第20話「絶対に負けない!」

「いきなりぶつけてきましたか。」
玄田はその顔に、ニンマリと不敵な笑みを浮かべた。
横澤は「何か便乗するようで、申し訳ない」と頭を下げたが、律は澄ました顔のまま無言だった。

明日、図書特殊部隊はいよいよ茨城に向けて旅立つ。
準備に慌ただしい中、特殊部隊の隊長室を訪れたのは横澤と律だ。
横澤はコミックス部門の営業責任者として、挨拶を兼ねた報告に。
そして特殊部隊と何かと縁がある律が、編集部代表として同行した。

「おかげさまで『漫画・自由』第1号の発売日が決まりました。」
横澤はそう前置きしてから、発売日を告げた。
2人と相対した玄田と緒形は、思わず顔を見合わせる。
なぜならその日は、茨城県展の初日だった。

「いきなりぶつけてきましたか。」
「何か便乗するようで、申し訳ない。」
「いやいや。せっかくのチャンス、利用しない手はないでしょう。」

玄田は「ガハハ」と豪快に笑った。
そう、せっかくのチャンスなのだ。
良化隊はほぼ間違いなく、県展初日を狙ってくる。
大量の人員を茨城に向け、都内の検閲が手薄になる可能性大だ。
だが律は澄ました顔で、別の側面を指摘した。

「別にうちだけ得をするってわけじゃない。こっちに検閲が来れば茨城に行く数を減らせます。」
「おい」
「借りを作った形にはしたくないでしょう。」
「・・・お前なぁ」

律と横澤のやり取りに、玄田はまた笑った。
玄田はこういう負けず嫌いが大好きなのだ。
それに強面の横澤が下手に出ていて、一見人当たりがいい律が強気なのが面白い。
滅多に声を上げて笑わない緒形でさえ、堪えきれずに笑っている。

「それで図書館への納入は、原稿ベースで行いたいと思います。」
横澤は気を取り直して、そう告げた。
これは当初、丸川書店で考えていた案を踏襲したものだ。
元々雑誌は図書館のみで扱ってもらい、ファンには単行本の形で販売することを考えていた。
デジタルで入稿すれば、検閲されても複製がいくらでもできるからだ。
だが雑誌も販売することにして、図書館への納品だけは原稿にする。
希少本の複製設備もある図書隊なら、それも可能だし、楽で安全だ。

「了解です。お互いに勝負ですなぁ。」
玄田がまた「ガハハ」と笑った。
そう、特殊部隊は茨城県展、丸川書店は雑誌の発売。
形は違えども、検閲に戦いを挑むという意味では同じだ。
そして本に関わる者の誇りとプライドにかけて、絶対に負けられない。
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