第22話「カウントダウン」
「何、この人だかり!?」
久しぶりに武蔵野第一図書館を訪れた律は、思わず目を丸くした。
貸出カウンターの横から玄関まで、長蛇の列ができていたからだ。
正化33年、12月某日。
律は武蔵野第一図書館にやって来た。
だがすぐに図書館には入らず、広い敷地内を散策しながら感慨にふける。
最後に来たのは、あの茨城県展の前だ。
それほど時間が経ったわけではないのだが、ひどく懐かしい気がする。
やはりここは自分にとっては、大事な場所だと改めて思った。
だが長く感慨にふけるには、時期が悪い。
ぶっちゃけ寒いのだ。
年末年始に向けて忙しい時期に、風邪などひいてはいられない。
律は早々に切り上げて、図書館に向かう。
そして図書館内に長蛇の列ができているのを見つけたのだ。
「今、何かイベントやってたっけ?クリスマス?」
「雑誌『自由』の貸し出し待ちですよ」
思わず郁張りにダダ漏れた律の疑問に、背後から答えが返ってきた。
振り返った律は、見知った2人に「こんにちは」と頭を下げる。
答えてくれたのは館内巡回警備中の堂上で、隣には本日のバディである郁がいた。
「律さん、包帯取れたんですね。よかったぁ」
郁が嬉しそうな笑顔で、そう言った。
ホッとしたような口調で、心から心配してくれていたのだとわかる。
茨城県展の初日にぶつけた雑誌「自由」の発売日、律はケガをした。
暴走したファンを取り押さえようとした良化隊員に殴られたのだ。
だがこれが功を奏した。
本好きの中でも、漫画好きの熱量はハンパない。
特に「ザ☆漢」は国民的な圧倒的人気の作品であり、続きを待ち望むファンは殺気だってさえいた。
そこで良化隊員に殴られ、流血しながら倒れた律の姿に、ファンたちは怒りを爆発させた。
圧倒的人数の壮絶な怒りは、圧倒的な迫力でついに良化隊を蹴散らしたのだ。
「心配してくれてありがとう。もうすっかり元気だから」
律は郁に笑顔でそう答えると、再び長蛇の列を見た。
雑誌「自由」の記念すべき第1号はなんとか売ったが、まだまだ欲しいと思う人に行き渡らない。
だからせめて図書館で読みたいと思っている人がこんなにいるのだ。
「でもこの先、どうするんですか?今回は県展の初日に合わせたけど」
郁は不安そうな顔で、そう聞いてきた。
律は「それは、まぁ」と曖昧に言葉を濁す。
心配してくれてるのは嬉しいが、そこから先は企業秘密だ。
だけど律の答えが気に入らないのか何となく不満そうな郁に、律はヒントを出すことにした。
「お正月、郁ちゃんは帰省?」
「いえ。今回は帰りません。親には県展のときに会ったばかりだし。」
「そっか。じゃあひょっとしたら見られるかもよ。」
律は謎めいた言葉を微笑で誤魔化した。
勘のいい堂上はそれで何か思いついたようだが、律は「これは内緒で」という意味を込めて頷く。
そして堂上が頷き返してくれたことで、その意味は伝わったと解釈した。
「それじゃ俺は、本を見るから」
律はそう告げて2人に再び頭を下げると、書架に向かって歩き出す。
以前より距離が近くなった堂上と郁を見ていたら、恋愛小説が読みたくなった。
律は文学小説のコーナーに進み、神田あわじの本に手を伸ばした。
久しぶりに武蔵野第一図書館を訪れた律は、思わず目を丸くした。
貸出カウンターの横から玄関まで、長蛇の列ができていたからだ。
正化33年、12月某日。
律は武蔵野第一図書館にやって来た。
だがすぐに図書館には入らず、広い敷地内を散策しながら感慨にふける。
最後に来たのは、あの茨城県展の前だ。
それほど時間が経ったわけではないのだが、ひどく懐かしい気がする。
やはりここは自分にとっては、大事な場所だと改めて思った。
だが長く感慨にふけるには、時期が悪い。
ぶっちゃけ寒いのだ。
年末年始に向けて忙しい時期に、風邪などひいてはいられない。
律は早々に切り上げて、図書館に向かう。
そして図書館内に長蛇の列ができているのを見つけたのだ。
「今、何かイベントやってたっけ?クリスマス?」
「雑誌『自由』の貸し出し待ちですよ」
思わず郁張りにダダ漏れた律の疑問に、背後から答えが返ってきた。
振り返った律は、見知った2人に「こんにちは」と頭を下げる。
答えてくれたのは館内巡回警備中の堂上で、隣には本日のバディである郁がいた。
「律さん、包帯取れたんですね。よかったぁ」
郁が嬉しそうな笑顔で、そう言った。
ホッとしたような口調で、心から心配してくれていたのだとわかる。
茨城県展の初日にぶつけた雑誌「自由」の発売日、律はケガをした。
暴走したファンを取り押さえようとした良化隊員に殴られたのだ。
だがこれが功を奏した。
本好きの中でも、漫画好きの熱量はハンパない。
特に「ザ☆漢」は国民的な圧倒的人気の作品であり、続きを待ち望むファンは殺気だってさえいた。
そこで良化隊員に殴られ、流血しながら倒れた律の姿に、ファンたちは怒りを爆発させた。
圧倒的人数の壮絶な怒りは、圧倒的な迫力でついに良化隊を蹴散らしたのだ。
「心配してくれてありがとう。もうすっかり元気だから」
律は郁に笑顔でそう答えると、再び長蛇の列を見た。
雑誌「自由」の記念すべき第1号はなんとか売ったが、まだまだ欲しいと思う人に行き渡らない。
だからせめて図書館で読みたいと思っている人がこんなにいるのだ。
「でもこの先、どうするんですか?今回は県展の初日に合わせたけど」
郁は不安そうな顔で、そう聞いてきた。
律は「それは、まぁ」と曖昧に言葉を濁す。
心配してくれてるのは嬉しいが、そこから先は企業秘密だ。
だけど律の答えが気に入らないのか何となく不満そうな郁に、律はヒントを出すことにした。
「お正月、郁ちゃんは帰省?」
「いえ。今回は帰りません。親には県展のときに会ったばかりだし。」
「そっか。じゃあひょっとしたら見られるかもよ。」
律は謎めいた言葉を微笑で誤魔化した。
勘のいい堂上はそれで何か思いついたようだが、律は「これは内緒で」という意味を込めて頷く。
そして堂上が頷き返してくれたことで、その意味は伝わったと解釈した。
「それじゃ俺は、本を見るから」
律はそう告げて2人に再び頭を下げると、書架に向かって歩き出す。
以前より距離が近くなった堂上と郁を見ていたら、恋愛小説が読みたくなった。
律は文学小説のコーナーに進み、神田あわじの本に手を伸ばした。
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