短いもの(~4,000文字)
生きるって、多分、そういうこと。
『生きるって、多分、自分の価値観をこの世界に押し付け続けることだと思うの』
授業中、スマホがそんなメッセージを受信した。
送り主は僕の幼馴染。
そのメッセージを確認した僕は、教師に腹痛で保健室に行くと言い、教室を出て、その足で彼女のいるであろう屋上に向かう。
ゆっくり歩く。
別に彼女のことがどうでもいい訳じゃない。
ただ、急ぐ必要がないだけなのだ。
意味深なメッセージに屋上という単語で“自殺”を思い浮かべる人も、少なくはないだろう。
でもそんな心配はいらない。なぜなら、彼女はどれだけ傷つこうが絶望しようが、死ねないから。
屋上に着く。
やっぱり君はここにいた。
「生きる資格って、自分の価値観を持つことだと思うの」
僕が来るなり、彼女は口を開いてそう言った。
僕は何も言わない。まだ喋る必要はないから。
「被害者ヅラしてる奴も、他人本位で苦しんでる奴も、自分のことが大嫌いな奴も、みんなみんな心の奥底では自分が正しいと確信して生きてる」
両手を広げながら君は僕に、そして世界に訴えかける。
「でもどの価値観も必ず人を傷つける。否定する。仕方ないことなんだって分かるよ。でもさ__」
彼女は壊れたように笑った。
「そんなの、あんまりだよ」
もう、何もかも分からないんだ。と震える自身の身体を抱きしめる彼女を見て、ふと、神様は君の訴えに耳を傾けているのかな。と考える。
もし君がこうして訴えかけていることすら知らなかったら、それはとても残酷だな。
「何も考えたくない。何も受容したくない。何もかも要らない。こんな世界、要らないよ」
全てに怯え、拒絶する彼女を見ていると、屋上から突き落としてあげたくなる衝動に駆られる。
だが、僕はここでは“普通”であり、“客観的”でなくてはならない。それが僕の役割であって、僕はその役割に逆らうつもりも毛頭ない。
だから今日も僕は全ての感情を遮断し、涼しい顔を作る。
そして、いつも通り彼女を“普通”で殺すため、口を開く。
「全てを見失い拒絶するその価値観が、君の生きる資格であり、生きる義務だよ」
僕は、まるで教科書を読むかのように冷たく言う。
「もう少し、生きてみようよ」
手を差し伸べる。
そこに優しさなんてないし、君を苦しめたいという気持ちもない。
ただ君を殺すために手を差し伸べただけ。
それが僕の与えられた役割だから。
彼女はそんな冷たい僕の手を、虚ろな目で、まるで義務のように握る。
人の価値観を自分の価値観で殺し、そんな自分の価値観も誰かの価値観によって殺されていく。
それでも助けたふりをして、その手を血で染めていないと偽りながら明日を迎えるんだ。
生きるって、多分、そういうこと。
『生きるって、多分、自分の価値観をこの世界に押し付け続けることだと思うの』
授業中、スマホがそんなメッセージを受信した。
送り主は僕の幼馴染。
そのメッセージを確認した僕は、教師に腹痛で保健室に行くと言い、教室を出て、その足で彼女のいるであろう屋上に向かう。
ゆっくり歩く。
別に彼女のことがどうでもいい訳じゃない。
ただ、急ぐ必要がないだけなのだ。
意味深なメッセージに屋上という単語で“自殺”を思い浮かべる人も、少なくはないだろう。
でもそんな心配はいらない。なぜなら、彼女はどれだけ傷つこうが絶望しようが、死ねないから。
屋上に着く。
やっぱり君はここにいた。
「生きる資格って、自分の価値観を持つことだと思うの」
僕が来るなり、彼女は口を開いてそう言った。
僕は何も言わない。まだ喋る必要はないから。
「被害者ヅラしてる奴も、他人本位で苦しんでる奴も、自分のことが大嫌いな奴も、みんなみんな心の奥底では自分が正しいと確信して生きてる」
両手を広げながら君は僕に、そして世界に訴えかける。
「でもどの価値観も必ず人を傷つける。否定する。仕方ないことなんだって分かるよ。でもさ__」
彼女は壊れたように笑った。
「そんなの、あんまりだよ」
もう、何もかも分からないんだ。と震える自身の身体を抱きしめる彼女を見て、ふと、神様は君の訴えに耳を傾けているのかな。と考える。
もし君がこうして訴えかけていることすら知らなかったら、それはとても残酷だな。
「何も考えたくない。何も受容したくない。何もかも要らない。こんな世界、要らないよ」
全てに怯え、拒絶する彼女を見ていると、屋上から突き落としてあげたくなる衝動に駆られる。
だが、僕はここでは“普通”であり、“客観的”でなくてはならない。それが僕の役割であって、僕はその役割に逆らうつもりも毛頭ない。
だから今日も僕は全ての感情を遮断し、涼しい顔を作る。
そして、いつも通り彼女を“普通”で殺すため、口を開く。
「全てを見失い拒絶するその価値観が、君の生きる資格であり、生きる義務だよ」
僕は、まるで教科書を読むかのように冷たく言う。
「もう少し、生きてみようよ」
手を差し伸べる。
そこに優しさなんてないし、君を苦しめたいという気持ちもない。
ただ君を殺すために手を差し伸べただけ。
それが僕の与えられた役割だから。
彼女はそんな冷たい僕の手を、虚ろな目で、まるで義務のように握る。
人の価値観を自分の価値観で殺し、そんな自分の価値観も誰かの価値観によって殺されていく。
それでも助けたふりをして、その手を血で染めていないと偽りながら明日を迎えるんだ。
生きるって、多分、そういうこと。