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短いもの(~4,000文字)

陶酔





 放課後、静まり返った教室。
 夕日に照らされたその空間は、まさしく青春のそれだった。

「いきなり呼び出して、なんの用事?」

 凛としていて、それでいて優しい声が僕に問いかける。

「あ、あの、」

 考え無しにとりあえず声を発するも、所詮は陰キャ。どもって満足に言葉を紡ぐこともできない。

 胸に手を当てる。
 とりあえず、このうるさい心臓を落ち着かせよう。ヒツジが一匹、ヒツジが二匹……ああ違う、これは寝る時のものだ。

 ええい、もう知るか。どうにでもなれ……!
 半ばやけくそになって顔をあげる。すると、目の前の彼女とパッチリ目が合う。

 透き通った、嘘偽りのない純粋な彼女の瞳に、そのまま見惚れる。不思議と、さっきまでうるさいくらい聞こえていた拍動は、全く聞こえなくなっていた。
 僕は、貴方のことが____

「好きです」

 はっとして、素早く両手で自分の口を覆う。だが、そうしたところで、既にその言葉は彼女に届いていた。

 彼女の奇麗な目が、こぼれそうな程に大きく見開かれる。僕はその瞳に囚われて目を離せない。
 ……完璧で優しい学校の人気者である彼女は一体、なんと言って僕を振るのだろうか。少し気になった。

 ところが、彼女は何も言わない。代わりに、その瞳を妖しく細めてみせた。……彼女は笑っていたのだ。……いや、嗤った。

「……っ」

 思わずその場にへたり込む。
 僕はようやく気づいた。
 僕が緊張のあまりについ告白の言葉を零してしまったことも、今日の放課後に彼女を呼び出したことも……いや、そもそも彼女に惚れてしまったことすらも、彼女の狙い通り。つまり、手のひらの上だったのだ。

 僕が彼女の本性に気づいたことも、彼女に計算されたものなのだろう。彼女は僕にそっと手を差し伸べた。

「私たち、きっといい友達になれると思うよ」

 彼女の言葉に、再び心臓が脈打つ。
 __あぁ、僕は彼女の手のひらで踊らされ続けたいのだ。


 これが、彼女が僕に見せた最初の真実だった。
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