第24話「罠」
「久々の巡回勤務だけど、何だか物々しいね。」
小牧が武蔵野第一図書館を見回しながら、そう告げる。
この日のバディ、堂上は「確かにな」と頷いた。
そう、今図書館は非常に物々しいことになっている。
つい最近まで作家の当麻蔵人は、図書隊顧問の稲嶺邸に身を隠していた。
それがメディア良化委員会にバレて、関東図書基地へ決死の大脱出が行なわれた。
そしてその映像は、繰り返しテレビで放送されている。
すべてのマスコミを巻き込んで、ここまでの良化隊の横暴な検閲っぷりと併せて報道され続けているのだ。
どこかの放送局が放送禁止になれば、別の局が引き継ぐ。
世にいう「パス報道」である。
稲嶺邸での24時間警護を交代で行なっていた堂上班。
当麻の身柄を図書基地に移し、特殊部隊全員で警護するなら少しは楽になると思っていた。
だが現実は甘くない。
もしかしたら時の人である当麻蔵人が見られるかもと、来館する人が増えた。
中には図書隊関係者しか入れない場所にも入り込み、当麻を捜そうとしたりする者もいるから厄介だ。
さらに雑誌「自由」も数冊常備し、閲覧者は後を絶たない。
あわよくば盗もうとする不届き者も多いのだ。
その中に良化隊や良化法賛同団体所属の者がまぎれる可能性もあり、気が抜けない。
もちろん通常の警護だって決して気を抜いたりなどしないが、やはり緊張感が違うのだ。
「少しは楽させてやれると思ったんだが」
堂上は辺りを鋭い視線でチェックしながら、そう言った。
もちろん2人の部下、それも主に手がかかる方の者を指している。
小牧は「そうだね」と静かに頷いた。
普段なら堂上のそんな発言には、茶化すようなツッコミを入れたりする。
だが今はとてもそんな雰囲気ではなかった。
男でもこんな緊張状態は、正直言ってしんどい。
彼らの手のかかる、だが愛おしい部下は女性の身でこの激務をこなしているのだ。
「とにかく今は」
頑張るしかない、と堂上が続けようとした途端「触るな、このヤロー!」と威勢のいい声が響いた。
聞き覚えがあるどころではなく、誰の声かすぐわかる。
間髪入れずにインカムから『こちら手塚』と、手のかからない方の部下の冷静な声が響いた。
『検閲対象図書の閲覧コーナー前で不審者。確保に向かいます。』
その声と共に、そちらの方向に走っていく手塚と郁の姿が見えた。
堂上は「こちら堂上。俺たちもすぐに向かう」と答えて、走り出す。
だが程なくしてその場に駆けつけた堂上は、呆然と立ち尽くす部下2人を見つけた。
「何をして。。。あ!?」
堂上と小牧も、呆然とその光景を見てしまった。
床にうつ伏せに倒れている若い男が2人。
そして1人の背中に足をかけて「テメーらふざけるなよ」と怒る綺麗な青年。
さらにもう1人の背中に腰を下ろして「俺らを狙うなんて10年早い!」と高笑いする可愛い青年。
「遅いよ。こいつら痴漢だ。さっさと逮捕!」
女王様よろしく言い放ったのは、男の背中を踏んづけている綺麗な青年こと小野寺律だ。
可愛い青年こと木佐は男の背中から腰を上げて「ったく。アホかってんだ」と鼻で笑った。
ちなみに先程、堂上たちが聞いた第一声は律のものである。
「確保!」
すっかり圧倒されていた郁と手塚は、堂上の一言に金縛りが解けたように動き出した。
それぞれ1人ずつ、倒れている男に手錠をかけると「事情聴取します」と言いながら、連行していく。
気がつけば人だかりができており、律と木佐には熱い視線が送られていた。
特に若い女子は、あからさまに目がハートマークになっている。
お近づきになりたいビームが、ひっきりなしに掃射されているのを感じた。
「お2人もお願いします。」
堂上は慌てて、律と木佐に声をかけた。
彼ら目当ての女子たちが暴動を起こす前に、さっさとここから連れ出さなくてはならない。
