短いもの(~4,000文字)
冷たい君
「ねぇ、君は“死”ってどういうものだと思う?」
私にしては珍しく真剣な質問をしたのに、君は驚くこともせず本に視線を落としたまま口を開いた。
「自然の現象の一つ」
「うっ。そうなんだけどさ」
今の質問は哲学的な話をする雰囲気だったじゃん。
心の中でツッコミながらも、再度チャレンジしようと似たような質問を口にする。
「死んだらどうなるんだろ」
「消えるだけだよ」
まさかの即答。
「あっ酷い。もっと夢のあること言ってよ。生まれ変わるとか、天国に行くとか」
そしたら生まれ変わる条件とか、天国がどんなところかとか面白い話になってくのに……。
わざとらしく頬を膨らましてみるが、私のことを見てない君には当然なんの反応も貰えないわけで……。
こうすると皆私のこと可愛いって言うのに。と少しだけいじける。
「嘘の夢を語る方が、よっぽど残酷だろ。僕はそこまで残酷な人にはなれないよ」
「まぁ……確かに」
それでも私はいつ死んでもおかしくない類の病人。夢くらい見たっていいじゃん。とは思ったものの、哲学的な話をしたかっただけなので、正直、生まれ変わろうが天国があろうがどっちでもいいし興味も無くなったから、納得したような言葉を適当に呟いておいた。
少ししてずっと聞きたかった疑問を思い出したので、また口を開く。
「どうして君は毎日読書しに私の病室に来るの?」
他にも図書館とかいい場所あるじゃん。そう言うと君は首を振った。
「自分でも分からないけど、何故かここが一番落ち着くから。読書するのに最適なんだ」
そんなことあるのかな? とは思ったけど、君が言うんならそうなのだろう。
それに、たとえ読書の場としてだとしても君に選ばれたのが嬉しかった。
「それじゃあ、私がいなくなったら寂しくなるね」
「まぁ、読書する場所だしな」
「ねー。私個人には何もないの?」
「ないよ。言っただろ? 死は現象に過ぎないんだって」
そんなことにいちいち感情を使ってる暇があるんなら読書したいよ。そう言われて少し落ち込む。
君と会話して、君の冷たさに落ち込むのはこれで何回目だろう。最初こそ悲しくなったけど、そんな君の冷たさに何故か安心してしまうようになった。
「そっか」
よく考えたらそれでいいのかもしれない。
私は君を悲しませる可能性がないという事実に安心して死ねるんだから。
「私が死んでも泣かないでね」
約束だよ? そう言って笑うと不思議と肩の荷が降りた気がした。
◇
雨の音がうるさい。
いつもなら雨が降っていても気にならないはずなのに。
おかげで本の内容が一切入ってこないじゃないか。
仕方なく本を閉じ、ため息を吐きながら君の顔を覗き込む。
「呑気な顔」
思わず笑いが零れる。
とても死んだとは思えないほど、君はいつものように穏やかな表情を浮かべていた。
ふと、髪が頬にかかっていることに気づいて手を伸ばす。
「……あれ」
自分でも驚くくらい間抜けな声が出た。
それもそのはずで、何故だか伸ばした手が震えていたのだ。
病室は室温調整が完璧にしてあるので、決して寒さからではない。
そう言えば、今日は何だか変なんだ。
小さな虚しさが胸の内に居座ってて、気を抜くと何かが溢れて崩れそうなんだ。
どうして? と自問する。
答えは考える時間も必要ないくらい呆気なく目の前にあった。
ごめん。約束、守れなかった。
冷たくなった君の手の甲を水滴が濡らした。
「ねぇ、君は“死”ってどういうものだと思う?」
私にしては珍しく真剣な質問をしたのに、君は驚くこともせず本に視線を落としたまま口を開いた。
「自然の現象の一つ」
「うっ。そうなんだけどさ」
今の質問は哲学的な話をする雰囲気だったじゃん。
心の中でツッコミながらも、再度チャレンジしようと似たような質問を口にする。
「死んだらどうなるんだろ」
「消えるだけだよ」
まさかの即答。
「あっ酷い。もっと夢のあること言ってよ。生まれ変わるとか、天国に行くとか」
そしたら生まれ変わる条件とか、天国がどんなところかとか面白い話になってくのに……。
わざとらしく頬を膨らましてみるが、私のことを見てない君には当然なんの反応も貰えないわけで……。
こうすると皆私のこと可愛いって言うのに。と少しだけいじける。
「嘘の夢を語る方が、よっぽど残酷だろ。僕はそこまで残酷な人にはなれないよ」
「まぁ……確かに」
それでも私はいつ死んでもおかしくない類の病人。夢くらい見たっていいじゃん。とは思ったものの、哲学的な話をしたかっただけなので、正直、生まれ変わろうが天国があろうがどっちでもいいし興味も無くなったから、納得したような言葉を適当に呟いておいた。
少ししてずっと聞きたかった疑問を思い出したので、また口を開く。
「どうして君は毎日読書しに私の病室に来るの?」
他にも図書館とかいい場所あるじゃん。そう言うと君は首を振った。
「自分でも分からないけど、何故かここが一番落ち着くから。読書するのに最適なんだ」
そんなことあるのかな? とは思ったけど、君が言うんならそうなのだろう。
それに、たとえ読書の場としてだとしても君に選ばれたのが嬉しかった。
「それじゃあ、私がいなくなったら寂しくなるね」
「まぁ、読書する場所だしな」
「ねー。私個人には何もないの?」
「ないよ。言っただろ? 死は現象に過ぎないんだって」
そんなことにいちいち感情を使ってる暇があるんなら読書したいよ。そう言われて少し落ち込む。
君と会話して、君の冷たさに落ち込むのはこれで何回目だろう。最初こそ悲しくなったけど、そんな君の冷たさに何故か安心してしまうようになった。
「そっか」
よく考えたらそれでいいのかもしれない。
私は君を悲しませる可能性がないという事実に安心して死ねるんだから。
「私が死んでも泣かないでね」
約束だよ? そう言って笑うと不思議と肩の荷が降りた気がした。
◇
雨の音がうるさい。
いつもなら雨が降っていても気にならないはずなのに。
おかげで本の内容が一切入ってこないじゃないか。
仕方なく本を閉じ、ため息を吐きながら君の顔を覗き込む。
「呑気な顔」
思わず笑いが零れる。
とても死んだとは思えないほど、君はいつものように穏やかな表情を浮かべていた。
ふと、髪が頬にかかっていることに気づいて手を伸ばす。
「……あれ」
自分でも驚くくらい間抜けな声が出た。
それもそのはずで、何故だか伸ばした手が震えていたのだ。
病室は室温調整が完璧にしてあるので、決して寒さからではない。
そう言えば、今日は何だか変なんだ。
小さな虚しさが胸の内に居座ってて、気を抜くと何かが溢れて崩れそうなんだ。
どうして? と自問する。
答えは考える時間も必要ないくらい呆気なく目の前にあった。
ごめん。約束、守れなかった。
冷たくなった君の手の甲を水滴が濡らした。