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短いもの(~4,000文字)

 暑い。

 額に滲む汗を拭いながら、憎い青空を仰ぐ。今日の気温は37度。今年で最も気温が高い日だと、ニュースで聞いた気がする。

「大丈夫かい?」

 青年が、いつもの調子で私に話しかけてくる。その胡散臭いような優しさを帯びた声色も、随分と聞き慣れてしまった。

「ちょっと日陰で休みたいかな」

「うん、いいよ」

 彼は笑って手を差し伸べてくれた。
 反射的に手を取る。でも、よく考えれば、暑いのに手を繋ぐなんてとんだ地獄だ。恋人でもないのに。

「そこの建物に行こうか」

 彼の言葉に従い、近くのビルに向かって二人で歩き出す。


 ふと、彼の足が止まる。

「どうしたの?」

 彼の視線を追うと、少し離れたところで女性が泣いていた。
 女性を見たあと、再び彼を見つめる。あの女性のところに行くのだろうか。

 私の視線に気づいたのか、彼は私を見て嘘くさい笑みを浮かべた。

「……あぁ、分かってるよ。君が一番心配だからね」

 さ、行くよ。と彼は再び歩き出した。手を引かれて私も歩き出す。





「別に、私が言ったこと気にしなくてもいいから。面倒でしょ」

 日陰で涼みながら言う。彼の言動からは真実は見分けられない。だから、面倒だと思われないように言っておくことにしたのだ。

「いいや? 僕が好きでやっていることだから、このままやらせてもらうよ」

「好きで……って」

「いつか君に、僕も普通の人間なんだと認めさせてみたいからね」

「絶対認めない」

「ははは、辛口なところも可愛いね」

 彼は、愛おしそうに私を見つめて言った。


 ____彼の正体は、いわゆるサイコパスというやつだ。
 彼が私を……いや、人のことを“可愛い”と言うのは、ペットに対する愛情のようなもの。ここだけでもサイコパスだが、凄いのが誰に対してもその感情で、同じだけの愛を持って接するということだ。
 特筆して好きな人もいないし、嫌いな人もいない。徹底された平等、博愛の権化だと言っても過言ではないだろう。

 そういう彼の態度を見かねて、「普通の人間なら、他人に優先順位がある」と言ったところ、彼がそれを実行し始めたのだ。

「……可愛くない」

「はいはい」

 否定するが、それもいつものこと。軽く受け流され、頭をくしゃくしゃと撫でられる。
 本当は、ペットみたいな愛情なんかで接してほしくはない。彼と対等に近い立場で在りたいと思っている。

 ...........でも、私はそれが出来ないままでいる。

「それじゃあ、そろそろ帰るかい?」

 彼の言葉に頷く。

 ____彼が変わるまで、傍にいよう。
 変われた時に、離れらたらそれでいい。
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