第23話「昔語り」
「あけましておめでとうございます。」
郁は3人のタイプの違うイケメンに、丁寧に頭を下げた。
綺麗系、かわいい系、キラキラ系の3イケメンは、笑顔で挨拶を返してくれた。
正化34年、1月上旬某日。
特殊部隊の事務室には、3名の客が来ていた。
丸川書店エメラルド編集部の小野寺律、木佐翔太と、美大生の雪名皇だ。
意外な取り合わせではある。
話題の雑誌「自由」に関わる3人ではあるが、その話なら桐嶋か高野が来るはずだ。
案の定というべきか、応対する隊長代理の緒形は怪訝な顔をしていた。
それでも3人は、会議室に通された。
同席しているのは、たまたまこの時間に事務所にいた堂上と小牧だ。
そこへ人数分の茶を乗せた盆を持った郁が顔を出す。
郁は律たちの姿を見るなり「あけましておめでとうございます」と頭を下げた。
正月にブックスまりも前にいる彼らを見かけたのの、きちんと顔を合わせたのは年が変わって初めてだったのだ。
「おめでとうございます。」
「今年もお世話になります。」
「よろしくお願いします。」
3イケメンは笑顔で挨拶を返してくれる。
郁はその秀麗な美しさに、思わずホーっとため息をついた。
特殊部隊のムサいおっさんたちには、到底出せない甘い雰囲気だからだ。
そのリアクションに堂上が不機嫌になり、小牧は危うく上戸に堕ちそうになったが、何とか踏みとどまった。
そして郁が茶を置き、退出すると緒形がおもむろに「ご用件を伺います」と切り出した。
「今回のお願いは、丸川書店とは一切関係がありません。」
まずそう切り出したのは、律だった。
そしてチラリと木佐を見る。
だが実際に口を開いたのは、雪名だった。
「俺はT美大の学生なんですが、友人数名と絵の展示会を計画しています。それで場所をお借りできないかと」
「つまり図書館で絵の展示をしたいということですか?」
緒形が聞き返すと、雪名は「はい」と頷いた。
堂上と小牧は思わず顔を見合わせる。
「もしかして図書館なら、場所代は無料でできるというお考えからですか?」
「そういうことでは、あ、いや、そういう理由もあったりするんですが。」
緒形がさらに質問を重ねると、雪名は急に歯切れが悪くなった。
実はそういう持ち込み企画はあったりするが、なかなか実現はむずかしい。
図書館は公共の施設なので、展示は無料でできる。
だからこそ、希望は後を絶たないのだ。
結局セレクションすることにあり、ただ絵の展示と言うだけでは実際許可を出さないのが現状だ。
何となく微妙な雰囲気の中で、律は木佐を見た。
助け船を出すならあなたでしょと言いたげな視線。
だが木佐が口を開かないのを見て、律はため息をつくと「あの」と会話に割って入った。
「なぜ業務部でなく、特殊部隊に話を持って来たと思います?」
律の言葉に、緒形は「そういうことですか」とため息をついた。
堂上と小牧も納得したものの、困ったような顔になる。
よりによって隊長の玄田が茨城県展での負傷入院中であるこの時期に、と思っているのだ。
「今はまだそういう可能性があるってだけです。だからこちらにお願いに来ています。」
律がそう告げると、雪名が立ち上がり「よろしくお願いします」と長身を90度折り曲げ、頭を下げる。
緒形は「なるほど。ご事情は理解しました」とむずかしい顔で頷いた。
誰も明確な言葉にはしないが、全員が理解していた。
おそらく雪名の絵は、検閲の対象になる可能性が高い。
だから関東図書基地のお膝元である、武蔵野第一図書館で展示してほしいという依頼なのだ。
そして特殊部隊に警護をしてほしいと。
茨城県展のせいでフル稼働できる人員も少ない今、特殊部隊には過酷な話である。
結局、この場で結論は出ず、返事は先送りされた。
雪名はサンプルとして、展示予定の絵を撮影した写真を置いて帰った。
敦賀原発テロ事件の数日前のことである。
