第16話「覚悟」
「広いっ!っていうかデカすぎる!!」
郁は目の前の豪邸を見上げて、思わず叫んでしまう。
すると柴崎が「うるさい。黙れ」と軽く郁の頭を叩いた。
武蔵野第一図書館にほど近い豪邸。
ここは律の実家、つまり小野寺出版社長宅だ。
郁と柴崎がここを訪問したのは、もちろん遊びに来たわけではない。
月刊エメラルドの人気作家、吉川千春と会うため。
吉川が描こうとしている新作のために、郁はインタビューを受けるのだ。
郁も柴崎も私服で、完全に遊びに来たように見せていた。
ここは関東図書基地から見ると、駅や繁華街とは反対の住宅街。
図書隊員に見られる可能性は少ないが、念のためだ。
もし誰かに目撃されて追及されたら、蔵書を見せてもらいに来たと言い抜けできるように。
必要のない柴崎の同行も、カモフラージュだ。
そして郁は、その見事な豪邸っぷりにテンションが上がりまくっているわけだ。
茨城の郁の実家だって、同級生の家に比べたら広い方だった。
だが家族がそれなりに多かったからで、両親プラス兄と郁の6人なら相応な家だ。
そして律の家は両親と律、今は律はいないから両親の2人だけ。
それでも家屋だけで郁の実家の倍以上、さらに広い庭がある。
「どうぞ。入って」
出迎えてくれた律は、苦笑しながらも招き入れてくれた。
そしてまず案内されたのは、書庫だ。
温度と湿度が管理された広い部屋には、書架が並び、ぎっしりと本が埋まっている。
郁は「うわぁ、もうこれは図書館だよ!」とはしゃぎながら、本をチェックし始める。
柴崎が「ちょっと、恥ずかしいわよ!」と窘めるが、律が「別に気にしないですよ」と苦笑のままだ。
「そろそろいいかな、郁ちゃん」
郁がひとしきり書架を見終わった頃、律が声をかけた。
名残り惜しそうな郁に「終わったら、また見ていいよ」と告げると、郁はようやく「はい!」と頷く。
そして柴崎を書庫に残して、律は郁を連れて自分の部屋に向かう。
作家が会うのはあくまで郁だけで、同行してきた柴崎にも会わせない。
元々郁にさえ会わせず、エメラルド編集部の誰かが代行してインタビューするつもりだったのだ。
だが作家の意向で、直接会いたいということになり、こうなった。
柴崎を書庫で待たせるのは、ここなら飽きないだろうという律の配慮だ。
そして律の部屋に案内された郁は、ここでも何度も驚くことになる。
まず律の部屋も広かった。寮の郁と柴崎の部屋の何倍もある。
そして設えられた家具も豪華だし、なによりこの部屋にも大きな書架にぎっしりと本があるのだ。
あんな書庫があるのに、部屋にもこんなに本が。
はしゃぎそうになる郁に、先に待っていた青年が「こんにちは」と声をかけてきた。
「えええ~!?うっそぉぉ~!!」
最後の爆弾に、郁は思わず絶叫してしまう。
少女漫画家吉川千春、女性だと思い込んでいたその人は、堂上や小牧と同年代の線の細い青年だった。
しかも図書館でときどき見かける利用者だったのだ。
郁は目の前の豪邸を見上げて、思わず叫んでしまう。
すると柴崎が「うるさい。黙れ」と軽く郁の頭を叩いた。
武蔵野第一図書館にほど近い豪邸。
ここは律の実家、つまり小野寺出版社長宅だ。
郁と柴崎がここを訪問したのは、もちろん遊びに来たわけではない。
月刊エメラルドの人気作家、吉川千春と会うため。
吉川が描こうとしている新作のために、郁はインタビューを受けるのだ。
郁も柴崎も私服で、完全に遊びに来たように見せていた。
ここは関東図書基地から見ると、駅や繁華街とは反対の住宅街。
図書隊員に見られる可能性は少ないが、念のためだ。
もし誰かに目撃されて追及されたら、蔵書を見せてもらいに来たと言い抜けできるように。
必要のない柴崎の同行も、カモフラージュだ。
そして郁は、その見事な豪邸っぷりにテンションが上がりまくっているわけだ。
茨城の郁の実家だって、同級生の家に比べたら広い方だった。
だが家族がそれなりに多かったからで、両親プラス兄と郁の6人なら相応な家だ。
そして律の家は両親と律、今は律はいないから両親の2人だけ。
それでも家屋だけで郁の実家の倍以上、さらに広い庭がある。
「どうぞ。入って」
出迎えてくれた律は、苦笑しながらも招き入れてくれた。
そしてまず案内されたのは、書庫だ。
温度と湿度が管理された広い部屋には、書架が並び、ぎっしりと本が埋まっている。
郁は「うわぁ、もうこれは図書館だよ!」とはしゃぎながら、本をチェックし始める。
柴崎が「ちょっと、恥ずかしいわよ!」と窘めるが、律が「別に気にしないですよ」と苦笑のままだ。
「そろそろいいかな、郁ちゃん」
郁がひとしきり書架を見終わった頃、律が声をかけた。
名残り惜しそうな郁に「終わったら、また見ていいよ」と告げると、郁はようやく「はい!」と頷く。
そして柴崎を書庫に残して、律は郁を連れて自分の部屋に向かう。
作家が会うのはあくまで郁だけで、同行してきた柴崎にも会わせない。
元々郁にさえ会わせず、エメラルド編集部の誰かが代行してインタビューするつもりだったのだ。
だが作家の意向で、直接会いたいということになり、こうなった。
柴崎を書庫で待たせるのは、ここなら飽きないだろうという律の配慮だ。
そして律の部屋に案内された郁は、ここでも何度も驚くことになる。
まず律の部屋も広かった。寮の郁と柴崎の部屋の何倍もある。
そして設えられた家具も豪華だし、なによりこの部屋にも大きな書架にぎっしりと本があるのだ。
あんな書庫があるのに、部屋にもこんなに本が。
はしゃぎそうになる郁に、先に待っていた青年が「こんにちは」と声をかけてきた。
「えええ~!?うっそぉぉ~!!」
最後の爆弾に、郁は思わず絶叫してしまう。
少女漫画家吉川千春、女性だと思い込んでいたその人は、堂上や小牧と同年代の線の細い青年だった。
しかも図書館でときどき見かける利用者だったのだ。
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