第9話「暴れクマvsクマ殺し」
何だって、お前がいる。
横澤は前から歩いてくる青年を見て、ウンザリとため息をつく。
するとその青年、小野寺律も横澤を見つけたらしく、同じようにウンザリした顔をしていた。
休日、横澤は武蔵野第一図書館に来ていた。
このところ「ごくごく個人的な理由」で、心中が穏やかでない。
その気分転換にと、ここへ来たのだ。
それなのに「ごくごく個人的な理由」の元凶たる律が、現れたのだ。
思わず不機嫌な顔になるのは、許してほしいところだ。
最近丸川書店に入社した小野寺律は、横澤の想い人、高野政宗の初恋の相手だった。
その律が何の因果か、高野の部下としてエメラルド編集部に配属されたのである。
高野の話では、2人が付き合っていた10年前、律には婚約者がいたという話である。
杏と律のいきさつをまったく知らない横澤は、律を高野を弄ぶ卑劣な輩だと思っていた。
だから社内で律を見つければ、チクチクと嫌味を言ったりもした。
だが先日、月刊エメラルドの締め切り前の修羅場で。
律はインフルエンザでアシスタントが全滅したという担当作家の原稿を間に合わせると、豪語した。
そして実際北海道まで日帰り往復し、ギリギリで入稿させることに成功したのだ。
それを見ていた横澤は「何なんだ、お前は!」と叫びたくなった。
律がいっそ仕事に不誠実な編集者なら、思いっきり軽蔑し、憎み倒すことができたのに。
やる気があり、上司にも「絶対に原稿を間に合わせる!」と食ってかかり、実際全力でそれをする。
横澤はそういう若手のやる気が、大好きだったりする。
素直に嫌なヤツのカテゴリーに入ってくれない辺りも、横澤の神経を逆なでするのだ。
「こんにちは。お疲れ様です。」
横澤に気付いた律は、ていねいに挨拶して、頭を下げた。
だが顔だけは引きつっており、イヤだと思っているのが丸わかりだ。
「何でいるんだ。お前」
「休みの日に図書館に来るのが、そんなに悪いですか?」
「そうじゃないが」
「俺だって愉快じゃないことは、察してください」
微妙に険悪な雰囲気に、横澤はまたため息をついた。
確かに「何でいるんだ」は、こちらが大人げなかった。
だけど売られたケンカをやりすごさずに買うこいつにも、問題あるだろ。
一応、こっちは年上だぞ!?
「どうかなさいましたか?」
不意に声をかけられ、横澤はハッと我に返った。
立っていたのは、スーツ姿の2人の男。
階級章と名札をつけているところを見ると、図書館員だろう。
どうやら険悪な雰囲気を察して、声をかけてきたらしい。
「すみません。何でもありません。」
横澤はそう告げて、立ち去ろうとした瞬間。
図書館員の1人が「あなたは先日の」と声をかけてきた。
その図書館員の顔を見て、横澤は「あ」と声を上げる。
前回来た時、たまたま抗争があり、逃げ遅れていた耳の不自由な女性を助けた。
そのときにお礼を言ってきた図書館員だったのだ。
横澤は前から歩いてくる青年を見て、ウンザリとため息をつく。
するとその青年、小野寺律も横澤を見つけたらしく、同じようにウンザリした顔をしていた。
休日、横澤は武蔵野第一図書館に来ていた。
このところ「ごくごく個人的な理由」で、心中が穏やかでない。
その気分転換にと、ここへ来たのだ。
それなのに「ごくごく個人的な理由」の元凶たる律が、現れたのだ。
思わず不機嫌な顔になるのは、許してほしいところだ。
最近丸川書店に入社した小野寺律は、横澤の想い人、高野政宗の初恋の相手だった。
その律が何の因果か、高野の部下としてエメラルド編集部に配属されたのである。
高野の話では、2人が付き合っていた10年前、律には婚約者がいたという話である。
杏と律のいきさつをまったく知らない横澤は、律を高野を弄ぶ卑劣な輩だと思っていた。
だから社内で律を見つければ、チクチクと嫌味を言ったりもした。
だが先日、月刊エメラルドの締め切り前の修羅場で。
律はインフルエンザでアシスタントが全滅したという担当作家の原稿を間に合わせると、豪語した。
そして実際北海道まで日帰り往復し、ギリギリで入稿させることに成功したのだ。
それを見ていた横澤は「何なんだ、お前は!」と叫びたくなった。
律がいっそ仕事に不誠実な編集者なら、思いっきり軽蔑し、憎み倒すことができたのに。
やる気があり、上司にも「絶対に原稿を間に合わせる!」と食ってかかり、実際全力でそれをする。
横澤はそういう若手のやる気が、大好きだったりする。
素直に嫌なヤツのカテゴリーに入ってくれない辺りも、横澤の神経を逆なでするのだ。
「こんにちは。お疲れ様です。」
横澤に気付いた律は、ていねいに挨拶して、頭を下げた。
だが顔だけは引きつっており、イヤだと思っているのが丸わかりだ。
「何でいるんだ。お前」
「休みの日に図書館に来るのが、そんなに悪いですか?」
「そうじゃないが」
「俺だって愉快じゃないことは、察してください」
微妙に険悪な雰囲気に、横澤はまたため息をついた。
確かに「何でいるんだ」は、こちらが大人げなかった。
だけど売られたケンカをやりすごさずに買うこいつにも、問題あるだろ。
一応、こっちは年上だぞ!?
「どうかなさいましたか?」
不意に声をかけられ、横澤はハッと我に返った。
立っていたのは、スーツ姿の2人の男。
階級章と名札をつけているところを見ると、図書館員だろう。
どうやら険悪な雰囲気を察して、声をかけてきたらしい。
「すみません。何でもありません。」
横澤はそう告げて、立ち去ろうとした瞬間。
図書館員の1人が「あなたは先日の」と声をかけてきた。
その図書館員の顔を見て、横澤は「あ」と声を上げる。
前回来た時、たまたま抗争があり、逃げ遅れていた耳の不自由な女性を助けた。
そのときにお礼を言ってきた図書館員だったのだ。
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