第二話「白銀の嘘、紅き系譜」
ノーブル皇国は極端に魔法が発達した国。それも、精霊を介して行使する「精霊魔導術」に特化した国だ。
それというのも、ノーブル皇家の祖先は「精霊」であり、皇族並びに国民はその精霊の血を持つ。精霊への語り掛けは媒介や、技術ではなく血統のみに左右される。
精霊に認められなければ、彼らの姿を見ることはかなわない。
「皇帝は貴方がここに来ることを心配したんじゃないのか」
「あーそれはない。関係ないよ。ぜんっぜん関係ない」
吐き捨てるようなジークフリードの言葉を、リリーは表情も変えず黙って聞いた。
長い階段にようやく終わりが見え始め、城内部に入ると豪華な彫像が二人を迎えた。まさに権威の象徴ともいえる獅子の像が立ち並び、汚れひとつない赤絨毯は王の間へと続く。
天井を見上げれば、透明なガラス。支えるように這う、白い装飾の蔦。隙間からは青い空が見える。
回廊には、まばらに大臣達や議員たちの姿が見える。それぞれ難しい顔をしたまま、二人を気にもせず通り過ぎていく。
「大佐はどうにも若すぎる」
ぶつくさと文句を言いながら横を擦り抜けていく大臣達の言葉を、リリーはさほど気にはしなかった。
そんな雰囲気を打ち壊すかのように、前方から前のめりに走り接近してくる人物がいた。
「リリ~!」
それは、先程街で別れたのベリーだった。嬉しそうに、リリー達の元に走ってくる。
「神出鬼没ね貴方」
「会議の内容を諜報してた!」
「そういうことを大声で言うのやめなさいよ」
「それよりさぁ大変だよ。会議聞いてたら……あれ?」
はた、とベリーは動きを止める。傍らにいる人物を見ると目を丸くした。
「じぃ!!」
「誰がじぃだよベリー」
明らかに自分を馬鹿にした発言に、不機嫌に眉をしかめるとジークフリードは腕を組んだ。
ベリーはそんなことはおかまいなしだ。
「てか何その見た目。相変わらずの若作りだよね。純粋な魔法使いって怖い」
「なに? じぃ喧嘩売ってんの~?」
二人が犬と猿のように睨み合い火花を散らす。リリーは頭を抱え深くため息をついた。
「で、ベリー。一体何が大変なの?」
するとベリーは急に表情を変えた。困ったように眉を下げながら。
「それがね。今終わった軍事会議の席で、アルフレッド陛下と大臣が衝突しちゃってさ」
「陛下と?」
リリーは表情を変えた。
ジークフリードもまた、ただ事じゃないことを察知したのか真剣な顔つきになる。
「…………あ、えと」
ベリーはそこからさらに深い続きを話そうとしたが、ジークフリードを見て少し口ごもった。
それを察したジークフリードは、「ああ」と腰に手を当て首を振った。
「別に他国の情報なんか興味ないし、報告するつもりもないけど。話しにくいんなら消えるよ」
「ごめんね、じぃ」
「まだ言う?」
額に青筋を浮かべながらも、ジークフリードは二人に背を向け長い回廊を進んでいった。
ジークフリードが少し遠くに離れたのを確認すると、ベリーは少し声を押さえ気味に話し始めた。片手を口元にあて、いかにも内緒の話のように。
「軍事会議では、聖騎士の軍の編成と、ヴァイスへの先制軍をどうするかって話だったの。アルフレッド陛下は、当初予定していた聖騎士だけの軍勢を送り込むより、上位騎士や聖王国の軍幹部を司令塔とした混合部隊を幾つか編成する案を出したわ」
「大佐が緊急会議で唱えていた案よりはよっぽど使える」
頷くリリーに、ベリーもまた同意した。
「私もそう思うよ。国議院議長も賛成したの。でもさ、ぶっちゃけ聖王国の内部ってここまで分裂してたっけ? て感じの軍事会議だった」
「あの人は優しすぎるのよ」
そうなんだよね、とベリーは頭を抱える。
