第17話「決着を付けます」

どうしてこうトラブルによく巻き込まれるのか。
火神は恋人の事件体質に、呆れるしかなかった。

黒子と律が襲われたという知らせを、火神は警察から受け取った。
ちょうど練習中だったのだが、練習を切り上げて、警察署に向かう。
ケガはないという話だったが、あまり喜べる話ではなかった。
なぜなら黒子は長時間の事情聴取を受けさせられたからだ。
どうして被害者である黒子が、そんな目に合うのか。
火神は納得がいかないまま、駆けつけた警察署でかなり長く待たされ、イライラする羽目になった。

だがようやく解放された黒子に話を聞いて、愕然とすることになる。
黒子は犯人に対抗するために、銃を使ったのだ。
やはり発砲してしまうと、簡単には終わらせられないということらしい。
幸いにも何人も目撃者がいて、黒子が嘘を言っていないことが証明された。
襲われて、やむなく発砲したのだと認められたのだ。

「アメリカでもやっぱり、銃を撃つとうるさいんですね。」
事情聴取を終えた黒子は、開口一番火神にそう言った。
いつもと変わらない、事も無げな表情と声でだ。
その落ち着きっぷりが、逆に警察に不審を抱かせたのではないか。
火神はそう思ったが、さすがに口には出さなかった。

「ほい、黒子。とりあえず飲め」
帰宅するなり、キッチンに立った火神はバニラシェイクを作った。
高校時代からの黒子の好物だ。
火神はいつもより少しだけ甘めに作って、ストローを差す。
そしてソファに腰を下ろして待っていた黒子の前に置いた。

「ありがとうございます。」
黒子は少しだけ笑顔になると、テーブルの上のバニラシェイクに手を伸ばす。
だがその手は微かに震えていた。
黒子は小さく「あれ?」と小首を傾げる。
自分の思う通りにならない身体に、困惑しているようだ。

「ったく」
火神は小さく悪態をつくと、黒子の隣に腰を下ろす。
そしてバニラシェイクのグラスを取ると、黒子の口元に差し出した。
これで黒子は手を使わなくても、ストローをくわえるだけでバニラシェイクが飲める。
まるで親が小さな子供にするような仕草だ。

「火神君、これはちょっと」
「いいだろ。今日は特別だ。」
「恥ずかしいんですけど」
「誰も見てねーよ。それにこんなときぐらい甘えろ」

火神はぶっきらぼうに、グラスをさらに黒子の口元に近づけた。
黒子は珍しく困ったような顔で、躊躇する。
だがすぐに「いただきます」と、ストローに口をつけた。
そしていつものように、ゆっくりとバニラシェイクを味わっている。

さすがの黒子も、今日はショックだったはずだ。
いくら自分たちを守るためとはいえ、銃を人に向けて撃った。
それはとても怖い体験だったに違いない。
動じないことが習慣のようになっている黒子だが、こんなときは動揺してもいい。
そのために火神はこうしているのだから。

「練習、休ませてしまって、すみませんでした。」
「1日くらい、たいしたことねーよ。」
「でも」
「いいって。ゆっくり味わえ。」

火神はグラスを左手に持ち帰ると、右手で黒子の髪をガシガシとなでた。
とにかく黒子は無事で、こうして手が届くところにいる。
そのことが今さらのように、嬉しかった。
1/2ページ