番外編3「バレンタイン・キッス」
*バレンタインデー番外編です*
「これ、受け取ってください!」
女の子が1人の男性に、チョコレートと思しき包みを差し出した。
可愛らしいラッピングとリボン。
これが放課後の校舎とかなら、微笑ましい光景なのだろう。
だがここは図書館の中であり、2人が図書館員と利用者であるなら、話はかなり違ってくる。
「こら、何してる!」
館内を巡回中だった郁は、2人に駆け寄るとチョコを差し出した女性図書館員を叱責した。
彼女はまだ4月に入隊したばかり、まだ1年も勤務していない新人だ。
業務部員なので郁の部下ではないのだが、郁は今年錬成教官を務めており、彼女は郁の教育隊だった。
新人の頃から仕事より恋愛優先で、悪い意味で目立っていた。
「笠原教官、邪魔しないで下さい。」
女性図書館員は、割って入った郁に食ってかかった。
入隊したばかりの頃、この女は郁の夫である堂上狙いを公言していた。
そのせいだろう、新人の分際で郁のことを旧姓呼びするのだ。
だが当然のことながら、堂上がそんな女に靡くわけもない。
その後どう転んだのか知らないが、最近は常連の利用者を狙っていた。
「悪いけど、受け取れない。」
チョコレートを差し出された利用者の男性は、冷たくそう言い放った。
彼の名は小野寺律、武蔵野第一図書館ではもっとも有名な利用者だ。
秀麗な美貌と出版社社長の息子という身の上は、肉食系女子ならよだれが出そうな肩書である。
「どうしてですか!?」
「きちんと仕事ができない図書館員は嫌いなんだ。」
「そんな。あたしのどこが」
「今、この人の笠原教官って呼んだ。彼女は堂上郁さんだよ。しかももう教官でもないでしょ?」
「それは」
「君はこの人を堂上三正って呼ばなきゃいけない。そんなルールも守れない人は問題外だと思うけど。」
律はきっぱりとそう言い放つと、そのまま女の横を通り過ぎようとした。
すると女は「なんで」と低い声で呻く。
それを聞いた律は思わず足を止めた。
「なんでこの人だけ特別扱いするんですか!?」
女は、郁を指さしてそう叫んだ
律が「は?」と聞き返すと、女は「みんな、そう言ってます!」と畳みかけた。
「律さんは笠原さんだけ特別扱いしてます。この前だって一緒に2人で歩いてたじゃないですか!」
それを聞いた郁は「え!?」と声を上げてしまう。
昇進しても、結婚しても、錬成教官を務めても、郁はかわらない。
こんなときには動揺がすぐに態度に出てしまう。
そんな郁の態度に、女は勝ち誇ったように「あたし、見たんです!」と叫んだ。
「先週、2人で基地の近くを歩いてたじゃないですか!」
女の言葉に、律は聞こえよがしにため息をついた。
そして「2日前のことでしょ?」と聞き返す。
女が頷くのを見て、律はもう1度ため息をついた。
「確かに図書館に来る途中で会って一緒に来たけど。手塚麻子さんと小牧さんの奥様も一緒にいたよ?」
「え!?」
「よく確かめもしないで、まるで堂上さんが浮気でもしたみたいな言い様はよくないんじゃないの?」
「そんな」
「そういうところも嫌い。だからそれは受け取れない。」
律は冷たく女を突き放した。
そして郁の後ろに立っているバディであり夫の堂上に「こういうのは問題にしてほしいですね」と告げる。
堂上が「了解です」と答えると、女は真っ青になった。
正化39年、バレンタインデー数日前のことである。
「これ、受け取ってください!」
女の子が1人の男性に、チョコレートと思しき包みを差し出した。
可愛らしいラッピングとリボン。
これが放課後の校舎とかなら、微笑ましい光景なのだろう。
だがここは図書館の中であり、2人が図書館員と利用者であるなら、話はかなり違ってくる。
「こら、何してる!」
館内を巡回中だった郁は、2人に駆け寄るとチョコを差し出した女性図書館員を叱責した。
彼女はまだ4月に入隊したばかり、まだ1年も勤務していない新人だ。
業務部員なので郁の部下ではないのだが、郁は今年錬成教官を務めており、彼女は郁の教育隊だった。
新人の頃から仕事より恋愛優先で、悪い意味で目立っていた。
「笠原教官、邪魔しないで下さい。」
女性図書館員は、割って入った郁に食ってかかった。
入隊したばかりの頃、この女は郁の夫である堂上狙いを公言していた。
そのせいだろう、新人の分際で郁のことを旧姓呼びするのだ。
だが当然のことながら、堂上がそんな女に靡くわけもない。
その後どう転んだのか知らないが、最近は常連の利用者を狙っていた。
「悪いけど、受け取れない。」
チョコレートを差し出された利用者の男性は、冷たくそう言い放った。
彼の名は小野寺律、武蔵野第一図書館ではもっとも有名な利用者だ。
秀麗な美貌と出版社社長の息子という身の上は、肉食系女子ならよだれが出そうな肩書である。
「どうしてですか!?」
「きちんと仕事ができない図書館員は嫌いなんだ。」
「そんな。あたしのどこが」
「今、この人の笠原教官って呼んだ。彼女は堂上郁さんだよ。しかももう教官でもないでしょ?」
「それは」
「君はこの人を堂上三正って呼ばなきゃいけない。そんなルールも守れない人は問題外だと思うけど。」
律はきっぱりとそう言い放つと、そのまま女の横を通り過ぎようとした。
すると女は「なんで」と低い声で呻く。
それを聞いた律は思わず足を止めた。
「なんでこの人だけ特別扱いするんですか!?」
女は、郁を指さしてそう叫んだ
律が「は?」と聞き返すと、女は「みんな、そう言ってます!」と畳みかけた。
「律さんは笠原さんだけ特別扱いしてます。この前だって一緒に2人で歩いてたじゃないですか!」
それを聞いた郁は「え!?」と声を上げてしまう。
昇進しても、結婚しても、錬成教官を務めても、郁はかわらない。
こんなときには動揺がすぐに態度に出てしまう。
そんな郁の態度に、女は勝ち誇ったように「あたし、見たんです!」と叫んだ。
「先週、2人で基地の近くを歩いてたじゃないですか!」
女の言葉に、律は聞こえよがしにため息をついた。
そして「2日前のことでしょ?」と聞き返す。
女が頷くのを見て、律はもう1度ため息をついた。
「確かに図書館に来る途中で会って一緒に来たけど。手塚麻子さんと小牧さんの奥様も一緒にいたよ?」
「え!?」
「よく確かめもしないで、まるで堂上さんが浮気でもしたみたいな言い様はよくないんじゃないの?」
「そんな」
「そういうところも嫌い。だからそれは受け取れない。」
律は冷たく女を突き放した。
そして郁の後ろに立っているバディであり夫の堂上に「こういうのは問題にしてほしいですね」と告げる。
堂上が「了解です」と答えると、女は真っ青になった。
正化39年、バレンタインデー数日前のことである。
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