第21話「熱量」
「こんなところに来て、大丈夫なの?」
律は現れた美女に駆け寄り、声をかけた。
長い黒髪を揺らしながら「彼らの代わりに見届けに来たんです」と答えたのは、柴崎だ。
律と柴崎、いわゆる絵にかいたような美男美女の組み合わせであり、目の保養にはもってこいだ。
だが今はそんなことを言える状況ではなかった。
正化33年11月某日、午前0時前。
茨城県展の初日であり、数時間後にはかの地で大規模な抗争が行なわれる。
その時、律たちは都内の大型書店、ブックスまりもの前にいた。
この日は雑誌「自由」の発売日。
茨城県展の最優秀作品の名を冠したその雑誌には、検閲対象になった2つの漫画が掲載される。
問題はいかに検閲を逃れて、雑誌を売るかだった。
警察は守ってくれないし、図書隊は図書館の本以外には無力だ。
考えた末、発売日を茨城県展初日に重ねた。
そしてその前日の夕方「午前零時からブックスまりも等で発売開始」と発表した。
つまり日付が変わるなり、ブックスまりもで発売をすること以外は明言を避けたのだ。
そうなれば一刻も早く手に入れたいファンは、ここに来る。
ブックスまりもには事前にお願いして、時間外に開けてもらった。
販売はコミックスのフロアではなく、1階正面入口前で行なう。
ブックスまりもは万一に備えて、身体の大きな男性スタッフを揃えた。
その中にはもちろん雪名もいる。
ちなみにその発表の前に、雑誌は書店に搬入を済ませている。
入荷時に襲われたら、元も子もないからだ。
さらにまさか午前0時にわざわざ店を開けるとは、良化隊も思っていなかったはずだ。
ここまではまずまず裏をかけたと言っていい。
マスコミは、ほとんど来ていない。
少なくてもビデオカメラなどを抱えたわかりやすいテレビクルーはいなかった。
大手のメディアはやはりメディア良化委員会を敵に回したくないのだろう。
そしてメディア良化法に批判的な、折口らのようなジャーナリストはすべて茨城入りだ。
つまりここで起こることは、決してニュースなどでは報道されない。
だからこそ柴崎は、自分の目で見に来たのだ。
一見ごく普通の格好だが、服のポケットやアクセサリー、バックの中にも隠しカメラを仕込んでいる。
ここでこれから何が行なわれるのか、しっかりと記録に残すためだ。
「それにしても、すごい人ですね。」
柴崎は素朴な感想を口にした。
ブックスまりも前には、長蛇の列ができていたからだ。
律も「予想以上だよ。1人1冊に限定しないと足りないかも」と頷く。
「でも良化隊の手を逃れて、どれくらい売れるでしょうか?」
柴崎は律に問いかける。
良化隊が発表に気付かずに来ないでくれればいいが、きっとそう甘くはない。
だが律はニヤリと笑い「漫画好きの熱量をナメちゃダメだよ」と意味深なことを言う。
そして柴崎がその真意を問う前に、長蛇の列の向こうから良化隊のバンが見えた。
車は3台、おそらく20名程度の規模だろう。
「ごめんね。ガードしたあげられないけど、気をつけて」
律は早口でそう言った後、書店の入口へ向かう。
柴崎は全容が撮影できるポジションをキープした。
茨城より先に、律たちの戦いがいよいよ始まる。
誰も傷つかないで。
柴崎は祈るような思いで、入り口付近に立つ律たちを見る。
そしてこの場にいない特殊部隊のメンバーの顔を思い浮かべて、小さく「頑張れ」と呟いた。
律は現れた美女に駆け寄り、声をかけた。
長い黒髪を揺らしながら「彼らの代わりに見届けに来たんです」と答えたのは、柴崎だ。
律と柴崎、いわゆる絵にかいたような美男美女の組み合わせであり、目の保養にはもってこいだ。
だが今はそんなことを言える状況ではなかった。
正化33年11月某日、午前0時前。
茨城県展の初日であり、数時間後にはかの地で大規模な抗争が行なわれる。
その時、律たちは都内の大型書店、ブックスまりもの前にいた。
この日は雑誌「自由」の発売日。
茨城県展の最優秀作品の名を冠したその雑誌には、検閲対象になった2つの漫画が掲載される。
問題はいかに検閲を逃れて、雑誌を売るかだった。
警察は守ってくれないし、図書隊は図書館の本以外には無力だ。
考えた末、発売日を茨城県展初日に重ねた。
そしてその前日の夕方「午前零時からブックスまりも等で発売開始」と発表した。
つまり日付が変わるなり、ブックスまりもで発売をすること以外は明言を避けたのだ。
そうなれば一刻も早く手に入れたいファンは、ここに来る。
ブックスまりもには事前にお願いして、時間外に開けてもらった。
販売はコミックスのフロアではなく、1階正面入口前で行なう。
ブックスまりもは万一に備えて、身体の大きな男性スタッフを揃えた。
その中にはもちろん雪名もいる。
ちなみにその発表の前に、雑誌は書店に搬入を済ませている。
入荷時に襲われたら、元も子もないからだ。
さらにまさか午前0時にわざわざ店を開けるとは、良化隊も思っていなかったはずだ。
ここまではまずまず裏をかけたと言っていい。
マスコミは、ほとんど来ていない。
少なくてもビデオカメラなどを抱えたわかりやすいテレビクルーはいなかった。
大手のメディアはやはりメディア良化委員会を敵に回したくないのだろう。
そしてメディア良化法に批判的な、折口らのようなジャーナリストはすべて茨城入りだ。
つまりここで起こることは、決してニュースなどでは報道されない。
だからこそ柴崎は、自分の目で見に来たのだ。
一見ごく普通の格好だが、服のポケットやアクセサリー、バックの中にも隠しカメラを仕込んでいる。
ここでこれから何が行なわれるのか、しっかりと記録に残すためだ。
「それにしても、すごい人ですね。」
柴崎は素朴な感想を口にした。
ブックスまりも前には、長蛇の列ができていたからだ。
律も「予想以上だよ。1人1冊に限定しないと足りないかも」と頷く。
「でも良化隊の手を逃れて、どれくらい売れるでしょうか?」
柴崎は律に問いかける。
良化隊が発表に気付かずに来ないでくれればいいが、きっとそう甘くはない。
だが律はニヤリと笑い「漫画好きの熱量をナメちゃダメだよ」と意味深なことを言う。
そして柴崎がその真意を問う前に、長蛇の列の向こうから良化隊のバンが見えた。
車は3台、おそらく20名程度の規模だろう。
「ごめんね。ガードしたあげられないけど、気をつけて」
律は早口でそう言った後、書店の入口へ向かう。
柴崎は全容が撮影できるポジションをキープした。
茨城より先に、律たちの戦いがいよいよ始まる。
誰も傷つかないで。
柴崎は祈るような思いで、入り口付近に立つ律たちを見る。
そしてこの場にいない特殊部隊のメンバーの顔を思い浮かべて、小さく「頑張れ」と呟いた。
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