郁は3人のタイプの違うイケメンに、丁寧に頭を下げた。
綺麗系、かわいい系、キラキラ系の3イケメンは、笑顔で挨拶を返してくれた。
正化34年、1月上旬某日。
特殊部隊の事務室には、3名の客が来ていた。
丸川書店エメラルド編集部の小野寺律、木佐翔太と、美大生の雪名皇だ。
意外な取り合わせではある。
話題の雑誌「自由」に関わる3人ではあるが、その話なら桐嶋か高野が来るはずだ。
案の定というべきか、応対する隊長代理の緒形は怪訝な顔をしていた。
それでも3人は、会議室に通された。
同席しているのは、たまたまこの時間に事務所にいた堂上と小牧だ。
そこへ人数分の茶を乗せた盆を持った郁が顔を出す。
郁は律たちの姿を見るなり「あけましておめでとうございます」と頭を下げた。
正月にブックスまりも前にいる彼らを見かけたのの、きちんと顔を合わせたのは年が変わって初めてだったのだ。
「おめでとうございます。」
「今年もお世話になります。」
「よろしくお願いします。」
3イケメンは笑顔で挨拶を返してくれる。
郁はその秀麗な美しさに、思わずホーっとため息をついた。
特殊部隊のムサいおっさんたちには、到底出せない甘い雰囲気だからだ。
そのリアクションに堂上が不機嫌になり、小牧は危うく上戸に堕ちそうになったが、何とか踏みとどまった。
そして郁が茶を置き、退出すると緒形がおもむろに「ご用件を伺います」と切り出した。
「今回のお願いは、丸川書店とは一切関係がありません。」
まずそう切り出したのは、律だった。
そしてチラリと木佐を見る。
だが実際に口を開いたのは、雪名だった。
「俺はT美大の学生なんですが、友人数名と絵の展示会を計画しています。それで場所をお借りできないかと」
「つまり図書館で絵の展示をしたいということですか?」
緒形が聞き返すと、雪名は「はい」と頷いた。
堂上と小牧は思わず顔を見合わせる。
「もしかして図書館なら、場所代は無料でできるというお考えからですか?」
「そういうことでは、あ、いや、そういう理由もあったりするんですが。」
緒形がさらに質問を重ねると、雪名は急に歯切れが悪くなった。
実はそういう持ち込み企画はあったりするが、なかなか実現はむずかしい。
図書館は公共の施設なので、展示は無料でできる。
だからこそ、希望は後を絶たないのだ。
結局セレクションすることにあり、ただ絵の展示と言うだけでは実際許可を出さないのが現状だ。
何となく微妙な雰囲気の中で、律は木佐を見た。
助け船を出すならあなたでしょと言いたげな視線。
だが木佐が口を開かないのを見て、律はため息をつくと「あの」と会話に割って入った。
「なぜ業務部でなく、特殊部隊に話を持って来たと思います?」
律の言葉に、緒形は「そういうことですか」とため息をついた。
堂上と小牧も納得したものの、困ったような顔になる。
よりによって隊長の玄田が茨城県展での負傷入院中であるこの時期に、と思っているのだ。
「今はまだそういう可能性があるってだけです。だからこちらにお願いに来ています。」
律がそう告げると、雪名が立ち上がり「よろしくお願いします」と長身を90度折り曲げ、頭を下げる。
緒形は「なるほど。ご事情は理解しました」とむずかしい顔で頷いた。
誰も明確な言葉にはしないが、全員が理解していた。
おそらく雪名の絵は、検閲の対象になる可能性が高い。
だから関東図書基地のお膝元である、武蔵野第一図書館で展示してほしいという依頼なのだ。
そして特殊部隊に警護をしてほしいと。
茨城県展のせいでフル稼働できる人員も少ない今、特殊部隊には過酷な話である。
結局、この場で結論は出ず、返事は先送りされた。
雪名はサンプルとして、展示予定の絵を撮影した写真を置いて帰った。
敦賀原発テロ事件の数日前のことである。
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