第18話「ストーカー」
「あれ、あの人」
郁は図書館の敷地内のベンチでぼんやりと座り込んでいる女性を見つけた。
顔覚えの悪い自分でも顔を覚えているのだが、誰だか思い出せない。
郁は首を傾げながらも、彼女の元へ向かった。
放っておくにはあまりにも、彼女の様子がつらそうに見えたからだ。
「あの、ご気分でも悪いですか?」
郁は彼女の前に立つと、穏やかな表情と声を心掛けながら、話しかける。
女性は驚いたように、顔を上げた。
小柄で華奢で美人、彼女が動くたびに綺麗に手入れされた長い髪が揺れる。
要するに郁から見れば、自分とは正反対のタイプだ。
彼女は驚いたように美しい瞳を見開きながら、郁を見た。
「あ、あたし、一応図書館の人間ですから!お休みなんで、私服ですけど!」
郁は慌てて、そう付け加えた。
ジーパンにジャンバーという、あまりにもラフな格好だったからだ。
すると女性は郁を見上げながら「知ってます」と微笑した。
「郁ちゃん、ですよね?律っちゃんがそう呼んでた。」
それを聞いた郁は思わず「ああ~~!」と叫んでしまう。
思い出したのだ。彼女が何者か。
律が「杏ちゃん」と呼んでいた、婚約者の女性だ。
「大丈夫ですか?ご気分が悪いなら医務室にお連れしますけど」
「大丈夫です。ちょっと失恋しただけなので」
「・・・失恋」
予想外の杏の告白に、郁はそれ以上言葉が出ない。
失恋。律に?
だけど律は杏のことを親が勝手に決めた婚約者だと言っていた気がするが。
「律っちゃんは最初っからあたしのことを恋の相手とは思ってなかった。わかってたのに。」
「え?」
「律っちゃんは高校生の時からずっと、もう逢えない人を想い続けていたんです。」
「・・・もう逢えない人」
杏の言葉に、郁はギクリとした。
何だか自分とすごく重なっている・・・気がする。
だけど律が想い続けた相手って。
考え込む郁に、杏は「座ってください」とベンチをポンポンと叩いた。
郁は「ありがとう」と答えて、杏の隣に腰を下ろした。
「律っちゃんの恋を祝福しようって思ってたんです。だけど実際はむずかしい。」
「好きなら、当たり前だと思います。」
「そう。でも今までは律っちゃんの相手がもういないってわかってるから、余裕があった。」
「え、それって。」
「律っちゃんはその人と再会して結ばれてしまったら、もう心の中がぐちゃぐちゃで」
再会して結ばれた。それってもしかして。
郁は思わず「高野さん?」と声に出していた。
この2人が何となく惹かれ合っていることは、郁にも見てとれた。
勘のいい柴崎あたりも、多分気付いていると思う。
そして杏は「郁ちゃんも知ってたんだ」と肯定した。
「でも頑張る。図書館の中では婚約者としてカモフラージュ役を続けるし。」
「それでいいんですか?」
「いいの。心から祝福できないなら、せめてそれくらいして律っちゃんの役に立ちたい。」
杏は先程よりスッキリした表情で、そう告げた。
そして「聞いてくれてありがとう」と微笑する。
郁は「それくらい、何でもないです!」と明るく応じたが、心の中でこっそりとため息をついた。
もしも堂上教官が別の女性と結ばれたら。
それでもこんな風に想い続けられるだろうか?
そんな郁たちの様子を少し離れた場所から見ている青年がいたが、郁は気付くことがなかった。
郁は図書館の敷地内のベンチでぼんやりと座り込んでいる女性を見つけた。
顔覚えの悪い自分でも顔を覚えているのだが、誰だか思い出せない。
郁は首を傾げながらも、彼女の元へ向かった。
放っておくにはあまりにも、彼女の様子がつらそうに見えたからだ。
「あの、ご気分でも悪いですか?」
郁は彼女の前に立つと、穏やかな表情と声を心掛けながら、話しかける。
女性は驚いたように、顔を上げた。
小柄で華奢で美人、彼女が動くたびに綺麗に手入れされた長い髪が揺れる。
要するに郁から見れば、自分とは正反対のタイプだ。
彼女は驚いたように美しい瞳を見開きながら、郁を見た。
「あ、あたし、一応図書館の人間ですから!お休みなんで、私服ですけど!」
郁は慌てて、そう付け加えた。
ジーパンにジャンバーという、あまりにもラフな格好だったからだ。
すると女性は郁を見上げながら「知ってます」と微笑した。
「郁ちゃん、ですよね?律っちゃんがそう呼んでた。」
それを聞いた郁は思わず「ああ~~!」と叫んでしまう。
思い出したのだ。彼女が何者か。
律が「杏ちゃん」と呼んでいた、婚約者の女性だ。
「大丈夫ですか?ご気分が悪いなら医務室にお連れしますけど」
「大丈夫です。ちょっと失恋しただけなので」
「・・・失恋」
予想外の杏の告白に、郁はそれ以上言葉が出ない。
失恋。律に?
だけど律は杏のことを親が勝手に決めた婚約者だと言っていた気がするが。
「律っちゃんは最初っからあたしのことを恋の相手とは思ってなかった。わかってたのに。」
「え?」
「律っちゃんは高校生の時からずっと、もう逢えない人を想い続けていたんです。」
「・・・もう逢えない人」
杏の言葉に、郁はギクリとした。
何だか自分とすごく重なっている・・・気がする。
だけど律が想い続けた相手って。
考え込む郁に、杏は「座ってください」とベンチをポンポンと叩いた。
郁は「ありがとう」と答えて、杏の隣に腰を下ろした。
「律っちゃんの恋を祝福しようって思ってたんです。だけど実際はむずかしい。」
「好きなら、当たり前だと思います。」
「そう。でも今までは律っちゃんの相手がもういないってわかってるから、余裕があった。」
「え、それって。」
「律っちゃんはその人と再会して結ばれてしまったら、もう心の中がぐちゃぐちゃで」
再会して結ばれた。それってもしかして。
郁は思わず「高野さん?」と声に出していた。
この2人が何となく惹かれ合っていることは、郁にも見てとれた。
勘のいい柴崎あたりも、多分気付いていると思う。
そして杏は「郁ちゃんも知ってたんだ」と肯定した。
「でも頑張る。図書館の中では婚約者としてカモフラージュ役を続けるし。」
「それでいいんですか?」
「いいの。心から祝福できないなら、せめてそれくらいして律っちゃんの役に立ちたい。」
杏は先程よりスッキリした表情で、そう告げた。
そして「聞いてくれてありがとう」と微笑する。
郁は「それくらい、何でもないです!」と明るく応じたが、心の中でこっそりとため息をついた。
もしも堂上教官が別の女性と結ばれたら。
それでもこんな風に想い続けられるだろうか?
そんな郁たちの様子を少し離れた場所から見ている青年がいたが、郁は気付くことがなかった。
1/5ページ