第6話「頑張れ」
「郁ちゃんも小田原に行ったの?」
「あ、あたしは行ってないです。あの日は稲嶺司令の付き添いで」
何気なく聞いた質問に、とんでもない答えが返ってきた。
驚いた律は、まじまじと郁の顔を凝視していた。
律と郁が顔を合わせるのは、約1か月半ぶりのことだ。
相変わらず律は数日に1度のペースで図書館に通っていた。
だが郁は、館内に出ることが少なかったのだ。
図書隊員の間では「ロケット花火事件」と呼ばれる「図書館の自主規制を考えるフォーラム」。
しばらくはそれに時間を取られた。
その後は、野辺山宗八氏の葬儀に参加する稲嶺司令に付き添うため、ずっと防衛部勤務だった。
もちろんそんな細かい勤務状況を、律に話すわけはない。
だが律も小田原の情報歴史資料館で、図書隊と良化隊が攻防戦を繰り広げたのは知っている。
小さな私設図書館の蔵書は図書館に寄付されたが、メディア良化法に関する報道記録も含まれている。
良化隊はこれを奪おうとして、大規模な戦闘になったのだ。
郁がこれに参加したのかと、律は気にしていた。
いくら仕事とはいえ、若い女性が男に混じって戦争をするのは大変なことだと思う。
だから今日、館内を元気に巡回している郁を見て、ホッとした。
そして何の気なしに小田原に行ったのかと聞いたところ、とんでもない答えが返ってきたのだ。
稲嶺司令の付き添いをしていたと。
「稲嶺司令って、あのとき誘拐されたって報道されてたけど。」
「あ~、実は一緒に誘拐されまして。」
律がまさかと思いながらも問うと、ますます怖い答えが返ってきた。
そんなにあっさり「誘拐されまして」なんて言われても、リアクションに困る!
「いろいろあるだろうから、深くは聞かないけど。。。無事でよかったね。」
「えへへ。ありがとうございます!」
律は大いに気になったが、それ以上は突っ込まないことにした。
話せないような機密事項もあるだろう。
郁が元気に笑っているのだから、律としてはそれでよかった。
「しばらく郁ちゃんを見かけなかったから、ちょっと寂しかったよ。」
「あ、嬉しい。でもこれからは図書館業務が増えますから、うんざりするほど見られますよ。」
「そうなんだ。」
「実は両親が来るんですけど、図書館員って嘘言ってるんです。」
「え!?バレないの!?」
「班のみんなに協力を頼みました。館内業務を増やしてもらって。」
だからうんざりするほど見られますよというわけか。
律は苦笑しながら「頑張って」と告げた。
郁が「ありがとうございます!頑張ります!」と元気いっぱい宣言して、業務に戻っていく。
律はその後ろ姿を見ながら「ちょっとわかるかなぁ」と呟いた。
親と同じ会社で働く律は、仕事振りが親に筒抜けなのだ。
上司に直接報告させていたようだし、律が働く編集部を覗きに来たこともある。
子供の仕事ぶりを見たいと思ってくれるのは感謝するが、やはりやりにくいものなのだ。
「頑張れ、郁ちゃん。」
律は郁の後ろ姿を見送りながら、こっそりとエールを送った。
そしてゆっくりと、今日読もうと思っていた作家の本が並ぶ書架に向かう。
婚約者を連れてきて以来、声をかけてくる女子業務部員もいないのはありがたかった。
「あ、あたしは行ってないです。あの日は稲嶺司令の付き添いで」
何気なく聞いた質問に、とんでもない答えが返ってきた。
驚いた律は、まじまじと郁の顔を凝視していた。
律と郁が顔を合わせるのは、約1か月半ぶりのことだ。
相変わらず律は数日に1度のペースで図書館に通っていた。
だが郁は、館内に出ることが少なかったのだ。
図書隊員の間では「ロケット花火事件」と呼ばれる「図書館の自主規制を考えるフォーラム」。
しばらくはそれに時間を取られた。
その後は、野辺山宗八氏の葬儀に参加する稲嶺司令に付き添うため、ずっと防衛部勤務だった。
もちろんそんな細かい勤務状況を、律に話すわけはない。
だが律も小田原の情報歴史資料館で、図書隊と良化隊が攻防戦を繰り広げたのは知っている。
小さな私設図書館の蔵書は図書館に寄付されたが、メディア良化法に関する報道記録も含まれている。
良化隊はこれを奪おうとして、大規模な戦闘になったのだ。
郁がこれに参加したのかと、律は気にしていた。
いくら仕事とはいえ、若い女性が男に混じって戦争をするのは大変なことだと思う。
だから今日、館内を元気に巡回している郁を見て、ホッとした。
そして何の気なしに小田原に行ったのかと聞いたところ、とんでもない答えが返ってきたのだ。
稲嶺司令の付き添いをしていたと。
「稲嶺司令って、あのとき誘拐されたって報道されてたけど。」
「あ~、実は一緒に誘拐されまして。」
律がまさかと思いながらも問うと、ますます怖い答えが返ってきた。
そんなにあっさり「誘拐されまして」なんて言われても、リアクションに困る!
「いろいろあるだろうから、深くは聞かないけど。。。無事でよかったね。」
「えへへ。ありがとうございます!」
律は大いに気になったが、それ以上は突っ込まないことにした。
話せないような機密事項もあるだろう。
郁が元気に笑っているのだから、律としてはそれでよかった。
「しばらく郁ちゃんを見かけなかったから、ちょっと寂しかったよ。」
「あ、嬉しい。でもこれからは図書館業務が増えますから、うんざりするほど見られますよ。」
「そうなんだ。」
「実は両親が来るんですけど、図書館員って嘘言ってるんです。」
「え!?バレないの!?」
「班のみんなに協力を頼みました。館内業務を増やしてもらって。」
だからうんざりするほど見られますよというわけか。
律は苦笑しながら「頑張って」と告げた。
郁が「ありがとうございます!頑張ります!」と元気いっぱい宣言して、業務に戻っていく。
律はその後ろ姿を見ながら「ちょっとわかるかなぁ」と呟いた。
親と同じ会社で働く律は、仕事振りが親に筒抜けなのだ。
上司に直接報告させていたようだし、律が働く編集部を覗きに来たこともある。
子供の仕事ぶりを見たいと思ってくれるのは感謝するが、やはりやりにくいものなのだ。
「頑張れ、郁ちゃん。」
律は郁の後ろ姿を見送りながら、こっそりとエールを送った。
そしてゆっくりと、今日読もうと思っていた作家の本が並ぶ書架に向かう。
婚約者を連れてきて以来、声をかけてくる女子業務部員もいないのはありがたかった。
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