第14話「負けたような気がします」
「赤司君がいてくれて、本当に助かりました。」
黒子は礼を言って、頭を下げた。
赤司は「どういたしまして」と言いながら、得意気だ。
だが火神は対照的に、この流れがあからさまに不満そうだった。
黒子の本を英語に翻訳した律の原稿ができ上がった。
律は読みやすいようにと、それをプリントアウトして持ってきてくれた。
事前に原稿をチェックしてほしいと言う。
黒子は「わかりました」と答えて、それを受け取ったのだが。
黒子は渡米して、まだ数年足らず。
日常会話はたいていどうにかなるが、長い文章、例えば新聞などを読むのには苦戦している。
そんな黒子が英文の原稿を読んだところで、評価などしようもなかった。
それでも英単語を調べながら、逆に日本語に訳す作業をしてみた。
だけどそれでわかったのは、律の原稿は黒子の日本語とはかなり違うということ。
つまり作品の世界観を表現するのに主眼を置いたため、意訳をしているのだ。
さぁ、困った。
黒子はここで次の手がなくて、頭を抱えることになった。
もちろん律を信頼して、このままOKにしてしまうというのはありだ。
律という人間を見ていれば、決していいかげんな仕事をするとは思えない。
そもそも原作者が翻訳の内容をいちいちチェックしなければならない義理などない。
だがここでチェックを放棄するのは、何だか無責任な気がした。
翻訳など初めてのケースで、どうしたらいいのかわからない。
だがありがたいことに、今黒子と火神の部屋には、もう1人。
頼もしい男が滞在している。
大財閥の御曹司にして、幼い頃から英才教育を受けている赤司だ。
かつて「キセキの世代」と呼ばれた天才集団を束ねていた男は、頼りになる。
さっそく黒子の手から、この重い荷物を引き受けてくれたのだ。
「うん。いい文章だ。『まこと・りん』の世界を見事に表現している。」
「本当ですか?」
「ああ。これから欧米でも、お前は人気作家になる」
「何か凄すぎて、嘘みたいです。」
律の原稿に目を通した赤司は、絶賛した。
言葉だけ見れば短い褒め言葉だが、赤司は本当に気に入ったものでなければ褒めない。
つまり赤司は律の翻訳本を高く評価したのだ。
「赤司君がそう言ってくれるなら、安心です。」
黒子は心の底から安堵し、礼を言った。
赤司が認めたのなら、これ以上のことはない。
律は黒子の他の本も訳してくれるつもりのようだが、全面的に任せていいだろう。
「赤司君がいてくれて、本当に助かりました。」
黒子は礼を言って、頭を下げた。
赤司は「どういたしまして」と言いながら、得意気だ。
だが火神は対照的に、この流れがあからさまに不満そうだった。
わかっている。
ずっとアメリカ育ちの火神は、黒子よりは英語が上手いと思っている。
だからなぜ自分ではなく赤司にチェックを頼んだのかと、不満なのだろう。
でも黒子は最初から、火神に頼むつもりはなかった。
「そんなに睨まないで下さい。」
「・・・だって、よぉ」
「覚えてますよ。高校時代の火神君の成績。」
「うるせーよ」
黒子は冷やかに、事実を認識させてやる。
そう、火神は高校時代毎回赤点ギリギリだったのだ。
しかもギリギリで免れたのは、当時のバスケ部の先輩たちの努力によるものだ。
何より驚いたのは、帰国子女のくせに英語の成績さえ悪かった。
会話はできても、文法などは適当にしか把握していないのだ。
そんな火神に翻訳原稿を見せる気になど、絶対になれない。
赤司がニヤニヤしながら、火神を見ている。
火神は憮然とした表情で、黙り込んでしまう。
これ以上、何か言っても無駄だと悟ったようだ。
黒子はそんな2人の顔を見比べながら、密やかに微笑した。
黒子は礼を言って、頭を下げた。
赤司は「どういたしまして」と言いながら、得意気だ。
だが火神は対照的に、この流れがあからさまに不満そうだった。
黒子の本を英語に翻訳した律の原稿ができ上がった。
律は読みやすいようにと、それをプリントアウトして持ってきてくれた。
事前に原稿をチェックしてほしいと言う。
黒子は「わかりました」と答えて、それを受け取ったのだが。
黒子は渡米して、まだ数年足らず。
日常会話はたいていどうにかなるが、長い文章、例えば新聞などを読むのには苦戦している。
そんな黒子が英文の原稿を読んだところで、評価などしようもなかった。
それでも英単語を調べながら、逆に日本語に訳す作業をしてみた。
だけどそれでわかったのは、律の原稿は黒子の日本語とはかなり違うということ。
つまり作品の世界観を表現するのに主眼を置いたため、意訳をしているのだ。
さぁ、困った。
黒子はここで次の手がなくて、頭を抱えることになった。
もちろん律を信頼して、このままOKにしてしまうというのはありだ。
律という人間を見ていれば、決していいかげんな仕事をするとは思えない。
そもそも原作者が翻訳の内容をいちいちチェックしなければならない義理などない。
だがここでチェックを放棄するのは、何だか無責任な気がした。
翻訳など初めてのケースで、どうしたらいいのかわからない。
だがありがたいことに、今黒子と火神の部屋には、もう1人。
頼もしい男が滞在している。
大財閥の御曹司にして、幼い頃から英才教育を受けている赤司だ。
かつて「キセキの世代」と呼ばれた天才集団を束ねていた男は、頼りになる。
さっそく黒子の手から、この重い荷物を引き受けてくれたのだ。
「うん。いい文章だ。『まこと・りん』の世界を見事に表現している。」
「本当ですか?」
「ああ。これから欧米でも、お前は人気作家になる」
「何か凄すぎて、嘘みたいです。」
律の原稿に目を通した赤司は、絶賛した。
言葉だけ見れば短い褒め言葉だが、赤司は本当に気に入ったものでなければ褒めない。
つまり赤司は律の翻訳本を高く評価したのだ。
「赤司君がそう言ってくれるなら、安心です。」
黒子は心の底から安堵し、礼を言った。
赤司が認めたのなら、これ以上のことはない。
律は黒子の他の本も訳してくれるつもりのようだが、全面的に任せていいだろう。
「赤司君がいてくれて、本当に助かりました。」
黒子は礼を言って、頭を下げた。
赤司は「どういたしまして」と言いながら、得意気だ。
だが火神は対照的に、この流れがあからさまに不満そうだった。
わかっている。
ずっとアメリカ育ちの火神は、黒子よりは英語が上手いと思っている。
だからなぜ自分ではなく赤司にチェックを頼んだのかと、不満なのだろう。
でも黒子は最初から、火神に頼むつもりはなかった。
「そんなに睨まないで下さい。」
「・・・だって、よぉ」
「覚えてますよ。高校時代の火神君の成績。」
「うるせーよ」
黒子は冷やかに、事実を認識させてやる。
そう、火神は高校時代毎回赤点ギリギリだったのだ。
しかもギリギリで免れたのは、当時のバスケ部の先輩たちの努力によるものだ。
何より驚いたのは、帰国子女のくせに英語の成績さえ悪かった。
会話はできても、文法などは適当にしか把握していないのだ。
そんな火神に翻訳原稿を見せる気になど、絶対になれない。
赤司がニヤニヤしながら、火神を見ている。
火神は憮然とした表情で、黙り込んでしまう。
これ以上、何か言っても無駄だと悟ったようだ。
黒子はそんな2人の顔を見比べながら、密やかに微笑した。
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