短いもの(~4,000文字)
感情のないロボットと虚ろな僕
「人は、可哀想な生き物じゃ」
何かの作業をしながら、博士が言う。
人が可哀想? 博士はこの人生で一体何を悟ったと言うのだろうか。
気持ちが顔に出ていたのか、博士は僕を見ると
「あぁ、そんな目で見ないでおくれ。これはあくまでワシの個人的な意見じゃよ」
と優しく笑った。
「人はあまりにも脆い。勿論、身体面でもそうじゃが、精神面はそれよりずっと脆い。育った環境によって変化し、接した人や感銘を受けるもの、とにかく色んなものに影響を受けてしまう」
確かにそうだ。
人の“個性”というものは周りからの影響によって生じた結果にすぎないし、僕ら人間の精神は影響を受けなければ皆同じロボットのようだと言われるほど精神は脆弱で、形を変えやすい。
「中にはそれを“成長”と呼ぶ者もいるじゃろう。じゃが、本当にそうなのだろうか。確かにそんな人も一部いるだろうが、ワシは皆が成長出来ているとは到底思えない。周りからの悪意によって人格に歪みが生じ、他人を信用出来ず、自分にさえ嘘を吐き続ける人も多くいるじゃろう」
ワシは後者の人間を救いたい。と、博士は少し目を伏せて言った。その目は憂いを帯びていて、少しだけ見蕩れてしまう。
「そこで考えたのがこれじゃ」
そう言うと、博士はさっきまで作業していた手を止め、僕に手元を見るよう促す。
そこには心臓のようなものがあった。
「人口知能ロボットの核じゃ。身体は既に完成しておるから、あとはこれを嵌め込むだけじゃ。感情はないが、感情を得るための“心”はプログラムしてある」
言葉の意味が分からなくて首を傾げていると「ようするに、きっかけさえあれば人間と同じ感情を得られるということじゃよ」と説明してくれた。
「このロボットと、ワシが救いたいと述べた後者の人間を接触させ、共に純粋な感情を探してもらうのじゃ。人は自分の育てたものに愛着を持ちやすいからの。きっと彼女と一緒に過ごせば歪みを矯正できるはずじゃ」
精神疾患者が自然に囲まれた田舎に引っ越すようなものか。確かに、効果はあるかもしれない。
ロボットが完成したのなら、次は実験か。博士の救いたい種類の人間を探しておく必要があるかもしれない。
「突然だが、この方法で本当に人を救えるのかを君に実験してもらいたい。君もまた、ワシの救いたい人間じゃからな」
博士が僕を見る。
博士の目の中には、虚ろな目をして少しだけ動揺の色が顔にでている僕が映っていた。
「我が愛しい助手よ、頼んだぞ」
僕の手を握って笑う博士。
これが博士の最期だった。
「人は、可哀想な生き物じゃ」
何かの作業をしながら、博士が言う。
人が可哀想? 博士はこの人生で一体何を悟ったと言うのだろうか。
気持ちが顔に出ていたのか、博士は僕を見ると
「あぁ、そんな目で見ないでおくれ。これはあくまでワシの個人的な意見じゃよ」
と優しく笑った。
「人はあまりにも脆い。勿論、身体面でもそうじゃが、精神面はそれよりずっと脆い。育った環境によって変化し、接した人や感銘を受けるもの、とにかく色んなものに影響を受けてしまう」
確かにそうだ。
人の“個性”というものは周りからの影響によって生じた結果にすぎないし、僕ら人間の精神は影響を受けなければ皆同じロボットのようだと言われるほど精神は脆弱で、形を変えやすい。
「中にはそれを“成長”と呼ぶ者もいるじゃろう。じゃが、本当にそうなのだろうか。確かにそんな人も一部いるだろうが、ワシは皆が成長出来ているとは到底思えない。周りからの悪意によって人格に歪みが生じ、他人を信用出来ず、自分にさえ嘘を吐き続ける人も多くいるじゃろう」
ワシは後者の人間を救いたい。と、博士は少し目を伏せて言った。その目は憂いを帯びていて、少しだけ見蕩れてしまう。
「そこで考えたのがこれじゃ」
そう言うと、博士はさっきまで作業していた手を止め、僕に手元を見るよう促す。
そこには心臓のようなものがあった。
「人口知能ロボットの核じゃ。身体は既に完成しておるから、あとはこれを嵌め込むだけじゃ。感情はないが、感情を得るための“心”はプログラムしてある」
言葉の意味が分からなくて首を傾げていると「ようするに、きっかけさえあれば人間と同じ感情を得られるということじゃよ」と説明してくれた。
「このロボットと、ワシが救いたいと述べた後者の人間を接触させ、共に純粋な感情を探してもらうのじゃ。人は自分の育てたものに愛着を持ちやすいからの。きっと彼女と一緒に過ごせば歪みを矯正できるはずじゃ」
精神疾患者が自然に囲まれた田舎に引っ越すようなものか。確かに、効果はあるかもしれない。
ロボットが完成したのなら、次は実験か。博士の救いたい種類の人間を探しておく必要があるかもしれない。
「突然だが、この方法で本当に人を救えるのかを君に実験してもらいたい。君もまた、ワシの救いたい人間じゃからな」
博士が僕を見る。
博士の目の中には、虚ろな目をして少しだけ動揺の色が顔にでている僕が映っていた。
「我が愛しい助手よ、頼んだぞ」
僕の手を握って笑う博士。
これが博士の最期だった。