第34話「負けず嫌いだから」
「これはかなり照れますね。」
本を読み終わった律は、床に突っ伏した。
それを見た高野は、これは相当なものなのだろうと覚悟を決めた。
黒子の新しい小説が、でき上がった。
数日後に、まずは日本で発売される予定だ。
本が出ると知らされて、律も高野もかなり驚いたのだ。
ここのところ、公私ともに黒子は相当忙しかったはずだ。
襲撃事件があり、誘拐事件があった。
日本への一時帰国もしていた。
英訳本やノベライズなどの企画もあり、打ち合わせなどで時間も取られたはずだ。
それでいて、ジムで身体を動かしたり、格闘技や銃の練習も続けている。
そんな中で、しっかりと新作の物語を書き上げていたのだ。
今朝、黒子は予告もなく高野と律の部屋を訪ねてきた。
応対に出た律は驚きながらも「上がってお茶でも」と告げた。
だが律は「いえ、時間がないので」と答えた。
よく見ると大きなキャリーバックを引いており、旅行に出るところらしい。
黒子は一冊のハードカバーの本を差し出して「よかったらどうぞ」と言った。
日本で発売される黒子の本だ。
律はそれで、黒子が新作を書き上げたことを知ったのだった。
「本当にすみません。」
黒子は意味不明な前置きすると「では行ってきます」とさっさと出かけてしまった。
何と黒子はその足で空港に向かい、日本に旅立ったのだ。
顔を出すようなイベントはないが、打ち合わせやら報告やらの雑用があるらしい。
出版社の要請で、ことわれなかったのだそうだ。
「発売前に読めるなんて、ラッキー!」
律は大喜びで本を開き、そして数ページ読んだところで「うわぁぁ!」と絶叫することになった。
この本は、事情があり渡米した実業家と翻訳家の恋のお話。
つまりモデルは高野と律だったのだ。
黒子の「本当にすみません」は、勝手にモデルにしたことへの謝罪だった。
火神に黒子の小説はすべてモデルがいると聞かされていたが、自分たちがなるのは想定外だった。
「うわぁ、恥ずかしいっ!」
律は身悶えしながらも、本を読み進めた。
そしてやはり黒子の文章力に感動さざるを得なかった。
律は物語の上では、女性として書かれている。
それに渡米しなければならなかった事情も、事実とは違っていた。
つまり高野と律の素性は巧みに隠されていたのだ。
それでも高野や律のキャラクターは見事に描写されていた。
2人はさまざまな困難を抱えながら、一生懸命乗り越えていく。
そしてそのたびに深くなる大人の愛情が、綺麗に描かれていた。
「ったく、さすが人気作家だな。」
律の後に本を読んだ高野も、感心するしかなかった。
もしも編集をやっている頃に、黒子に出逢えたら。
そんな後悔さえしてしまうほど、魅力的な小説だ。
「黒子君ばっかり、ちょっとカッコ良すぎですよね。」
律は本棚に新しく加わったばかりの本の背表紙を見ながら、そう言った。
それを見た高野は、律が考えていることがわかって、クスリと笑った。
本を読み終わった律は、床に突っ伏した。
それを見た高野は、これは相当なものなのだろうと覚悟を決めた。
黒子の新しい小説が、でき上がった。
数日後に、まずは日本で発売される予定だ。
本が出ると知らされて、律も高野もかなり驚いたのだ。
ここのところ、公私ともに黒子は相当忙しかったはずだ。
襲撃事件があり、誘拐事件があった。
日本への一時帰国もしていた。
英訳本やノベライズなどの企画もあり、打ち合わせなどで時間も取られたはずだ。
それでいて、ジムで身体を動かしたり、格闘技や銃の練習も続けている。
そんな中で、しっかりと新作の物語を書き上げていたのだ。
今朝、黒子は予告もなく高野と律の部屋を訪ねてきた。
応対に出た律は驚きながらも「上がってお茶でも」と告げた。
だが律は「いえ、時間がないので」と答えた。
よく見ると大きなキャリーバックを引いており、旅行に出るところらしい。
黒子は一冊のハードカバーの本を差し出して「よかったらどうぞ」と言った。
日本で発売される黒子の本だ。
律はそれで、黒子が新作を書き上げたことを知ったのだった。
「本当にすみません。」
黒子は意味不明な前置きすると「では行ってきます」とさっさと出かけてしまった。
何と黒子はその足で空港に向かい、日本に旅立ったのだ。
顔を出すようなイベントはないが、打ち合わせやら報告やらの雑用があるらしい。
出版社の要請で、ことわれなかったのだそうだ。
「発売前に読めるなんて、ラッキー!」
律は大喜びで本を開き、そして数ページ読んだところで「うわぁぁ!」と絶叫することになった。
この本は、事情があり渡米した実業家と翻訳家の恋のお話。
つまりモデルは高野と律だったのだ。
黒子の「本当にすみません」は、勝手にモデルにしたことへの謝罪だった。
火神に黒子の小説はすべてモデルがいると聞かされていたが、自分たちがなるのは想定外だった。
「うわぁ、恥ずかしいっ!」
律は身悶えしながらも、本を読み進めた。
そしてやはり黒子の文章力に感動さざるを得なかった。
律は物語の上では、女性として書かれている。
それに渡米しなければならなかった事情も、事実とは違っていた。
つまり高野と律の素性は巧みに隠されていたのだ。
それでも高野や律のキャラクターは見事に描写されていた。
2人はさまざまな困難を抱えながら、一生懸命乗り越えていく。
そしてそのたびに深くなる大人の愛情が、綺麗に描かれていた。
「ったく、さすが人気作家だな。」
律の後に本を読んだ高野も、感心するしかなかった。
もしも編集をやっている頃に、黒子に出逢えたら。
そんな後悔さえしてしまうほど、魅力的な小説だ。
「黒子君ばっかり、ちょっとカッコ良すぎですよね。」
律は本棚に新しく加わったばかりの本の背表紙を見ながら、そう言った。
それを見た高野は、律が考えていることがわかって、クスリと笑った。
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