第26話「戦闘モード」
「あたしと律さんは恋人同士、あたしと律さんは恋人同士!」
郁はブツブツと口の中で呟き、自分に暗示をかけている。
腕を組みながら並んで歩く律は思わず「顔、怖いよ」と窘めた。
週刊「ジャプン」と雑誌「自由」の編集長、桐嶋の娘の日和が誘拐された。
犯人は丸川書店に、雑誌「自由」の廃刊を要求している。
そして関東図書隊は所有する雑誌「自由」の破棄、そして当麻蔵人の身柄を引き渡せと。
特殊部隊の会議室に集まった面々は、卑劣な要求に怒りを隠せなかった。
「あたしでさえ、怖かったのに」
郁が思わず呟く声は、震えて上ずった。
みんなが楽しみにしている雑誌を葬り去ろうとしているだけでも腹立たしい。
さらにその手段として、小さな女の子を誘拐だなんて。
外道だ。人として終わっている。
それに誘拐と聞けば、郁には忘れられない嫌な記憶がある。
あれは配属された初年度の秋のこと。
特殊部隊が小田原に行っていたあの時、当時司令だった稲嶺顧問の警護中に誘拐されたのだ。
状況は大分違うし、堂上は助けに来てくれると信じていた。
それでも救出されるまでは、心細くて不安だったのだ。
訓練を受けた特殊部隊の郁でさえ、である。
それを小学生の女の子がと思うだけで、心臓が鷲掴みにされたように胸が痛い。
堂上はそんな郁を見ながら、痛恨の表情になった。
郁が何を思い出しているのか、わかったのだろう。
幸か不幸か、郁がそんな堂上の様子に気付くことはなかったが。
だが犯人がさらなる要求のために送ってきた脅迫状で、状況が変わった。
どこかに監禁されている日和の写真が一緒に送られているのだ。
それを見た律が「あ~!?」と声を上げたのだ。
「何だ!どうした!?」
「俺、この場所を知ってます!」
律は送られてきた画像を睨みながら、そう言った。
高野だけでなく、特殊部隊やこの場に同席した警察の人間まで思わず前のめりになった。
「間違いないのか!?」
「はい。これ、俺の実家のすぐ近くの家ですよ。子供の頃、遊びに行ったこともあります。」
律はそう前置きすると、さらに説明した。
ここは律の実家から数軒先にある家で、いわゆる豪邸。
その家の子供は律と同年代で、何度か遊びに行ったり、逆に律の家に来たりするいわゆる幼なじみだ。
現在その幼なじみは、仕事の関係で東京を離れ、遠方に住んでいる。
そして家主であるその幼なじみの両親はすでに他界し、家は空き家になっていると。
「俺、行ってみます。この家の家族構成や間取りもわかるし、住人のふりできるから。」
「無茶だ。危険すぎる!」
律の無謀とも言える意見に、真っ先に反対したのは警視庁の平賀だった。
一般人が事件現場に乗り込むなど、到底許せることではないのだろう。
だが律は強硬に「行く」と言い張った。
そして1時間後。
律は日和が監禁されていると思われる部屋に向かっている。
1人ではなく、郁も一緒だ。
恋人同士という設定を入れて、2人でピッタリと寄り添って腕を組みながら。
遠目に見れば、仲睦まじく見えるだろう。
だが実際には郁は「あたしと律さんは恋人同士、あたしと律さんは恋人同士!」と自己暗示をかけている。
良くも悪くも素直な郁は、ボロが出ないようにと必死なのだ。
「顔、怖いよ。」
律は郁に注意しながら、思わず笑みをこぼしていた。
必死に「恋人同士!」と自分に言い聞かせる郁がおかしくて、逆に緊張がほぐれていくような気がしたからだ。
郁はブツブツと口の中で呟き、自分に暗示をかけている。
腕を組みながら並んで歩く律は思わず「顔、怖いよ」と窘めた。
週刊「ジャプン」と雑誌「自由」の編集長、桐嶋の娘の日和が誘拐された。
犯人は丸川書店に、雑誌「自由」の廃刊を要求している。
そして関東図書隊は所有する雑誌「自由」の破棄、そして当麻蔵人の身柄を引き渡せと。
特殊部隊の会議室に集まった面々は、卑劣な要求に怒りを隠せなかった。
「あたしでさえ、怖かったのに」
郁が思わず呟く声は、震えて上ずった。
みんなが楽しみにしている雑誌を葬り去ろうとしているだけでも腹立たしい。
さらにその手段として、小さな女の子を誘拐だなんて。
外道だ。人として終わっている。
それに誘拐と聞けば、郁には忘れられない嫌な記憶がある。
あれは配属された初年度の秋のこと。
特殊部隊が小田原に行っていたあの時、当時司令だった稲嶺顧問の警護中に誘拐されたのだ。
状況は大分違うし、堂上は助けに来てくれると信じていた。
それでも救出されるまでは、心細くて不安だったのだ。
訓練を受けた特殊部隊の郁でさえ、である。
それを小学生の女の子がと思うだけで、心臓が鷲掴みにされたように胸が痛い。
堂上はそんな郁を見ながら、痛恨の表情になった。
郁が何を思い出しているのか、わかったのだろう。
幸か不幸か、郁がそんな堂上の様子に気付くことはなかったが。
だが犯人がさらなる要求のために送ってきた脅迫状で、状況が変わった。
どこかに監禁されている日和の写真が一緒に送られているのだ。
それを見た律が「あ~!?」と声を上げたのだ。
「何だ!どうした!?」
「俺、この場所を知ってます!」
律は送られてきた画像を睨みながら、そう言った。
高野だけでなく、特殊部隊やこの場に同席した警察の人間まで思わず前のめりになった。
「間違いないのか!?」
「はい。これ、俺の実家のすぐ近くの家ですよ。子供の頃、遊びに行ったこともあります。」
律はそう前置きすると、さらに説明した。
ここは律の実家から数軒先にある家で、いわゆる豪邸。
その家の子供は律と同年代で、何度か遊びに行ったり、逆に律の家に来たりするいわゆる幼なじみだ。
現在その幼なじみは、仕事の関係で東京を離れ、遠方に住んでいる。
そして家主であるその幼なじみの両親はすでに他界し、家は空き家になっていると。
「俺、行ってみます。この家の家族構成や間取りもわかるし、住人のふりできるから。」
「無茶だ。危険すぎる!」
律の無謀とも言える意見に、真っ先に反対したのは警視庁の平賀だった。
一般人が事件現場に乗り込むなど、到底許せることではないのだろう。
だが律は強硬に「行く」と言い張った。
そして1時間後。
律は日和が監禁されていると思われる部屋に向かっている。
1人ではなく、郁も一緒だ。
恋人同士という設定を入れて、2人でピッタリと寄り添って腕を組みながら。
遠目に見れば、仲睦まじく見えるだろう。
だが実際には郁は「あたしと律さんは恋人同士、あたしと律さんは恋人同士!」と自己暗示をかけている。
良くも悪くも素直な郁は、ボロが出ないようにと必死なのだ。
「顔、怖いよ。」
律は郁に注意しながら、思わず笑みをこぼしていた。
必死に「恋人同士!」と自分に言い聞かせる郁がおかしくて、逆に緊張がほぐれていくような気がしたからだ。
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