ここ最近、仕事場では不穏な空気が漂っていた。
私の身体の具合も悪くなり、今では仕事場をエリックに全て任せるようになってしまった。

職人たちも最初は、いらぬ私とエリックの関係の噂をたてつつ柔軟に仕事に集中していた。
しかし、ある日―…私の所に新しい職人の一人を雇い入れた時の事だった。

その男は私とエリックが出会う前の―見世物小屋にいた頃の彼を知っていたのだ。
観客として眺めていた男は、その際エリックの仮面の下の正体を知っていた。

男はそれを周りの職人たちに言いふらした―。
私はすぐにその職人をクビにさせたが、広まってしまった噂と職人たちの不穏な空気はいつまでも消えなかった。

エリックに対しての恐れ、そして畏怖から生まれた怒りが日に日に強くなっていった。

エリックはというと、普段冷静に適格な指示をしながら仕事に打ち込んでいるように見えるが、心の奥底ではいつ自分が襲われるのではないか言わんばかりに、職人たちを警戒していた。

朝から晩までそのような状態で働き詰めのエリックは、心身共に疲れてしまっていた。

私もそんな彼を助けてやりたがったが、いうことを効かないこの身体で、且つ若さみなぎる職人たちを叱責するのも最早苦しいほど老いぼれだった。
今では家で休んでいることが多く、不自由な時はアミラや美咲が私の世話を手伝ってくれていた―。

家にヘトヘトで帰ってくるエリックは、ルチアーナが作った料理も喉を通らない。
だからルチアーナは、以前のようにエリックに当たり散らした―。

美咲が間に入るも、私の容体の悪い状況とエリックの無視によるストレスが溜まったルチアーナを止めることはできなかった。