第四話「反逆の産声、黒き羽音」

 シュナイダーは彼女の冷たい横顔を見つめながら思考を巡らせたが、今はそんな事を考えていても仕方がない為、それ以上の進言はしなかった。

「貴公は、やはりリリーを討つのに抵抗があるか?」

「は……?」

「男はすぐ絆される」

「御冗談を。関係ありません」

「そうか?」

 含んで笑うマリアベルに、シュナイダーは目を逸らした。
 王国軍の進軍はとても順調であった。
 ヴァイスには大平原が広がるのみで、砦らしい砦などは無い。それもそのはず、ヴァイスの民は、元は戦をするような民ではないからだ。

「ふ……」

 事が思惑通りに進んでいることを喜んでか、聖王国首都で高見の見物をするアルフレッドとバロンがいた。

「ご機嫌がよろしいようですな陛下。ジークフリード率いる魔導師団はすでに大運河を越えるとか」

 バロンが玉座の傍らで、その年老いた体を杖に預けながら言う。

「優秀だよ、我らが英雄聖騎士と、可愛い指揮官は」

 アルフレッドは玉座にてゆったりと微笑みを浮かべている。そんな彼はどこから見ても賢王にしか見えない。

「マリアベル大佐はさておき、アメリやジークフリードは英雄といえどまだ若い。一師団を指揮させてもよろしいので?」

「別に彼らに指揮能力など求めてはいないよ」

「と、申しますと?」

 バロンが聞き返すと、アルフレッドは玉座から立ち上がり、彼の目線に合わせた。

「少し考えれば分かるだろう」

 その何か含みをもった言い方にピンときたのか、バロンは自分の顎を撫でながら目を細めた。

「ははあ。陛下はやはり……」

「バロン、私は何も言っていない。何かあるような言い方をするものではないよ」

 側で二人の会話を聞いていても、その真意が分からぬ玉座の間の警護兵達は首を傾げた。

「さて、どう手を打ってくる?」

 人間側、獅子王アルフレッドの旗下に、ノーブル皇国からのある人物の派遣。物資を主とした支援として東の共和国が。
 対するは、彼らの進軍を察知し、素早く国土に散っていた兵を集め、竜族まで味方につけた、王の遺児・リリー率いるヴァイス軍。

 "報復戦争"として後世に語り継がれる、歴史的な戦いの幕が本格的に開かれようとしていた。

 果たして、勝利を収めるのは人間か。
 彼らか。

 神は見守ることしか出来ず、御座にて頬杖をついているだろう。

「戦おう。いつまでも。君が王であり、私が王である限り」

 アルフレッドは、白亜の城の玉座にて、妖しく笑みを浮かべていた。

第四話・終
10/10ページ
スキ