「国議院と元老院は違うから……。国議院は国議院議長バロン様を中心に新体制を唱える革新派だけど、元老院は旧王家の血を引く化石の集まりみたいなもんだから。自分達の意見が通らないと嫌なのよ」
淡々と語るリリーは、話しながらも思索にふける。
「今の聖王国は二つに別れてるよね。アルフレッド陛下の意志を尊重する新体制の国議院と、旧体制の元老院。こんなときなのにさ」
「で、アルフレッド陛下の意志に反した元老院はどんな案を出したんだ?」
「彼らが出したのは、聖騎士のみで軍を編成して備えること。聖騎士だけで事が済めば、王国は軍事力を削らずに済むから。あいつら、セイレがいたらそんな案恐くて出せないくせに!」
アストレイアがいたならば、大臣達は何も言わずにアルフレッドの意志に従っていたくせに、とベリーは言いたいのだろう。
アストレイアはアルフレッドを擁護していたし、政治に於いても多大な影響力があるくらい有能だった。
「私たちがここで話していても何も変わらない。結局会議はどうなったの?」
「なんだかんだ、陛下の案で可決されたよ~!」
「そう」
そっけないリリーの返事だったが、顔はどこか安堵したような表情を交えていた。
会議が終わったら軍部に通達がいく。そうなったらいよいよ「戦争」が始まる。自分はどこに配属され、どういう作戦に駆り出されるのだろうか。
この戦いに生き残れさえすれば、姉に報いる事が出来るだろう。
「……悪魔の言葉に惑わされてはいけない」
言い聞かせるように、剣を握る。片刃の剣は、静かに煌いていた。
* * *
「聖王国も大変なんだなあ」
二人と別れた後、ジークフリードはあてがわれた部屋には行かず、城内をぶらついていた。
通り掛かったメイドが彼に気付き、丁寧な物腰で声をかけてきた。
「ジークフリード様どちらへ? もうすぐ王から知らせがある筈ですので客間にご案内いたしますが……」
それというのも、ノーブル皇家の祖先は「精霊」であり、皇族並びに国民はその精霊の血を持つ。精霊への語り掛けは媒介や、技術ではなく血統のみに左右される。
精霊に認められなければ、彼らの姿を見ることはかなわない。
「皇帝は貴方がここに来ることを心配したんじゃないのか」
「あーそれはない。関係ないよ。ぜんっぜん関係ない」
吐き捨てるようなジークフリードの言葉を、リリーは表情も変えず黙って聞いた。
長い階段にようやく終わりが見え始め、城内部に入ると豪華な彫像が二人を迎えた。まさに権威の象徴ともいえる獅子の像が立ち並び、汚れひとつない赤絨毯は王の間へと続く。
天井を見上げれば、透明なガラス。支えるように這う、白い装飾の蔦。隙間からは青い空が見える。
回廊には、まばらに大臣達や議員たちの姿が見える。それぞれ難しい顔をしたまま、二人を気にもせず通り過ぎていく。
「大佐はどうにも若すぎる」
ぶつくさと文句を言いながら横を擦り抜けていく大臣達の言葉を、リリーはさほど気にはしなかった。
そんな雰囲気を打ち壊すかのように、前方から前のめりに走り接近してくる人物がいた。
「リリ~!」
それは、先程街で別れたのベリーだった。嬉しそうに、リリー達の元に走ってくる。
「神出鬼没ね貴方」
「会議の内容を諜報してた!」
「そういうことを大声で言うのやめなさいよ」
「それよりさぁ大変だよ。会議聞いてたら……あれ?」
はた、とベリーは動きを止める。傍らにいる人物を見ると目を丸くした。
「じぃ!!」
「誰がじぃだよベリー」
明らかに自分を馬鹿にした発言に、不機嫌に眉をしかめるとジークフリードは腕を組んだ。
ベリーはそんなことはおかまいなしだ。
「てか何その見た目。相変わらずの若作りだよね。純粋な魔法使いって怖い」
