番外編4「ホワイトデー・サプライズ」

*ホワイトデー番外編です*

「律さん、それステキですね~!」
郁は図書館に現れた律の首元を指さして、そう言った。
堂上が慌てて「指をさすな!」と注意したが、律は「別にかまいませんよ」と笑う。
その律の首には黒い革のチョーカーが付けられており、律の細さと色の白さを引き立てていた。

堂上班の全員が既婚者になって、初めてのホワイトデー。
残念ながらその年、堂上班は休みではなかった。
基本的にはバレンタインデーほどの騒ぎにはならない。
バレンタインデーのお返し的な意味合いが強いせいだろう。

だが時々強者がいる。
バレンタインに渡せなかったチョコレートを、もう1度トライしようという女性。
またはバレンタインには何もなかったけど、告白をしたい男性。
だから館内警護は気が抜けない。

そして小野寺律の場合は、そのどちらも警戒が必要なのだ。
30歳を超えても未だ美しく、また社長令息という家柄の良さは変わるべくもない。
利用者の中では女性人気ナンバーワン、その地位は揺るがない。
だが当の律は気にした素振りもなく、この日も武蔵野第一図書館に来ていた。
そして館内を巡回している堂上班は、不審な人物たちに気付いた。

堂上、郁組が気付いたのは、利用者の女性だった。
小さな紙袋を持って、館内を歩く律の後を距離を置きながらついて歩いている。
彼女は律ほどではないが常連で、律に熱い視線を送っているのは有名な話だ。
そして小牧、手塚組は図書隊員の男性だ。
武蔵野第二勤務の防衛員だが、今日は非番らしく私服姿だが、チラチラと律を見ながら挙動不審。
彼は女性ではなく男性が好きな、いわゆるゲイであるという噂がある。

さてどうしたものかと迷っているうちに、律が堂上たちに気付いた。
すれ違いざまに挨拶をしたところで、郁が律のチョーカーに気付いたのだ。
編集者である律は特にイベントでもない限り、出勤は私服だ。
そして律に限らずエメラルド編集部は皆、オシャレで私服のセンスはいい。
自分に似合うものをよく理解していて、綺麗に着こなしているのだ。
それはこの日も例外ではなく、さらにチョーカーもよく似合っている。

「律さん、それステキですね~!」
郁は目をキラキラさせながら、チョーカーを指さしてそう言った。
律は笑顔で「ありがと。恋人からのプレゼントなんだ」と答える。
すると律を尾行するように動いていた2人の動きが止まった。
そしてそのまま2人は逃げるように離れていく。
その気配を感じ取ったらしい律は「撃退成功!」と笑った。

「確信犯ですね。律さん。」
「まぁそうかな。でも恋人からのプレゼントっていうのは、嘘じゃないですよ。」
悪戯っぽい律の笑顔につられるように、堂上と郁も笑う。
俺のものだと主張するようなチョーカーは、律の恋人である俺様編集長らしいプレゼントだと思った。
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