第29話「絶対に守る」

「うわぁ、浮かれてる~!」
「確かに、浮かれてる~!」
律と吉野は図書館内だというのに、思わず黄色い声を上げてしまう。
2人の視線の先では、特殊部隊の紅一点が軽やかな足取りで配架作業をしていた。

当麻蔵人は最高裁での敗訴の直後、大阪の英国総領事館に駆け込み、亡命を宣言した。
そのニュースは凄まじい速さで日本中を、そして世界を駆け抜けた。
検閲に対する貴重な一歩。
律たち編集者も、吉野たち作家も大いに力づけられ、勇気を貰えた。

一番の功労者は郁だと聞いた。
だが律も吉野も「おめでとう」と告げるだけに留めた。
どうやら図書隊の機密に関わる情報のようだし、当の郁が多くを語らないからだ。
関東図書隊の特殊部隊が、歴史に残る快挙を成し遂げた。
それを喜び、称えればそれでいい。

ただ1つ心配なのは、堂上が撃たれて入院しているということだ。
一時はかなり危険な状態だったが、何とか生還したらしい。
それを聞いた律が気にしたのは、郁のことだった。
どういう状況なのか詳細はわからないが、あの堂上大好きをダダ漏れさせている彼女は無事なのかと。
だがその郁は、完全に浮かれていた。
足取りが軽いどころかほとんどスキップで、顔も見事に緩んでいる。

「わかりやすい。」
「確かにわかりやすい。」
配架作業をする郁を見ながら、律と吉野はまた頷き合った。
これほど「恋してます」っていうのを、はっきり見て取れるのは珍しい。
少女漫画に関わる者としては、ぜひともいろいろ聞いてみたいものなのだが。

そうこうしているうちに、郁がこちらに気がついた。
あまりにも不躾にジロジロ見てしまったせいだろう。
手を振ると、ニッコリ笑って頭を下げる。
その姿さえ少し前までと変わらないのに、何だか違う。

「まるで少女漫画ですね。目の中にお星さまキラキラ。」
「確かに少女漫画。背中に花畑が見えた気もします。」
少し離れているから、郁には聞こえないだろう。
それをいいことに、2人はまたコソコソと感想を言い合う。
すると背後から、別の声が参戦してきた。

「確かにバレバレですねぇ。でも律さんと吉野さんも人のことは言えませんわよ。」
「それはそうだけど。だけどお二人はお客様だけど笠原さんは図書隊員だからねぇ。」
関東図書隊の魔王と魔女、もとい小牧と柴崎だった。
彼らからすれば、高野と律、羽鳥と吉野の関係もバレバレだったりする。
それをしっかりと茶化しつつ、郁のことを話題に上げるのも忘れない。
律と吉野は頬を赤く染めながら、そそくさと退散した。

「あっちもこっちもラブラブでいいねぇ。」
「あら、小牧教官だってそうじゃありません?」
そんな軽口を叩いて楽しめるのも、ひとえに当麻の総領事館駆け込みが成功したからだ。
小牧と柴崎はその主役である図書隊員の背中を見た。
何も知らない郁は、相変わらず軽い足取りで配架作業を続けていた。
1/5ページ