小牧が武蔵野第一図書館を見回しながら、そう告げる。
この日のバディ、堂上は「確かにな」と頷いた。
そう、今図書館は非常に物々しいことになっている。
つい最近まで作家の当麻蔵人は、図書隊顧問の稲嶺邸に身を隠していた。
それがメディア良化委員会にバレて、関東図書基地へ決死の大脱出が行なわれた。
そしてその映像は、繰り返しテレビで放送されている。
すべてのマスコミを巻き込んで、ここまでの良化隊の横暴な検閲っぷりと併せて報道され続けているのだ。
どこかの放送局が放送禁止になれば、別の局が引き継ぐ。
世にいう「パス報道」である。
稲嶺邸での24時間警護を交代で行なっていた堂上班。
当麻の身柄を図書基地に移し、特殊部隊全員で警護するなら少しは楽になると思っていた。
だが現実は甘くない。
もしかしたら時の人である当麻蔵人が見られるかもと、来館する人が増えた。
中には図書隊関係者しか入れない場所にも入り込み、当麻を捜そうとしたりする者もいるから厄介だ。
さらに雑誌「自由」も数冊常備し、閲覧者は後を絶たない。
あわよくば盗もうとする不届き者も多いのだ。
その中に良化隊や良化法賛同団体所属の者がまぎれる可能性もあり、気が抜けない。
もちろん通常の警護だって決して気を抜いたりなどしないが、やはり緊張感が違うのだ。
「少しは楽させてやれると思ったんだが」
堂上は辺りを鋭い視線でチェックしながら、そう言った。
もちろん2人の部下、それも主に手がかかる方の者を指している。
小牧は「そうだね」と静かに頷いた。
普段なら堂上のそんな発言には、茶化すようなツッコミを入れたりする。
だが今はとてもそんな雰囲気ではなかった。
男でもこんな緊張状態は、正直言ってしんどい。
彼らの手のかかる、だが愛おしい部下は女性の身でこの激務をこなしているのだ。
「とにかく今は」
頑張るしかない、と堂上が続けようとした途端「触るな、このヤロー!」と威勢のいい声が響いた。
聞き覚えがあるどころではなく、誰の声かすぐわかる。
間髪入れずにインカムから『こちら手塚』と、手のかからない方の部下の冷静な声が響いた。
『検閲対象図書の閲覧コーナー前で不審者。確保に向かいます。』
その声と共に、そちらの方向に走っていく手塚と郁の姿が見えた。
堂上は「こちら堂上。俺たちもすぐに向かう」と答えて、走り出す。
だが程なくしてその場に駆けつけた堂上は、呆然と立ち尽くす部下2人を見つけた。
「何をして。。。あ!?」
堂上と小牧も、呆然とその光景を見てしまった。
床にうつ伏せに倒れている若い男が2人。
そして1人の背中に足をかけて「テメーらふざけるなよ」と怒る綺麗な青年。
さらにもう1人の背中に腰を下ろして「俺らを狙うなんて10年早い!」と高笑いする可愛い青年。
「遅いよ。こいつら痴漢だ。さっさと逮捕!」
女王様よろしく言い放ったのは、男の背中を踏んづけている綺麗な青年こと小野寺律だ。
可愛い青年こと木佐は男の背中から腰を上げて「ったく。アホかってんだ」と鼻で笑った。
ちなみに先程、堂上たちが聞いた第一声は律のものである。
「確保!」
すっかり圧倒されていた郁と手塚は、堂上の一言に金縛りが解けたように動き出した。
それぞれ1人ずつ、倒れている男に手錠をかけると「事情聴取します」と言いながら、連行していく。
気がつけば人だかりができており、律と木佐には熱い視線が送られていた。
特に若い女子は、あからさまに目がハートマークになっている。
お近づきになりたいビームが、ひっきりなしに掃射されているのを感じた。
「お2人もお願いします。」
堂上は慌てて、律と木佐に声をかけた。
彼ら目当ての女子たちが暴動を起こす前に、さっさとここから連れ出さなくてはならない。
1/5ページ