第18話「赤司君ってすごいんですね。」

「何言ってんだ!?黒子!!」
火神は思わず大声を上げてしまう。
だが黒子は涼しい顔で「さっさとお願いします」と告げた。

「ちょっと一度、日本に帰ろうと思います。」
自宅で火神が腕を振るった夕食の後、黒子はおもむろにそう切り出した。
食後のお茶を用意していた火神は「仕事か?」と聞く。
一番の目的はそうだったので、黒子は「はい」と答えた。

「コミカライズの件で、丸川書店の方と会うことになりまして」
「ああ、桐嶋さんだっけ?」
「はい。あと実際にお描きになる作家さんともお目にかかることになりました。」
「仕事なら仕方ないけど、大丈夫か?」

火神は軽い口調で応じながらも、心配だった。
ここ最近、物騒な事件が頻発しているのだ。
日本だったらアメリカよりは安全だと思うが、大丈夫なのか。
それにもっと切実な問題もある。
黒子1人が遠い日本に行ってしまうと思うと、何だか寂しいのだ。

「律さんも日本に用事があるそうなので、一緒に帰ろうと思います。」
「・・・律さんと?」
火神はそれを聞いて、ますます不安になった。
黒子もそうだが、律もなかなかのトラブル体質なのだ。
この2人が一緒に行動するなんて、もう何も起きないわけがないという気がする。

「つきましては、火神君のお父さんに会って来ようと思ってます。」
「は?」
「ですので、連絡先を教えていただけませんか?」
「何言ってんだ!?黒子!!」
火神は思わず大声を上げてしまう。
だが黒子は涼しい顔で「さっさとお願いします」と告げた。

あの黒子の誘拐事件の犯人は、未だに捕まっていない。
犯人はわかっているのに、逃げおおせているのだという。
そして全てがうやむやのまま、火神の父は東京勤務になり、日本に帰国してしまった。
この一件のせいで、黒子だけでなく火神まで父親と気まずい状態だ。

「おい、ちょっと待て、黒子!」
「待てません。日本に戻る機会なんて、そうそうないんですから」
「じゃあ俺も一緒に」
「何言ってるんです。シーズン中に」

残念ながら、口ではかなわない。昔からそうだ。
火神は「ハァァ」と大きくため息をつく。
そして「あいつの家で2人で会うとかはやめろよ」と言った。
父親が黒子に危害を加える可能性が、ないとは言えないからだ。
だが黒子は「充分に気をつけますよ」と答えた。

こういうところは男前だ。
火神は黒子の強い意志を秘めた瞳を見ながら、そう思う。
実の父親を疑い、警戒しなければならないこの状況は異常だ。
黒子はそれを正すために、火神の父親に会いに行こうと決めたのだ。

主目的は仕事なんて言っているけど、それはきっと後付けだ。
だって黒子は今まで、日本の仕事関係者と電話やメールでうまくやっていたのだから。
そしてやると決めた黒子は、絶対に引かない。
火神がどれだけ止めても、1人で戦いに向かうのだ。

「一生、尻に敷かれるのかよ、俺は」
「尻に敷かれるなんて言葉、よく知ってましたね。バ火神のくせに」
「お前、なぁ。。。」

容赦のない黒子の言葉に、火神はガックリと肩を落とした。
こうしてずっと黒子の心配をし続けるのは、もう確定事項らしい。
決して嫌な気持ちではないけれど、何だかひどく負けたような気分だった。
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