第15話「士長昇任」
「パズルをやりま~す!」
児童室に、郁の明るい声が響き渡る。
子供たちは「パズルぅ~?」と首を傾げながらも、郁の指示に従って箱を開ける。
こうして後に伝説となる士長昇任実技試験が始まったのだった。
吉野千秋は武蔵野第一図書館に来ていた。
本を借りに来たのではない。
今、図書館では図書士長昇任の実技試験の期間なのだ。
それをエメラルド編集部の小野寺律に教えてもらい、誘われた。
図書特殊部隊の紅一点の仕事ぶりが見られますよ、と。
彼女は吉野が新作漫画の参考にさせて欲しいと考えている女性隊員だった。
まず図書特殊部隊に秘かに打診した結果は、あまり芳しくなかったと聞いている。
それでもまだ取材を諦めたわけではない。
それに彼女の取材ができないならできないなりに、図書館を舞台にした話は描きたいと思っている。
そんな折り、律に見に来ないかと声をかけられたのだ。
「こっそり見ちゃっていいんですか?」
昇任試験の見学ができると聞いて、吉野は思わずそう聞いた。
会社勤めの経験はない吉野ではあるが、あまり軽々しく見ていいモノではない気がする。
だが律は「大丈夫ですよ」と請け合った。
「今年は特別、ラッキーですよ。読み聞かせだから図書館内の児童室でやるんです。」
「それでも」
「特に利用者の規制はかかってません。大丈夫です。」
図書館に詳しい律は、ニッコリ笑顔でそう請け合った。
そうして吉野は図書館員や利用者たちにまぎれて、郁の昇任試験を見学した。
他の受験者が本の読み聞かせしかしない中、葉っぱや木の実を使ったパズルで子供たちを夢中にさせている。
こういう女の子、いいなぁ。
いや、立派に働く女性を女の子なんて言ってはいけないのだろうけど。
どちらかといえば童顔で他の候補者よりも若く見える彼女は、かわいい女の子だ。
彼女のようなヒロインを、自分の漫画でぜひとも書いてみたいと思った。
「律さん、こんにちは」
彼女の試験が終わったところで、1人の男性が律に声をかけてきた。
律は「こんにちは、堂上さん」と頭を下げて、彼の後ろにいた2人にも「小牧さん、手塚君も」と挨拶した。
2人も「こんにちは」と頭を下げた後、3人で律と吉野を見た。
「郁ちゃんの試験、今日だって聞いて。たまたま用事があったからついでに見てたんですよ。」
「試験を御存知だったんですか?」
「ええ。今回は試験の内容や日程が児童室前に掲示されていたから。たまたま会った友人と一緒に」
律は微妙に答えをぼかしながら、そう言った。
郁をモデルにという話はまだ正式に決まっていない今、吉野の素性を明かせないのだ。
「たまたま、ですか」
堂上が鋭い眼光で、律と吉野を見ている。
どうやら言葉通りに信じてくれたわけではなさそうだ。
だが律は動じることなく「たまたまです」と笑顔で応じた。
美人の笑顔はそれだけで武器だと、吉野は感心せざるを得なかった。
児童室に、郁の明るい声が響き渡る。
子供たちは「パズルぅ~?」と首を傾げながらも、郁の指示に従って箱を開ける。
こうして後に伝説となる士長昇任実技試験が始まったのだった。
吉野千秋は武蔵野第一図書館に来ていた。
本を借りに来たのではない。
今、図書館では図書士長昇任の実技試験の期間なのだ。
それをエメラルド編集部の小野寺律に教えてもらい、誘われた。
図書特殊部隊の紅一点の仕事ぶりが見られますよ、と。
彼女は吉野が新作漫画の参考にさせて欲しいと考えている女性隊員だった。
まず図書特殊部隊に秘かに打診した結果は、あまり芳しくなかったと聞いている。
それでもまだ取材を諦めたわけではない。
それに彼女の取材ができないならできないなりに、図書館を舞台にした話は描きたいと思っている。
そんな折り、律に見に来ないかと声をかけられたのだ。
「こっそり見ちゃっていいんですか?」
昇任試験の見学ができると聞いて、吉野は思わずそう聞いた。
会社勤めの経験はない吉野ではあるが、あまり軽々しく見ていいモノではない気がする。
だが律は「大丈夫ですよ」と請け合った。
「今年は特別、ラッキーですよ。読み聞かせだから図書館内の児童室でやるんです。」
「それでも」
「特に利用者の規制はかかってません。大丈夫です。」
図書館に詳しい律は、ニッコリ笑顔でそう請け合った。
そうして吉野は図書館員や利用者たちにまぎれて、郁の昇任試験を見学した。
他の受験者が本の読み聞かせしかしない中、葉っぱや木の実を使ったパズルで子供たちを夢中にさせている。
こういう女の子、いいなぁ。
いや、立派に働く女性を女の子なんて言ってはいけないのだろうけど。
どちらかといえば童顔で他の候補者よりも若く見える彼女は、かわいい女の子だ。
彼女のようなヒロインを、自分の漫画でぜひとも書いてみたいと思った。
「律さん、こんにちは」
彼女の試験が終わったところで、1人の男性が律に声をかけてきた。
律は「こんにちは、堂上さん」と頭を下げて、彼の後ろにいた2人にも「小牧さん、手塚君も」と挨拶した。
2人も「こんにちは」と頭を下げた後、3人で律と吉野を見た。
「郁ちゃんの試験、今日だって聞いて。たまたま用事があったからついでに見てたんですよ。」
「試験を御存知だったんですか?」
「ええ。今回は試験の内容や日程が児童室前に掲示されていたから。たまたま会った友人と一緒に」
律は微妙に答えをぼかしながら、そう言った。
郁をモデルにという話はまだ正式に決まっていない今、吉野の素性を明かせないのだ。
「たまたま、ですか」
堂上が鋭い眼光で、律と吉野を見ている。
どうやら言葉通りに信じてくれたわけではなさそうだ。
だが律は動じることなく「たまたまです」と笑顔で応じた。
美人の笑顔はそれだけで武器だと、吉野は感心せざるを得なかった。
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