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短いもの(~4,000文字)

優しい日





 生理痛。
 恐らく、ほとんどの女性が聞くだけで嫌がる単語だろう。

 それは勿論、私も同じなわけで。この下腹部の痛みや眠気、食欲の増減、更にはメンタル面での不調までと来れば、恨まずにはいられない。どんなに優しい聖母のような人でも眉をひそめるだろう。

 でも、実は私は、生理痛という言葉がほんの少しだけ好きだ。

「痛いー……」

 布団に横になりがらそう言うと、優しい手が私のお腹に当てられる。

「大丈夫?」

 私のお腹に手を当てた彼は、心配そうに私に微笑みかけてくれる。毎月のことなのに、毎月変わらない心配をしてくれる彼を見ていると、私はとても愛されているのだと実感できた。

「大丈夫じゃないよ、すっごく痛い」

 そう言うと、彼は反対の手で持っていたスマホを置いて、私の頭も撫でてくれた。

「何かしてほしいことはある?」

 彼の甘い声に眠気が相まって蕩けそうになるが、ぐっと堪える。

「アイス買ってきてほしい……」

 少し上目遣いに言うと、彼は嫌な顔一つせずに「分かった、ちょっと待っててね」と立ち上がった。

「ん、ありがとう」

 あぁ、でもちょっと寂しいな……。
 「行ってきます」と遠くなっていく彼の背中を見ながら、自分で言ったことなのに気分が沈んでいく。

 すると、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、家を出たばかりの彼が電話をかけてきた。

「どうしたの?」

 嬉しい気持ちを抑えて聞くと、彼は少し恥ずかしそうに笑いながら言った。

「ちょっと、声聞いてたくて」

 家からコンビニにかかる時間は五分くらいで、当然だけど普段の彼ならそんなことは言わない。きっと私のために電話をかけてくれたのだろう。

「ありがとう」

「ん? 何が?」

 彼の白々しい声色に少し微笑みながら、幸せを噛み締める。
 だから私は、ほんの少しだけ生理痛という単語が好きなのだ。
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