短いもの(~4,000文字)
君の好きなカフェオレ
暑い。
嫌味のように晴れ渡っている空の下、僕は水筒のお茶を喉に流し込んだ。
……いや、正確には何も喉に流れて来なかった。
「……」
黙って水筒の中身を確認すると、そこにあったであろう液体がなくなっていた。嘘であってほしかったが、少し前に僕がお茶を飲み干してしまっていたことを思い出してため息を吐く。
仕方ない、なけなしの小遣いで飲み物を買おう。
そう思い辺りを見渡すと、すぐそこに自販機があった。
「どれにしようかな」
安くてさっぱりする飲み物がベストだ。
早速、希望に合った飲み物がないか上から下へと探していく。天然水、りんごジュース、オレンジジュース、午後の紅茶にファンタグレープ……そのどれもがさっぱりしていて、尚且つ無難な値段だった。
まぁ、自販機だし、そうそう唸ってしまうような値段の飲み物はないだろう。
今の自分の気分と照らし合わせながら、再び上から下へと見ていく。すると、ある飲み物が目に入った。
カフェオレ。
他の飲み物に比べ、圧倒的にさっぱりしないし、少し高めの値段。それなのに、気づけばそのカフェオレを買っていた。
「……はは、」
手に持ったそれを見て、思わず苦笑いをこぼす。
このカフェオレは、元カノが一番好きだった飲み物だ。
そもそも、彼女は大のカフェオレ好きで、それはもう、カフェイン中毒かってくらい毎日飲んでた。対する僕は、カフェオレやコーヒー特有の、口の中がベタベタする感じが少し苦手で、彼女に勧められては断る……なんてやり取りをよくしたものだ。
あんなに飲んで欲しそうだった彼女が隣にいる時には飲まずに、彼女がいなくなった今、ただ感傷に浸るためだけに苦手な……それも少し値段の高いカフェオレを買うなんて、僕は馬鹿なのだろうか。それとも、どうしようもないクズなのだろうか。
蓋を開ける。
すると、彼女の部屋の匂いが鼻をくすぐる。
彼女の部屋にも当然、カフェオレやコーヒーの類が沢山あるため、学校の職員室のような匂いなのだ。まさか、この匂いに安心感を覚えるなんて。付き合う前の僕では想像も出来ないことだった。
優しい彼女の部屋を思い出して、少しだけ寂しくなる。あの頃は、起きた時に彼女がいるだけで本当に……本当に、幸せで。何度も夢じゃないかって疑ったっけな。
……今でも夢だったんじゃないかって思ってるけどね。
いよいよ喉の乾きが限界を迎え、僕は感傷に浸りながらもカフェオレを口に含んだ。
口に含んでがぶがぶと飲んだ後、あることに気づく。
……喉ごしが驚くほどさっぱりしていた。
パッケージをよく見ると、どうやら今は夏限定でさっぱりしたものになっているらしい。
「……変わったんだな」
君を思い出して自販機でさっぱりしないコーヒーを買って、飲んで。
昔より随分と変わってしまったカフェオレに、あの頃より飲みやすくて僕の口に合うカフェオレに、涙が零れた。
暑い。
嫌味のように晴れ渡っている空の下、僕は水筒のお茶を喉に流し込んだ。
……いや、正確には何も喉に流れて来なかった。
「……」
黙って水筒の中身を確認すると、そこにあったであろう液体がなくなっていた。嘘であってほしかったが、少し前に僕がお茶を飲み干してしまっていたことを思い出してため息を吐く。
仕方ない、なけなしの小遣いで飲み物を買おう。
そう思い辺りを見渡すと、すぐそこに自販機があった。
「どれにしようかな」
安くてさっぱりする飲み物がベストだ。
早速、希望に合った飲み物がないか上から下へと探していく。天然水、りんごジュース、オレンジジュース、午後の紅茶にファンタグレープ……そのどれもがさっぱりしていて、尚且つ無難な値段だった。
まぁ、自販機だし、そうそう唸ってしまうような値段の飲み物はないだろう。
今の自分の気分と照らし合わせながら、再び上から下へと見ていく。すると、ある飲み物が目に入った。
カフェオレ。
他の飲み物に比べ、圧倒的にさっぱりしないし、少し高めの値段。それなのに、気づけばそのカフェオレを買っていた。
「……はは、」
手に持ったそれを見て、思わず苦笑いをこぼす。
このカフェオレは、元カノが一番好きだった飲み物だ。
そもそも、彼女は大のカフェオレ好きで、それはもう、カフェイン中毒かってくらい毎日飲んでた。対する僕は、カフェオレやコーヒー特有の、口の中がベタベタする感じが少し苦手で、彼女に勧められては断る……なんてやり取りをよくしたものだ。
あんなに飲んで欲しそうだった彼女が隣にいる時には飲まずに、彼女がいなくなった今、ただ感傷に浸るためだけに苦手な……それも少し値段の高いカフェオレを買うなんて、僕は馬鹿なのだろうか。それとも、どうしようもないクズなのだろうか。
蓋を開ける。
すると、彼女の部屋の匂いが鼻をくすぐる。
彼女の部屋にも当然、カフェオレやコーヒーの類が沢山あるため、学校の職員室のような匂いなのだ。まさか、この匂いに安心感を覚えるなんて。付き合う前の僕では想像も出来ないことだった。
優しい彼女の部屋を思い出して、少しだけ寂しくなる。あの頃は、起きた時に彼女がいるだけで本当に……本当に、幸せで。何度も夢じゃないかって疑ったっけな。
……今でも夢だったんじゃないかって思ってるけどね。
いよいよ喉の乾きが限界を迎え、僕は感傷に浸りながらもカフェオレを口に含んだ。
口に含んでがぶがぶと飲んだ後、あることに気づく。
……喉ごしが驚くほどさっぱりしていた。
パッケージをよく見ると、どうやら今は夏限定でさっぱりしたものになっているらしい。
「……変わったんだな」
君を思い出して自販機でさっぱりしないコーヒーを買って、飲んで。
昔より随分と変わってしまったカフェオレに、あの頃より飲みやすくて僕の口に合うカフェオレに、涙が零れた。