第11話「確信」

「それにしても律さんは、痛快だったねぇ」
小牧は楽しそうに、缶のままのビールをゴクゴクと飲んだ。
堂上も「そうだな」と答え、手塚は無言だが笑顔になっていた。

夜、堂上班の男3人、堂上、小牧、手塚の3名は、堂上の部屋で飲んでいた。
テーブルには缶ビールと、コンビニで購入した簡単なつまみ。
少し前までは、毎度おなじみの光景だった。
だがここ最近、この部屋飲みは封印状態だった。

理由は簡単、郁の査問だ。
謂れのない罪で毎日呼び出されて絞り上げられ、寮では針の筵。
元気に振る舞っているが、郁が疲弊しているのは間違いない。
そんな状況下で、部屋飲みなどする気にはなれなかった。
例え飲んだところで、明るい話題になりようもないのだ。

そんな中、まだ査問が終わっていないにも関わらず、部屋飲みは開催された。
理由はただ1つ、律だ。
今日、律が図書隊を訪ねて来て、父の恩師の本を寄贈したいと申し出た。
特殊部隊は全員、その打ち合わせに呼ばれたのだ。
寄贈される本の中に検閲対象の本が多く含まれていており、受け取る際には警護の必要があるからだった。

その場で律は、図書館側の窓口担当者に郁を指名した。
寄贈者と担当者を引き合わせて、後は図書隊で話を進めてほしいと。
当然、郁が査問中であることが問題になる。
行政派の幹部連中がそれを律に伝えた時には、さすがに堂上たちも腹が立った。
査問中ということは、まだ有罪ではないのだ。
それなのに一般利用者である律に話すなど、ありえない。

だが律はキッパリと「ありえない」と笑い飛ばした。
そして行政派が推薦した女性図書館員をバッサリと切り捨て、郁以外はないと宣言した。
査問が終わるまで待つし、郁が処分されるならこの話はないとまで言い切ったのだ。

「俺、かなり気分良かったよ」
小牧は上機嫌で、いつもより早いペースでビールを飲んでいる。
堂上も「俺もだ」と同意しながら、頭の中で冷蔵庫の中身を思い出す。
ビールの買い置きはそれなりにあったはずだが、このペースだと足りなくなりそうだ。
それほど今夜は、久しぶりに楽しい酒だった。
おそらく特殊部隊隊員たちが、あちこちでこんな飲み会をしていることだろう。

「でもこれですぐに、笠原の査問が終わるとは思えません。」
手塚が神妙な面持ちで口を挟む。
律自身は目立つ存在ではあるものの、所詮は一利用者だ。
これで査問が終わるわけでも、早まるわけでもないだろう。
せいぜい行政派の幹部連中を不愉快にするという、実にささやかな意趣返ししかできていない。

「でも律さんはまったく笠原を疑わなかった。それは笠原の力になったはずだ。」
堂上の言葉に、小牧も「うん。それは大きいよね」と頷き、また酒を飲んだ。
律の行動は行政派を動かすほどのものではないが、郁を元気づける効果はあったのだ。
事実、最近表情が沈みがちだった郁が、あの会議の後には明るくなっていた。

「早くこんな馬鹿げた査問、終わって欲しいもんだ。」
堂上は思わず心からの要望を口にしながら、缶ビールの中身を一気に飲み干した。
小牧が「本当にそうだね」と同意しながら、新しい缶ビールを渡してくれた。
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