番外編1「ミニスカサンタ」

*クリスマス番外編です*

「あたし、子供の頃からサンタクロースって信じてなかったんですよ。」
郁はそう言いながら、寂しそうに笑う。
律は「そうなんだ」と穏やかに笑いながら、頷いてくれた。

笠原郁が堂上郁になって、初めてのクリスマス・イヴの日。
図書館では、人気漫画家である吉川千春の作品展が開催されていた。
実際の漫画で使われた原稿などのほかに、今回のために書き下ろしたイラストも何点か並ぶ。
律たちエメラルド編集部はイラスト展の主催として来ており、郁たち堂上班はその警護だ。
吉川千春が現在連載中の作品は、検閲対象なのだ。
単行本でさえ価値が上がっているのに、原画や書下ろしイラストはさらに高価だ。
良化法賛同団体が妨害してくる可能性も、不届きな輩が盗もうとする可能性も考えられる。

「ご両親がこっそりサンタのふりして、枕元にプレゼントを置いてくれたりしなかったの?」
律が郁にそう聞き返した。
特殊部隊の庁舎内にある会議室が、イベント中は丸川書店の控室だ。
律はここで休憩中であり、イベント期間中は律を護衛する任務につく郁も必然的に休憩中だ。
そこで2人はお茶を飲みながら、雑談をしているのだった。

「ええ。親がプレゼントを用意してくれて、寝ている間に置いてくれたんですけど。」
「え?それでもサンタクロースを信じなかったの?」
「それがどうやら母チョイスらしくて、女の子女の子したものばかりだったんですよ。」
「そうなんだ。」
「ええ。例えば早く走れるスポーツシューズが欲しいって言ったのに、ヒラヒラレースのワンピースとか。」
「そりゃ、子供としちゃあ微妙だね。」
「でしょ?兄3人はほぼ欲しい物貰ってるのに。これは母だってすぐにわかりました。」

郁はそう言って、大袈裟にため息をついた。
律は「そりゃ気の毒に」と笑う。
あっけらかんと話しているし、今の郁にとっては笑い話だ。

「実は俺もサンタクロースを信じてなかった。」
「そうなんですか?」
「うちはもっとドライだったよ。両親が幼少の俺にサンタクロースなんていないって断言したんだ。」
「そんなの、ありなんですか!?」
「いずれは社長を継ぐから、タダで物をもらえるとか思わせたくなかったらしい。」
「うわ、それ、ちょっと悲しいかも。」

律もまたため息まじりにそう告げる。
それを見た郁は、思わずドキリとした。
なぜなら今の律は、普段の律ではないのだ。
とにかくいつもより数倍増で美しい。

今日の律はバッチリとメイクをして、ウィッグをつけて、しかもミニスカサンタの衣装を着ている。
腕や足などのムダ毛もしっかり処理して、本格的なメイクをした律はどこから見ても女だった。
しかもかなりの美女で、本物の女である郁が恥ずかしくなるような仕上がりだ。
もちろん律が趣味でこんな格好をしているわけではない。
そして同じミニスカサンタ姿の郁が護衛するのも、ちゃんと理由がある。

「そろそろ時間だね。行こうか。」
「はい。律さん、あたしから離れないで下さいね。」
「了解。よろしく、郁ちゃん。」

2人は顔を見合わせると、静かに立ち上がる。
そしてゆっくりと図書館へと向かったのだった。
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