「なに? じぃ喧嘩売ってんの~?」
二人が犬と猿のように睨み合い火花を散らす。リリーは頭を抱え深くため息をついた。
「で、ベリー。一体何が大変なの?」
するとベリーは急に表情を変えた。困ったように眉を下げながら。
「それがね。今終わった軍事会議の席で、アルフレッド陛下と大臣が衝突しちゃってさ」
「陛下と?」
リリーは表情を変えた。
ジークフリードもまた、ただ事じゃないことを察知したのか真剣な顔つきになる。
「…………あ、えと」
ベリーはそこからさらに深い続きを話そうとしたが、ジークフリードを見て少し口ごもった。
それを察したジークフリードは、「ああ」と腰に手を当て首を振った。
「別に他国の情報なんか興味ないし、報告するつもりもないけど。話しにくいんなら消えるよ」
「ごめんね、じぃ」
「まだ言う?」
額に青筋を浮かべながらも、ジークフリードは二人に背を向け長い回廊を進んでいった。
ジークフリードが少し遠くに離れたのを確認すると、ベリーは少し声を押さえ気味に話し始めた。片手を口元にあて、いかにも内緒の話のように。
「軍事会議では、聖騎士の軍の編成と、ヴァイスへの先制軍をどうするかって話だったの。アルフレッド陛下は、当初予定していた聖騎士だけの軍勢を送り込むより、上位騎士や聖王国の軍幹部を司令塔とした混合部隊を幾つか編成する案を出したわ」
「大佐が緊急会議で唱えていた案よりはよっぽど使える」
頷くリリーに、ベリーもまた同意した。
「私もそう思うよ。国議院議長も賛成したの。でもさ、ぶっちゃけ聖王国の内部ってここまで分裂してたっけ? て感じの軍事会議だった」
「あの人は優しすぎるのよ」
そうなんだよね、とベリーは頭を抱える。
「国議院と元老院は違うから……。国議院は国議院議長バロン様を中心に新体制を唱える革新派だけど、元老院は旧王家の血を引く化石の集まりみたいなもんだから。自分達の意見が通らないと嫌なのよ」
淡々と語るリリーは、話しながらも思索にふける。
「今の聖王国は二つに別れてるよね。アルフレッド陛下の意志を尊重する新体制の国議院と、旧体制の元老院。こんなときなのにさ」
「で、アルフレッド陛下の意志に反した元老院はどんな案を出したんだ?」
「彼らが出したのは、聖騎士のみで軍を編成して備えること。聖騎士だけで事が済めば、王国は軍事力を削らずに済むから。あいつら、セイレがいたらそんな案恐くて出せないくせに!」
アストレイアがいたならば、大臣達は何も言わずにアルフレッドの意志に従っていたくせに、とベリーは言いたいのだろう。
アストレイアはアルフレッドを擁護していたし、政治に於いても多大な影響力があるくらい有能だった。
「私たちがここで話していても何も変わらない。結局会議はどうなったの?」
「なんだかんだ、陛下の案で可決されたよ~!」
「そう」
そっけないリリーの返事だったが、顔はどこか安堵したような表情を交えていた。
会議が終わったら軍部に通達がいく。そうなったらいよいよ「戦争」が始まる。自分はどこに配属され、どういう作戦に駆り出されるのだろうか。
この戦いに生き残れさえすれば、姉に報いる事が出来るだろう。
「……悪魔の言葉に惑わされてはいけない」
言い聞かせるように、剣を握る。片刃の剣は、静かに煌いていた。
* * *
「聖王国も大変なんだなあ」
二人と別れた後、ジークフリードはあてがわれた部屋には行かず、城内をぶらついていた。
通り掛かったメイドが彼に気付き、丁寧な物腰で声をかけてきた。
「ジークフリード様どちらへ? もうすぐ王から知らせがある筈ですので客間にご案内いたしますが……」