番外編5「桜、舞い散る光景」
*桜にちなんだ番外編です*
いつもながら、嫌な光景だな。
郁は無残に破壊され、荒らされた図書館の庭を見て、ため息をつく。
そして疲れた身体に鞭打つように、作業を始めた。
昨夜の抗争は、深夜から朝方にかけての激しいものだった。
ここ最近、検閲抗争は数こそ減っているが、その分激しくなっている気がする。
当麻事件の後、世間の批判が集まっているせいだとか、火器規制法案が成立の見込みだからとか。
さまざまな理由が聞こえてくるが、今はどうでもよかった。
昨晩の抗争では、良化隊に図書館の敷地の深くまで入られてしまった。
建物の壁はところどころ崩れ、置き石、ベンチなどの備品は銃撃で弾痕が残っている。
花壇は踏み荒らされてしまったし、丈の低い木々の多くは折れてしまっている。
大きな樹木はさすがに折れることはないが、幹に弾痕が残っているものがあった。
どうして、こんな。
郁は片づけ作業をしながら、またため息をついた。
本を奪うだけならば、ここまで荒らす必要なんかない。
どう考えても嫌がらせとしか思えなかった。
しかもこちらが文句を言えないこともわかっていて、やっている。
検閲が正しいかどうか以前に卑劣としか思えない。
幸いなことに桜並木は無事で、満開の枝から花びらが降り注いでいる。
良化隊員だって日本人、さすがに桜だけは避けたのだろうか?
そんな取り留めのないことを思う郁の背後で、不意に「カシャリ」という音が聞こえた。
驚いて振り向いた郁は、意外な人物を見つけてさらに驚いた。
彼はスマートフォンを構えて、この光景を撮影している。
先程の「カシャリ」はスマホのシャッターの音だったようだ。
それにしても片づけが終わるまでは、防衛員以外は立入禁止になっているはずだ。
それなのになぜ部外者がここにいるのか。
「ああ。ごめんなさい。許可を得て入ってます。邪魔はしませんから。」
その男、雪名皇は郁に頭を下げると、またスマホであちこちを撮影し始めた。
郁も「こんにちは」と挨拶を返したものの、何を言っていいのかわからない。
すると雪名は「どうぞ、おかまいなく」と言って、またスマホをかまえる。
それは何ともシュールな光景だった。
戦闘服でヨレヨレの男たちの中に混じって、王子様のようなキラキラな男が写真を撮っている。
防衛員たちも不思議そうな顔で雪名を見ているが「許可を得ている」と言われたので、誰も何も聞かない。
それほど全員が疲れていたのだった。
そしていつの間にか、雪名はいなくなっていた。
片づけが終わり引き上げようとしていた郁は辺りをキョロキョロ見回すが、影も形も見えない。
もしかして桜が見せた幻だったりして。
郁はそんなことを考えながら着替えて部屋に戻ると、ベットに倒れ込んだ。
そしてそのまま雪名の姿を見かけたことは、すっかり忘れていた。
いつもながら、嫌な光景だな。
郁は無残に破壊され、荒らされた図書館の庭を見て、ため息をつく。
そして疲れた身体に鞭打つように、作業を始めた。
昨夜の抗争は、深夜から朝方にかけての激しいものだった。
ここ最近、検閲抗争は数こそ減っているが、その分激しくなっている気がする。
当麻事件の後、世間の批判が集まっているせいだとか、火器規制法案が成立の見込みだからとか。
さまざまな理由が聞こえてくるが、今はどうでもよかった。
昨晩の抗争では、良化隊に図書館の敷地の深くまで入られてしまった。
建物の壁はところどころ崩れ、置き石、ベンチなどの備品は銃撃で弾痕が残っている。
花壇は踏み荒らされてしまったし、丈の低い木々の多くは折れてしまっている。
大きな樹木はさすがに折れることはないが、幹に弾痕が残っているものがあった。
どうして、こんな。
郁は片づけ作業をしながら、またため息をついた。
本を奪うだけならば、ここまで荒らす必要なんかない。
どう考えても嫌がらせとしか思えなかった。
しかもこちらが文句を言えないこともわかっていて、やっている。
検閲が正しいかどうか以前に卑劣としか思えない。
幸いなことに桜並木は無事で、満開の枝から花びらが降り注いでいる。
良化隊員だって日本人、さすがに桜だけは避けたのだろうか?
そんな取り留めのないことを思う郁の背後で、不意に「カシャリ」という音が聞こえた。
驚いて振り向いた郁は、意外な人物を見つけてさらに驚いた。
彼はスマートフォンを構えて、この光景を撮影している。
先程の「カシャリ」はスマホのシャッターの音だったようだ。
それにしても片づけが終わるまでは、防衛員以外は立入禁止になっているはずだ。
それなのになぜ部外者がここにいるのか。
「ああ。ごめんなさい。許可を得て入ってます。邪魔はしませんから。」
その男、雪名皇は郁に頭を下げると、またスマホであちこちを撮影し始めた。
郁も「こんにちは」と挨拶を返したものの、何を言っていいのかわからない。
すると雪名は「どうぞ、おかまいなく」と言って、またスマホをかまえる。
それは何ともシュールな光景だった。
戦闘服でヨレヨレの男たちの中に混じって、王子様のようなキラキラな男が写真を撮っている。
防衛員たちも不思議そうな顔で雪名を見ているが「許可を得ている」と言われたので、誰も何も聞かない。
それほど全員が疲れていたのだった。
そしていつの間にか、雪名はいなくなっていた。
片づけが終わり引き上げようとしていた郁は辺りをキョロキョロ見回すが、影も形も見えない。
もしかして桜が見せた幻だったりして。
郁はそんなことを考えながら着替えて部屋に戻ると、ベットに倒れ込んだ。
そしてそのまま雪名の姿を見かけたことは、すっかり忘れていた。
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