第4話「王子様」
「どんな手を使って、タスクフォース入りしたのかしら」
女性図書館員がヒソヒソと声を潜めながらも、わざと聞こえるようにそう言った。
たまたま居合わせてそれを聞いてしまった吉野は、思わず眉を潜めていた。
吉野千秋は、武蔵野第一図書館に来ていた。
決して読書家ではない吉野だったが、この場所は大好きだ。
多くの蔵書を納めた書架は、まるで森のようだと思う。
その間を当てもなく散策し、何となく目についた本を立ち読みし、飽きればまた歩く。
平日の昼間、ラフな服装で目的もなくウロウロする若い男が怪しく見えるのは理解している。
だがそうすることで息抜きになるし、作品のヒントをもらったことだって何度もあった。
少女漫画作家、吉川千春。
本名も写真もプロフィールも明かしていない人気作家こそ、吉野のペンネームである。
読者の多くは女性作家だと思っているらしい。
決して狙ったわけではなく、たまたま本名をもじった名前が男でも女でも通用するものだっただけだ。
だがそこそこ知名度が上がった最近では、少々後ろめたかったりする。
正体がこんな冴えない男だと知ったら、怒る読者もいるのではなかろうか。
この日の吉野は、新作のヒントを捜していた。
長い連載が終わり、今は充電期間だ。
だが単に休んでいるだけの時間ではない。
そろそろ次回作のプロットを、まとめなければ。
案はいくつか考え付いているが、あと1つ何かが足りない。
だからこの書架の森で、考えをまとめたいと思っていた。
だが静かな散策は、女性図書館員の声で遮られた。
吉野の視線の先では、女性にしては背の高い図書館員がブックワゴンに積まれた本を1冊ずつ書架に入れている。
おそらく返却されてきた本を戻しているのだろう。
そして少し離れたところで、2人の女性図書館員がヒソヒソと話し込んでいる。
というか、わざと背の高い女性に聞こえるように話しているのだろう。
どんな手を使って、タスクフォース入りしたのかしら。
女の武器を使ったんじゃない?
そうでもなければ、納得できないわよねぇ。
堂上君も小牧君も、あんな子の面倒を見なくちゃならないなんて気の毒~!
そうよね。女らしさのかけらもない山猿だし。
聞いていた吉野は、思わず眉を潜めていた。
これはどう見てもイジメじゃないか。
背の高い図書館員は、その初々しい感じから1年目の新人さんかなという感じがする。
対する2人の図書館員はかなり年上だ。
本当に図書館員?って聞きたくなるほどのメイクやアクセサリーだけで、吉野はウンザリした。
そもそも「女の武器を使った」と言いながら「女らしさのかけらもない山猿」とか、論理がメチャクチャで頭も悪そうだ。
あ、でもこれ、ネタになりそう。
吉野は背の高い女性図書館員に同情しながらも、そんなことを考えた。
ヒロインは素直で凛とした、働く女の子。
職場で才能を買われて抜擢されたけど、意地悪な先輩に嫌がらせされる。
それでも負けずに前を向いて。
あ、抜擢してくれた上司と恋に落ちるなんて、いいかも。
図書館員の話にしたら、露骨すぎるかなぁ。
でもそれ以前に、図書館員を美化するような話は検閲の対象になってしまうかもしれない。
残念なことに、吉野は彼女たちの間にここで割って入れるほど、ハートは強くない。
心の中だけで、背の高い女性図書館員に「頑張れ!」とエールを送った。
そしてそっと立ち去りながら、タスクフォースってなんだろうと首を傾げた。
女性図書館員がヒソヒソと声を潜めながらも、わざと聞こえるようにそう言った。
たまたま居合わせてそれを聞いてしまった吉野は、思わず眉を潜めていた。
吉野千秋は、武蔵野第一図書館に来ていた。
決して読書家ではない吉野だったが、この場所は大好きだ。
多くの蔵書を納めた書架は、まるで森のようだと思う。
その間を当てもなく散策し、何となく目についた本を立ち読みし、飽きればまた歩く。
平日の昼間、ラフな服装で目的もなくウロウロする若い男が怪しく見えるのは理解している。
だがそうすることで息抜きになるし、作品のヒントをもらったことだって何度もあった。
少女漫画作家、吉川千春。
本名も写真もプロフィールも明かしていない人気作家こそ、吉野のペンネームである。
読者の多くは女性作家だと思っているらしい。
決して狙ったわけではなく、たまたま本名をもじった名前が男でも女でも通用するものだっただけだ。
だがそこそこ知名度が上がった最近では、少々後ろめたかったりする。
正体がこんな冴えない男だと知ったら、怒る読者もいるのではなかろうか。
この日の吉野は、新作のヒントを捜していた。
長い連載が終わり、今は充電期間だ。
だが単に休んでいるだけの時間ではない。
そろそろ次回作のプロットを、まとめなければ。
案はいくつか考え付いているが、あと1つ何かが足りない。
だからこの書架の森で、考えをまとめたいと思っていた。
だが静かな散策は、女性図書館員の声で遮られた。
吉野の視線の先では、女性にしては背の高い図書館員がブックワゴンに積まれた本を1冊ずつ書架に入れている。
おそらく返却されてきた本を戻しているのだろう。
そして少し離れたところで、2人の女性図書館員がヒソヒソと話し込んでいる。
というか、わざと背の高い女性に聞こえるように話しているのだろう。
どんな手を使って、タスクフォース入りしたのかしら。
女の武器を使ったんじゃない?
そうでもなければ、納得できないわよねぇ。
堂上君も小牧君も、あんな子の面倒を見なくちゃならないなんて気の毒~!
そうよね。女らしさのかけらもない山猿だし。
聞いていた吉野は、思わず眉を潜めていた。
これはどう見てもイジメじゃないか。
背の高い図書館員は、その初々しい感じから1年目の新人さんかなという感じがする。
対する2人の図書館員はかなり年上だ。
本当に図書館員?って聞きたくなるほどのメイクやアクセサリーだけで、吉野はウンザリした。
そもそも「女の武器を使った」と言いながら「女らしさのかけらもない山猿」とか、論理がメチャクチャで頭も悪そうだ。
あ、でもこれ、ネタになりそう。
吉野は背の高い女性図書館員に同情しながらも、そんなことを考えた。
ヒロインは素直で凛とした、働く女の子。
職場で才能を買われて抜擢されたけど、意地悪な先輩に嫌がらせされる。
それでも負けずに前を向いて。
あ、抜擢してくれた上司と恋に落ちるなんて、いいかも。
図書館員の話にしたら、露骨すぎるかなぁ。
でもそれ以前に、図書館員を美化するような話は検閲の対象になってしまうかもしれない。
残念なことに、吉野は彼女たちの間にここで割って入れるほど、ハートは強くない。
心の中だけで、背の高い女性図書館員に「頑張れ!」とエールを送った。
そしてそっと立ち去りながら、タスクフォースってなんだろうと首を傾げた。
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