれた。

「キミが怪我をした後、急いで医者を呼んで手当をしてもらったんだ。傷口が大きかったから、一時はどうなるかと思ったが、目が覚めて本当によかった…」

ジョバンニさんがほっとしたような顔で説明してくれた。
頭の痛みを感じつつ起き上がると、自分がリビングのソファーの上で眠っていたのだとその時初めてわかった。




それでも、気になることが一つだけあった。

「エリックは？」

辺りを見回してみても、今一番気になる人―…エリックの姿は見えなかった。

ジョヴァンニさんやルチアーナの顔を見ると、二人共言いにくそうにわたしから視線を外した。

わたしの頭の中に、悪い方向の考えが浮かんだ。
不安になってもう一度、わたしは聞いてみた。


「エリックは、どこ？」



何度も言うわたしに耐えかねたジョヴァンニさんは、重く口を開いた―。

「美咲……落ち着いて聞いてほしい。エリックは……もう、ここにはいないんだ」

「え？」

今、なんて言ったの？
ジョバンニさんが何を言っているのか、わからなかった。

「出て行ってしまったんだ。私達が知らない間に―」